11.フェーズ・ワン《第一段階》
長方形型の巨大飛行船である、空を駆ける輸送機『MC-Salvage』の中はといえば、縦に長い体育館のような構造になっており、魔法大学の一学年全員を乗せるには十分すぎる大きさを誇っている。
本来は荷物を大量に詰め込んだりするのだが、今回の作戦は参加者が何百人規模に及ぶ大掛かりなものではない。そのため積み込む物品も少なく、より多くの人を乗せることができる、とのことらしい。
日本との時差があり、朝に出発したにも関わらず、外は真っ暗な夜で覆われている。
しかし、機内は照明のおかげで普通に明るい。ここまで明るいと遠くからも目立つだろうが、そもそもこの輸送機自体があまりにも大型なので今更灯りを消したところで意味もないだろう。
とはいえ。
「流石は『一撃迅雷』、アタシの攻撃がまるで当たらねえ。……だが、面白くなってきたなああああああッ!?」
「『人形喰い』、アンタもなかなかやるじゃない。面白くなってきたよ、久々に」
また一方では。
「くっくっく……。われがここまで、手札を温存してきた理由。喰らうがいい――『革命』ッ!!」
「甘いよ、些蜜さん。あなたの考えは読みやすすぎるもん。――『革命返し』っ!」
「んなッ、われの至極完璧な計画がああ……」
それらを見つめ、うんざりため息を吐く者もいた。
「……騒がしいな。緊張感が足りていないのではないか?」
「そうですね、『妖精王』。これから戦地に赴くというのに」
……そんな、まるで修学旅行のような光景も、二年生全員が乗り込むことになる帰りのフライトではきっと見られないだろう。
作戦に参加する数十名と、作戦に必要な物資しか載せていないためにスペースが余りまくっているからこそ、バトル漫画よろしくの目にも止まらぬ肉弾戦だったり、広々としたスペースを贅沢に使ったトランプゲームができている訳であって。
二年生全員、大体千三百もの大人数がこの輸送機に乗り込めば、満員電車とまではいかないとしても、相当窮屈な空間になってしまうのは分かりきっている。
とそんな喧騒の中、機内に響き渡るアナウンスが作戦の始まりを告げる。それは同時に、アメリカの領空へと突入した合図でもあった。
『間もなく《第一段階》を開始します。各員、配置につくように。繰り返します――』
ここにいるのはやはり、学生とはいえ『戦場』を仕事場とする人々だった。
まるで何かのスイッチを押されたかのように、この場の空気が一瞬にして切り替わる。
一気に静まり返った機内では、ついさっきまでは和気あいあいとしていたはずの人々さえも、次々と装備を整えて戦闘準備を終える。
不安を紛らわせるため、傍からその光景を眺めていた圭司も気持ちを切り替えて。
「さて、俺たちも行こう。……第一段階じゃ、そこまで出番はないとは思うけど」
第一段階の目的は『アメリカ国内への突入』。
この輸送機の前を、二人乗りの魔力戦闘機『MF-Blaster』が飛んでいる。
乗っているのは彼と同じチームのリーダーを務める講師、小夜琴音が機体の操縦と基本的な攻撃を行い、一ノ瀬香凜が攻撃の補助、索敵や魔力装填等をする――と今朝配られた作戦の詳細が書かれた数十ページにも及ぶ分厚い書類に記載されていた。
目的は、この輸送機『MC-Salvage』を空港の北側にある公園へと着陸させるために安全を確保すること。
そして、その輸送機に乗る彼らだって当然、ただ見ているだけではなく可能であれば援護射撃、最低でもこの輸送機に向けられた攻撃は自分たちで守らなくてはならない。
輸送機の側面にずらっと並んだ、閉じていた小窓が一斉に開け放たれる。激しい突風が機内で暴れまわっているが、それに逆行するような形でそれぞれが窓の元に走り、圭司と納乃も含めた攻撃組が配置につく。
『MC-Salvage』自体は輸送機であり攻撃手段を持たないため、攻撃や迎撃は乗っている魔法師、人形師らが直接行う必要がある。
この輸送機については、本来ならばもっと多くの戦闘機やらなにやらで守るのが普通なのだが……この作戦の参加人数が魔法人形を含めて二十四名と、輸送機の中に残らなければならない人員も考慮すれば、この大きさの輸送機を守るには圧倒的に人手不足だった。
遠距離攻撃……圭司や納乃の魔法銃ならば、この窓から身を乗り出して攻撃はできるだろう。ただ、シエラの場合は剣を使った近接戦しかこなせない。
もちろんシエラだけでなく、有栖だって影と槍を使った近接戦を得意としている魔法師であり、『妖精王』と呼ばれるSランク人形師、飾見透夜も人形師本人はあくまでサポートであり戦わない。他にも同じような人はいるだろう。
そんな魔法師や人形師、そして直接戦闘を行わず、機材や装備、様々な調整等を専門に行うチーム『X03』の研究者だったりは何をするか。いわゆる『偵察組』は、それぞれ画面のついた『コントローラのようなもの』を持っていた。
それと同時、輸送機の周りにはまるで目玉のようないくつもの球状の金属体が、人の意思を持ったかのように飛び回っていた。
……軍用の偵察ドローン。ある程度の耐久性を持ち、その小ささを生かして最大時速五百キロで飛び回ることができる、現代――三十年台の技術にしては珍しく『魔法』が一切介入していない、純粋な科学のみによる産物である。
「――本機を中心にして十時方向、敵機を発見。攻撃、来ますっ」
『索敵組』が複数のドローンで索敵を行い、『攻撃組』がその情報に応じて攻撃を行う。
また、索敵した情報は小夜琴音と一ノ瀬香凜が操縦する魔力戦闘機『MF-Blaster』にも伝わるので、それらの情報を用いてアメリカ軍を迎撃し、周囲の安全を確保する。……これが本作戦の第一段階だった。




