8.日常を取り戻すため《非日常へ》
「食料とか、その辺りは全部支給されるらしいし……着替えだって、基本制服だろうから下着類だけだし……。海外に行くってのに、意外と準備することって少ないのか?」
行く先々で使う物品、食料なんかは大学側で全て用意しているらしく、シャンプーとか洗面用具だとかに拘りがあるならばともかく、特にそういった拘りのない圭司たちにはわざわざ買い足したりするまでの準備は不必要だった。
パスポート類だって、旅行に行くんじゃあるまいし当然必要ない。まだ本格的じゃないとはいえ、戦時中の国に違法入国するうえでパスポートなどただの紙くず同然だ。
準備することが少ないのはもちろん、ありがたいことではある。しかし、それはそれで不安要素にもなってしまうのが人という生き物であり――。
さっきからというもの、自宅に向けて歩く間も色々なことが気になって仕方がない。
「気になってしょうがない時に限って、だいたい何事もなく終わるんですよねえ……」
「ああ、確かに。家の鍵とか、ちゃんと閉めたかどうか気になっていざ戻ってみたら結局ちゃんと閉まってた……とか」
気にしすぎと言われるかもしれないが、一度気になりだしたら頭から離れなくなってしまうアレである。
気になっていることならば、それ以外にも延々と出てくる。
明日の出発までには終わると言っていた、些蜜繰亜に預けた武器の調整についてとか、統括会長の一ノ瀬香凜と結んだ『領域魔法』に関する協力関係とか。
怪我人にも関わらず、戦力として呼び出されている九鬼のことも気になるし、そんな彼女もまた彼と同じく個人的に用があるらしく一ノ瀬に呼ばれていた、というのもどこか気になった。
だが、一番気がかりなのはやはり――戦争にまで発展してしまったアメリカに渡ったきり、取り残されてしまった魔法大学の二年生。その中には、親友である一輝とリリアだっているのだから気が気じゃない。
向こうの情報だって、灯砥先生と魔法師の軍勢がぶつかっていた空港の防犯カメラ映像以来、何の情報も入ってきていない。当然、そこで何も起こっていないはずもなく、刻一刻と状況はうつり変わっていっているだろう。……良い方向にか、悪い方向になのかはもちろん分からないが。
だが、明日。自らの手で彼らを迎えに行くことができる。この目で、その見えない状況を確認できる。
当然、戦争中の敵国。しかも、現在も交戦中かもしれないど真ん中に突っ込んでいくという危険極まりない作戦であり、その恐怖は計り知れない。
だが、今はそれを上回るほどの『安心』も同時に感じていた。
……変わったな、とも思う。
きっかけはシエラとの出会いか、有栖との戦いか、それともMagiCAや神影機関との戦いか。色々と巻き込まれているうちに、いつの間にか。
以前の彼ならきっと、こう嘆いていただろう。『Fランクの俺なんかに……』と。どんな手を使ってでも、あの精鋭揃いのチームから逃げ出していたと思う。
だが、彼の元に降り注いだ数々の非日常を乗り越えた今なら向き合える。
「それにしても、戦争……ですか」
「戦争、ですね」
シエラと納乃が、分かっていることではあるものの、改めて再確認するように口に出す。そして、それを聞いた圭司も、自らの気を引き締めるように。
「……戦争でも何でもかかってこい。『底辺』なりに足掻いてやる」
日常を取り戻すために。彼らは再び、非日常へと突き進む。




