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7.薄暗い研究室《覚醒魔手》

 魔法大学の広い敷地内には、いくつもの建造物が立ち並んでいる。学生をターゲットにしたコンビニや飲食店なんかもあるので、まるで街の一角を切り取ったかのようにも感じられる。


 そして、講義室や今日用のあった統括会室など。学生と講師が共通して使うような施設は、大学の敷地中央に堂々と佇んでいる巨大な洋館のような『本棟』に集約されている。


 そこから少し離れて――本棟の外観、雰囲気をそのままに、二回りくらい小さくしたような建物がある。小さくしたとはいえ、十分大きな建物であることには変わりないのだが……そこは『研究棟』と呼ばれている。


 魔法研究科に在籍する研究者たちで構成される『グループ』ごとに割り当てられる研究部屋が、それぞれ百以上集まっているのがこの建物である。


 研究者ではない圭司(けいじ)納乃(のの)、シエラがその研究棟に足を運んだのも、とある人物から後で顔を出すよう言われていたからだった。


「失礼しまー……うわ、暗っ!?」


「ひええーっ、何だか異世界感がすごい場所ですねぇ……」


 その人物が待っているという、彼女の研究室の扉を開けると――その先には、灯りも点けずにカーテンを閉め切っているせいか、まだ日が昇っているにも関わらず薄暗い大きな部屋が広がっていた。


 だが、完全に真っ暗という訳でもない。何故なら、研究に使うであろうパソコンだったり、その他用途不明な怪しさ全開の機材だったりがゲーミングな七色に発光し、辛うじて本の文字が読めそうなくらいには視界が確保できている。


 他の研究者たちが使う部屋を見たことはないので想像にはなってしまうものの、この部屋が研究室としても常軌を逸した異空間であることは間違いないだろう。


 そんな部屋の先にあるデスクには、何やら作業をしている人影があった。


 ボサボサの肩まで掛かった髪に、魔法研究科においては制服と言っても過言ではないくらいに、研究者たちが揃いも揃って身に着けている『白衣』を纏った彼女が、こちらに気づいたのか振り向きざまに。

 

「われの研究室にようこそ、漣圭司(さざなみ けいじ)(なんじ)の来訪を心待ちにしていた」


些蜜(さみつ)さん。とりあえずここに来いとしか言われてなかったけど、一体何の……」


「ああ、そこのソファに腰掛けて待っていてくれ。今は少しばかり手の離せない作業中なのでな」


 見ると、応接室にでもあるようなソファ、長テーブルがあった。今回の彼らみたいな来客をもてなすための物だろう。


覚醒魔手(リベルブースター)些蜜繰亜(さみつ くるあ)。彼女が去り際に、一ノ瀬(いちのせ)との話が終わったらここに来るよう言われた際には、そこまで長くはならないから……とのことだったので彼としてはこのまま立ち話でも良かったのだが……。


 もしかして。長くなってしまいそうな前兆だ。

 


 ***



 他のチームメンバーといった姿はなく、この研究室には些蜜さん一人しかいなかった。最初は、たまたま彼女しかいないだけかと思ったが……どうやらそうではないらしい。


 軽く五、六人くらいが作業しても邪魔にならない大きさの部屋でありながら、その大部分は何らかの機材や資料だったりが占めており、他のチームメンバーが使っている形跡のあるデスクは一つもなかった。


「些蜜さんは、ここの研究室に一人で? 確かこういう部屋って、一つのチームじゃないと借りれないって聞いたことがあったから」


「ああ、確かにわれ一人で使っている。……かつてはここにも、チームメンバーがいたのだが」


 作業を進めながらも、彼女は途中から小さな声にうってかわって答える。


「ま、まあそんなことはどうでもよい。われの崇高な研究についてこられる者など、そういないのは当然だからな」


「些蜜さん、強がっt――」


「つ、強がってなんかないわああああああああああッ!!」


「ご、ごめんっ!」


 ――バチバチバチィィ!! と、動揺しているのだろう彼女の右手が青白く発光する。どうやら感情が高ぶると黒い義手が暴発して火花を散らす仕組みらしい。とてつもなく危なっかしい。


「さて、待たせてしまってすまなかった」


 些蜜が作業の手を止めて、圭司たちの座るソファの反対側に腰かけると、続けて本題へと入る。


「『特別作戦Xオペレーション・エクス』のチームにおいて。『水上の破壊姫(ハイドロブラスト)』『一撃迅雷(いちげきじんらい)』『妖精王(ティターニア)』ときて『多重接続者(マルチコネクタ)』とは少々力不足感が否めないのではないか、と思ったのだ」


 ぐうの音も出ない。このチームのそうそうたるメンバーを見てからというもの、自分でも全く同じことを考えていたからだ。だが、どちらかといえば場違いなところに無理やり突っ込まれたのはむしろ彼らであるので仕方がないだろう、とも思いつつ。


「そこで。そなたらは『武器』を使って戦うと聞いたのでな。少し見せて貰えないだろうか」


 突然で少し驚いたが、これから一緒のチームとして戦う仲間なのだから、別に隠す必要もないだろうと――圭司と納乃は魔法銃を取り出して。シエラは剣を鞘から引き抜いて、それぞれ長机に置く。


「ふむ。……魔法銃はリボルバー。しかし、ショップの特価セールで買った型落ち品といった所だな。その剣に関しても、確かに持ち主の魔力が通りやすいよう設計、加工が施されていてこだわりが感じられるが……まだまだ改善の余地はあろう」


 彼女の観察眼に、圭司は思わず息を吞む。


 研究者、それも武器や装備品の調整においては右に出るもののいない彼女ではあるが……それにしても、ひと目見ただけでここまで分かる物なのか、と。


 圭司と納乃が普段から愛用している魔法銃も、彼女の言う通り型落ち品。しかもセールで安くなっていた所を狙い目だと思って買ったことまで言い当てられてしまった。


 シエラの剣については、何度かメンテナンスをした経験と、光の力を抜きにしてもかつて人形喰いとして立ち塞がった有栖を剣で軽々と吹き飛ばしたり、シエラの手によく馴染んでいる様子から彼女に合わせて作られた剣であるのは間違いない。


 もちろん、その辺りは今は亡きシエラの生みの人形師――神影翼が一番よく知っていることなのだろうが、ここまで何度も命がけの戦いを共にしてきた圭司にもそこは何となく感じ取れる。


 そんなことまでも、彼女のもつ恐るべし観察眼によって簡単に言い当てられる。それだけでも、彼女が『覚醒魔手』という二つ名で呼ばれるほどの研究者である片鱗を感じられた。


 そのうえで、彼女は続けて。


「それらを一度、われに預けて貰えないだろうか? 周りの異名持ちにも埋もれない、そなたらだけの『強み』を活かした『境地』へと至る、そんな武器への『転生』をここに約束しよう」


 つまり翻訳すると。まるで別物かのように性能が爆増(ブースト)すると評判の『覚醒魔手』が直々に、武器の調整を行ってくれる……ということらしい。


 だが、彼女がさっき言っていたように。圭司や納乃が、何故そこらのショップでたまたま行われていた特価セール品を使っているのか。それは当然、これより良い装備を整えるための対価――つまりはお金がないからである。


 日々の生活費でさえ色々切り詰めて生活しているというのに、武器の調整を人に頼めるほどの経済的な余裕はない。


「……その誘いは嬉しいんだけど、今はお金もないし、とてもじゃないけど調整をお願いできるような余裕は――」


「われの求める対価は金銭などではなく――自らの認めた相手に、自らの欲望のままに調整を施す行為そのもの。われが調整した武器を使ってくれる。それが一番の報酬であり、われを満たしてくれる物」


 その心配はいらないと。根っからの好奇心からなる、彼女の熱く語るその姿勢に思わず圧倒されてしまう。そんな言葉は止まることなく――。


「……それに、われとそなたらは同じチームであろう。つまり、命を預けなければならない。主人公とその仲間で戦うRPGで、主人公だけに良い装備を買い続けてはパーティ全体の戦力は上がらない。それと似たような話だろう?」


 ここまで言われてしまうと、何も渡せないのに申し訳ないと思いつつも断れなかった。


「そういうことなら。二人も、些蜜さんに武器の調整を任せてしまって大丈夫かな」


「私は大丈夫です。……圭司さんに買ってもらった大切な魔法銃なので、どうか大切にお願いします」


「シエラも、このお方になら安心して剣を任せられるように感じました」


「じゃあ、些蜜さん。俺たちの武器のこと、よろしくお願いします」


「その言葉を待っていたぞ。ふっふふ……われの『漆黒の魔手』に全てを委ねよ、さすれば汝らの望む力、成就するだろう……ッ!!」


『覚醒魔手』――些蜜繰亜に彼らの身を預ける大切な武器を渡して、まるで異空間のような空気漂うその研究室を後にした。

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