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2.混乱せし学内《戦争前》

「なんというか……やっぱり慌ただしいですねー。本来ならゴールデンウィーク最終日だっていうのに」


「戦争、ともなればこんな物でしょう。大学に限らず、この国の至る所でパニックになっているらしいですから」


 納乃(のの)とシエラが、まるで迷路のような大学内の廊下をうんざりしたような調子で歩いている。


 さっきニュースでちらっと聞いた情報だが、戦争が本格的に始まる前に食料や生活必需品の備蓄や、その他やるべきことを終わらせようと国中の動きが活発になっているらしい。


 そのせいで、各地の交通機関はパンク寸前だし、道路もあちこちで渋滞中。スーパーからは商品が忽然と消えていく有様だという。


 それと同じ……とも言えないかもしれないが、戦争、それにおける招集が原因で、この魔法大学も軽くパニック状態になっている。


 つまり、目的の場所まで続く廊下は人だらけで、思うように歩けないのだ。


 普段は緻密に練られたカリキュラムで効率的に学内の施設を各クラスで分配しているのでこういった事態は起こらない。


 だが今は緊急時で、魔法大学の全学生が一斉に移動している。海外合宿で二年生が不在とはいえ、学生全員が一斉に動けばこうなるのも必然だろう。


 しかも、振り分けられたチームごとに集合場所も異なるらしく、それぞれ目指す方向が人によってバラバラだ。


 それも相まってか、より学内の混雑が激化しているとも感じる。


「……この防具、邪魔になってませんでしょうか……?」


「邪魔になっている、ってことなら心配はいらないと思いますよ。前のおっきな羽をつけた……『妖精王(ティターニア)』でしたっけ。よりはシエラさんもスマートですからっ」


 シエラが申し訳なさそうに、縮こまるような仕草をしながらも言う。


 確かにその鎧はかさばっているものの、この大学にはもっと奇抜な格好をした魔法人形を連れている人なんて珍しくもない。なんなら聖騎士のような風貌のシエラでさえ、まだスタンダードな方に分類されるだろう。


 少し先を歩いている人形師の男が連れているのは、見る者全てを魅了する虹色の羽を後ろに大きく広げた、神話にでも出てきそうな女性の妖精。


 そんな感じの魔法人形(ウィズドール)がゴロゴロとしているのがこの大学だ。


 とはいえ、あれはこの大学内でもかなりの有名人だったはず。二つ名は『妖精王(ティターニア)』……そのランクは学内最高評価のSランク。人形師として超エリート級の存在であることには間違いない。


 しかし、有名であるせいか根も葉もない噂さえ飛び交っている。ある程度は仕方がないことなのかもしれないが、彼とその魔法人形である『妖精王』に関してはその傾向がさらに著しい。


 Sランクというほんの一握りが辿り着ける頂点に君臨しているにも関わらず、経歴や交友関係などの情報に謎が多いことからあまり良いイメージは持たれていないのが災いしているのだろう。


 そんな彼と魔法人形が、とある部屋に入っていくのが見えた。大学の中心部に位置する、他よりも少しばかり高級感のある茶色のドアが目立つその場所は――。


「あれっ、『妖精王』が入っていったのって、私たちが向かってる場所と同じ『統括会室』じゃないですか?」


「ってことは、同じチーム……なのか? だとしたら心強いな」


 この大学に現在、人形師と魔法師を合わせても五人しか存在しないSランク。様々な噂などあれ、メンバーとして心強いのは確かだった。


「ま、俺たちも入るか。……失礼しま――」


 あまり深く気にしていなかった彼ではあったが、そもそもこの統括会室という場所は『警備会』『催事会』といった学内に数多くある組織、その全てを統括する、学生によって構成されている組織の中では最上位の組織だった。


 そんな特別感さえ感じるこの場所に集められるのが一体どんな面々であるかは、それほど想像に難くない。


 ドアを開けたその先で待っていたのは――さっき入っていったのをこの目で見たSランクの人形師『妖精王』に加えて、『水上の破壊姫(ハイドロブラスト)』『一撃迅雷(いちげきじんらい)』『覚醒魔手(リベルブースター)』といった名高い二つ名を持つ有名どころが大集結していた。


「し、失礼しましたー……」


 圭司(けいじ)は反射的に、開いたドアをバタリと閉じてしまう。


 とてもじゃないが、この大学における底辺中の底辺、Fランク人形師である彼が入るにはあまりにも場違いすぎる場所だった。


「け、圭司さんっ? いきなりどうしたんですか?」


「あ、ああ……多分集合場所を間違えちゃってたっぽい――」


 その瞬間、外れてしまうのではないかという勢いで、再び統括会室のドアが開け放たれる。……しかし、それは彼の手によるものではない。


 同時、部屋の中からある女性の声が飛んでくる。


「なーに逃げとんじゃあ『多重接続者(マルチコネクタ)』! あんたのチームはここでしょうがッ」


「ちょ、待ってえええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 目の前には『一撃迅雷』の姿があった。こちらをガシッと掴むやいなや、そのまま片手の力だけで統括会室の中へと彼の身体を放り投げられてしまう。


 この身に何が起こったのかを理解できたのは、床に思いっきり叩きつけられた後のことだった。


「――圭司さんっ!?」


 納乃がすかさずスカートの内側から魔法銃を取り出すと、その銃口を一撃迅雷へと向ける。


 しかし、向けられている当の本人は狙われていることさえ気にも留めず、自分で投げ飛ばした彼の元へと近づくと――。


「こんなのも避けられないなんてだらしないなあ……。ったく、男ならさっさと立つ! ほら、掴まって!」


 仰向けで倒れる圭司に向けて、その細い腕からなる柔らかな右手を差し伸べる。


「いや、頼架(らいか)の攻撃を見切れる人なんて、そうそういないと思うんだけど……。キミ、大丈夫?」


「は、はい……何とか」


 この騒ぎに誘われたのか、奥の方から水色の長いポニーテールを揺らしながら『水上の破壊姫(ハイドロブラスト)』までもが心配そうな表情をこちらに向けながら近づいてくる。


 しかし、今のは魔法を発動したようには見えなかった。ということは彼女の体術、単純な力だけでいとも簡単に投げ飛ばされてしまったらしい。


 そして何よりも速さが人間離れしていた。不意をつかれたとはいえ、その動きは最早残像しか残らないほど。少し前に戦った、金属を自在に操る魔法師であるシェロン・ルイスも大概だったが、彼女はそれ以上。


『一撃迅雷』の持ち味は、雷魔法を自身に施して反応速度を上げつつ、電気ショックも追加効果として与える体術であったはず。


 魔法を使わずともここまでの戦闘力を誇るのに、魔法を解禁されてしまえば一体どうなることだろうと想像するだけで、差し出された彼女の手を取ることに躊躇してしまう。


 しかし、彼女はそんな彼の手を強引に掴むと、ぐいっと引っ張られて無理やり起き上げられる。……何というか、ムチャクチャだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


「圭司様、お怪我は……」


「ああ、大丈夫だ。改めてこの制服の防御力を実感させられたよ」


 もしこれが戦闘用に作られた防護制服でなければ、背中が砕けて骨がボロボロになっていたんだろうなあと思うとゾッとする。


 そんな中、『水上の破壊姫』と呼ばれている水色髪の女性が、抜群のリーダーシップを発揮しながらも言う。


「さて。チーム『X01(エクス・ワン)』はこれで揃ったわね。これでも非常事態で、あまり時間もないんだから……早く席に着いてちょうだい」

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