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1.開戦《スタート》

『ボストンのローガン国際空港で起こった、日本とアメリカの魔法師による交戦について、アメリカ政府は「日本との協力関係の解消に向けて動いており、臨戦態勢にある」との声明を発表しており――』


 魔法特区の大学エリアに建つ、何の変哲もない一軒のアパート、その一室で。ひとりの人形師が、普段はBGM感覚で流しているだけのニュース番組に、思わず釘付けになって見入っていた。


 そんな彼の隣には、大学の指定制服を着た水色髪の魔法人形(ウィズドール)と、白銀の鎧を身に纏う聖騎士のような魔法人形も並んで、彼共々すっかりテレビ画面に夢中になってしまっている。


 画面には、空港の防犯カメラだろうか? ギリギリ何をやっているかが判別できるくらいに画質の荒い映像がループするように流されている。


 だが、思わず見入ってしまうのも無理はない。今後は科学と並んで人類の二大文明となっていくであろう『魔法』という技術を巡って、以前から世界情勢はピリピリとしていた。


 現に、国同士の戦争とまではいかない程度のいざこざは世界中の各地で数えきれないほど起こっていた。ただ、それらはどれも、メディアに露見することなく影で行われていたからこそ魔法世界の中で完結していた訳であって。

 

 ここまで世界中で大々的にこの映像が広まってしまえば、魔法も何も関係なく、国同士の戦争に発展してしまうのは時間の問題だ。それも、世界的にトップクラスの技術、戦力を持つ日本とアメリカという魔法大国同士で。


 ……しかし、彼がここまでニュースを気にしていたのは、単に戦争が始まろうとしているという理由だけではなかった。正直、戦争と言われてもあまり実感も湧かないし、個人で何ができるという問題でもないだろう。


 では、何故ここまでニュースを過剰に気にしてしまっているのか。それは――。


「あれって、……どこからどう見ても一輝とリリア、だよな……。それに、黒い革ジャンとドラゴンなんて組み合わせ、もしかしなくとも見覚えがあるし」

 

 繰り返し流されていたのは、アメリカの空港で起こった魔法師の一団と、人形師による交戦事件の一部始終だった。防犯カメラの映像であるせいではっきりとは見えないが――端の方で固まり待機しているのは、その見慣れた服装からして日本の魔法大学に在籍している学生だろう。


 そして、それを背後に守るような形で戦っているのは、黒い革ジャンを着た人間と、その隣には黒く小さなドラゴン。


 はっきりと顔まで見えずとも、その特徴からして誰かなんてわざわざ言うまでもない。彼も所属する魔法大学二年、人形師科下位クラスの主講師。……灯砥禊(とうと みそぎ)だろう。


「名目上はこの事件がきっかけに、本格的な戦争に発展するなんて言われてるけど、これって……」


 脳裏にちらつくのは、つい先日。アメリカの魔法機関、MagiCA(マギカ)の魔法師二人と交戦したあの記憶。


 国境を越えた魔法師同士の戦いは当然、国際問題にまで発展する可能性を孕んでいる。今までが『魔法』という枠組み内で抑え込めていただけであり、それにだって限界はある。


 この戦争が始まってしまったキッカケ、その一端はこちらも担っているのではないか。それだけの単純な問題ではないと頭では分かっていても、ついそう考えてしまう。


「でも、仕掛けてきたのは向こうですよ!? 応戦しなきゃ、こっちがやられてましたし……」


「シエラも、間違ったことをしたとは思いません。それが例え、戦争の引き金になっていたとしてもです」


 もちろん圭司だって、元の日常へみんなで笑って帰る為に戦ったことは、決して後悔はしていない。納乃やシエラを失うくらいなら、いっそ戦争など起こしてしまえとまで言い切れる程に。


 ……ただ。一つの日常を守ったことによって、もう一つの日常が脅かされるとしたら?


 具体的には、アメリカに海外合宿へ行ってしまった、親友である新井一輝を含む、魔法大学の二年生全員がその『戦争』に巻き込まれることになったら?


 強欲かもしれないが、そのどちらの日常も守りたい。だが、彼にはそこまでの力がなかった。そもそも、アメリカ行きの飛行機が飛んでいない以上、その場所に行くことすら叶わないのに。


 何もできずに、テレビの画面を見つめることしかできない自分が悔しくて、思わずギチリと歯噛みしてしまう。……そんな中。


「……?」


 ――ピロピロリンッ! というベルの音が、彼のスマホから鳴り渡る。メッセージアプリの普及により、あまり使うこともなくなってしまったメールが届いたことを知らせる通知音だった。


 未だにそんな堅苦しいモノで連絡してくる相手など、宛先を見るまでもなく大体予想は付く。


「大学から、か。何かしら来るとは思ってたけど……」


 送られてきたメールに、軽く目を通す。


『現在の対アメリカ情勢を鑑みて、当大学内の講師、学生で臨時のチームを結成することとする。尚、一度配属されたチームからの異動は原則認めない事とする』


 改行を挟んで、下には『あなたの配属チームは《X01》です。速やかに魔法大学本館・統括会室へ集合してください』――と、そこで本文が終わっている。


 国同士の戦争にもなれば、学生だろうと関係なく戦力として動員されるらしい。学生とは言えどその大学に通うのは魔法師や人形師、研究者であることには変わりない。貴重な人材であることは事実だ。


 本来ならゴールデンウィークの最終日で休みであって、しかもつい先日生きるか死ぬかの戦いを繰り広げたばかりだったのだが……こうなってしまっては仕方がないだろう。渋々、重い腰を上げて大学へと向かう事にした。

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