27.さようなら、生みの人形師様《決別》
心臓を貫こうとする炎槍を見て。当然有栖は反射的に避けようとする。しかし、そうすぐには身体が動くはずもない。
結局、あれだけ大口を叩いておきながら、ちょっとした油断でこれだ。つくづく、自分が嫌になってしまう。
才能のない人間が、無理をして力を手に入れた所で。初めから才能のある人間には勝てないのだと、そう痛感する。
(なに、アタシにはお似合いの最後じゃねえか。中途半端な人間が、中途半端な結果で終わって、結局何も残せねえ。初めから運命レベルでそう決まっていた訳だ)
せめて、最後に彼ら――ここまで連れてきてくれた人形師たちをこの戦場から逃がすことができた。それだけでも、自分の存在価値はあったのかもしれない。
一人では、こうして兄と直接対決に持ち込むことさえできなかったはずだった。ここまで力を貸し、連れてきてくれた、彼らへの恩返しくらいはできたのだろうか?
そんなことを考えながら、有栖は目を瞑り、最期の刻を静かに待つことにした。……死ぬ間際というのはこんなにも長く感じるのか、いつまで経っても、痛みも苦しみさえもやってこない。
「――はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
しかし、死ぬ間際に感じる錯覚だと思い込んでいたそれは、現実だった。
彼女の心臓を貫き、命を奪うはずだった炎の槍は、金色の輝きを放つ光剣によって受け止められていた。
その剣を握るのは――白銀の髪をなびかせ、白に金の装飾が施されたを鎧を身に纏い、その身体からは神々しいほどの光が溢れる――忠告通り、先に逃げてくれていたはずの存在。こんな自分でも助けられたと思っていた、数少ない命。
……人形師、漣圭司の魔法人形。シエラだった。
「シエラが一体、何をしたいのか。……やっと理解できました」
有栖の前に颯爽と立ち塞がる彼女は、炎の槍を軽々しく掻き消しながら言う。
「シエラを作り、そして弱いからと捨てた貴方へ。短い間ながらも圭司様と共に過ごし、ここまで強くなったんだと見せつけたかった。見返してやりたかった。これが、さっき貴方を見た時から晴れずにいた、心のモヤモヤの正体でした」
その凛とした佇まい、見る者全てを魅了するオーラ。その背で守られていた有栖は、思わず声も出せなかった。
それもそのはず、彼女が身に纏うその光は、さっき、大広間へ突撃する際に見たものとは似て非なる力だったのだ。エネルギー量も、放つ威圧感もケタ違い。それこそ、あの――。
(あれはまるで、アタシが手も足も出なかったあの光じゃねえか……)
対する、彼女を捨てた張本人である人形師、神影翼は冷淡に、こう返す。
「何かと思えば、失敗作か。……確かに、俺の知っているシエラでは引き出すことのできない出力のようだ」
しかし。……そう続けて、彼は。
「出来損ないの妹にも通じる事だが――生まれ持った能力で、その性能の限界が決まる。失敗作には失敗作としての性能しか見込めない。つまり。どれだけ足掻いても、シエラがこの俺を超えるなんて事は起こり得ない」
「下らない固定観念にとらわれて、哀れですね、最強の人形師。……だから、貴方は『最強』止まりなのでしょう」
「……失敗作の道具如きが偉そうに、不愉快極まりない」
「シエラは――圭司様と共に、貴方という壁を超えて見せる」
「作られた人形が、作った人間を超えられるだって? 思い上がりも甚だしい――」
彼は、詠唱も身体を動かすこともなく。人形師であるにも関わらず、一線級の魔法師に匹敵するほどの巨大な炎を一瞬にして生み出す。
それは、逃げる間もなくシエラを包み込む――が、やがて炎が治まったそこには――まるで扇風機の風でも浴びたかのような、清々しく平然とした佇まいの魔法人形の姿があった。
しかし、ここまでは想定内。そんな調子で、最強の人形師は続ける。彼の持つ『とっておき』を披露するかの勢いで。
「――覚醒烈火――」
――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!
空間の全てが『赤』で塗り潰された。
空間の全てを『熱』が支配した。
その気になれば、この世の理さえも覆してしまう――最強以前に、他の有象無象と比べること自体が無意味とさえ思えてしまう――そんな魔法。
そのはずだった。
しかし、その赤は、金色によってさらに上書きするように。再びその全てを塗り返されてしまう。
それは当然、呆然と座り込む有栖を守るような形で、その前方に立ちはだかっていたシエラが纏う光だった。
「な……『炎の領域』が……。やはり、それは神の――」
「最後に。シエラを作って頂き、ありがとうございました。……さようなら、生みの人形師様。――はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
彼女の握る光剣が、最強の人形師……神影翼を両断したことは、わざわざ言うまでもない結果、現実だった。




