26.その呪いを断つ為に《下剋上》
影を貫通するあの白い光の正体が、有栖が持つ特別製の槍、『輝槍・プラティウス』にも使われている魔合金、オルスエルゲンである事に気がついた。
星々が放つ光の力を用いるその魔合金が、一体どのような仕組みで――個人的には、あのモノクロのゴスロリ服を纏った魔法人形本体が怪しいと睨んでいるが――その力を放っているかは分からない。
プラティウスも、同等の力を。……もしくは、あれ以上の力を引き出せる槍ではある。しかし、それはいつどんな状況でも扱えるなんて便利な代物ではない。
だが、さっき感じた、槍が溶かされる感覚。防護制服を簡単に貫通するその威力。そして彼女がプラティウスを通して感じた力と同種の既視感が、そう言い切れる証拠だ。
しかし。白い光の正体が分かったところで、そのオルスエルゲンの光を防ぐ手立てなんて知る由もない。撃つ側が、まさか逆に撃たれた時のことなど考えているはずもない。
結局、オルスエルゲンだろうが何だろうが、対処のしようがない事には変わりない。……そう思っていた。
(待てよ。プラティウスと同種の力……って事はだ)
次々と放たれるレーザーの雨を避けながら、果たしてやって来るかもわからないチャンスをうかがっていた所で。ふと、ある事をひらめく。
ただ、ぱっと脳裏に浮かんだだけで、成功する確証もどこにもない。……しかし、この絶望的な状況下で、一度試してみる価値はある。
そう思い、有栖はひとまず近くの影へと潜りこんだ。
『第五陣・攻撃形態《白》』
当然、影に隠れればそこを狙って、向こうも動き始める。
別次元から塗りつぶされるような声と共に。六つの球体は、白いオルスエルゲンを埋め込んだ球体を中心として、五角形を描くように隊列を成し、集まっていく。
互いが助け合うかのように、全ての球体が同時に光を放ち始めたかと思うと――次の瞬間。
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
そこから放たれたのは、他の五つの球体による助力によって、さらにその威力を増した白いレーザー。
大きさも、速さも完全に別次元。触れたら死んでしまうどころか、そこにいたという事実さえ軽く消し飛ばされてしまうだろう。
当然、有栖もそのまま影に留まることはない。白いレーザーが放たれようとした瞬間に、バッと勢いよく飛び出した。
……しかし、それは白いレーザーを避けるためではない。むしろ、その逆――自ら、真正面へと向かっていった。
そんな彼女が、両手で力強く握りしめたもの。それは、
「その攻撃を待っていた――ッ!!」
もちろん、『輝槍・プラティウス』だった。
あの白いレーザーを放つ、球体に埋め込まれた白い宝石と同質の、全体が銀色で形成された魔合金の槍。その先端がレーザーと触れた刹那。
触れたもの全てを溶かして消し飛ばす、破壊の象徴が。まるでスポイトで吸いとるかのようにプラティウスへと飲み込まれていく。
そして、特定の条件――夜空に星が見えていることを満たしていないにも関わらず、その槍は白銀の光を纏う。
「ふっ、あはははははははははははッ!! どうだ? 才能がねえと見下していた相手に、ご自慢のお人形をブッ壊される気分はアアアアッ!!」
そして、彼女はその両手に握ったプラティウスを振り下ろす。
空間をも震わせる轟音と共に――槍の先端から、白き『破壊』が放たれる。
『第六陣・防御形t――
異次元から響くようなその声も上書きして。プラティウスの限界を超えたそれは、六つの球体による制止も無意味で、モノクロのゴスロリ服を纏うビスクドールの眼前にまで到達する。
「ま、とてもじゃないが……胸を張って誇れるような、キレイな努力だけでここまで来たなんて思っちゃいねえ」
ここに至るまでの自身の行いを振り返ってみても、我ながら誇れるような経歴なんて一切ない。
研究施設から『魔合金』を盗んだり、自身に後付けの『力』を組み込む禁忌を犯し、足りない魔力を『喰らうこと』で補って。
自慢げに語れるような話は一切ないと言っても違いない。それでも。
「アタシはこの瞬間――神影の血筋なんて呪いに終止符を打つ為なら何だってしてやると、心に決めたのさ」
どんなに汚れようと構わない。『才能』に囚われた、呪いとも言えるその名前をここで終わらせるために。彼女はただ、白き破壊を穿つだけ。
――ドドドドドゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
そして、六つの球体を操る核である少女をかたどったビスクドールは白に塗り潰される。
やがて、その破壊が止んだとき。……その先にはもう、そこにいたはずの人形の破片さえも残されていなかった。
この国で最強の人形師が作った魔法人形。あの威力でもケロッとしているんじゃないか――なんて不安が脳裏にあった有栖は、ホッとする。
……その、一瞬の油断に割り込むように。
「お前はその槍を壊されたら、はい負けですと降参するのか? それと一緒だよ、武器を壊したくらいで勝った気になられては困る」
隣で、囁くように言い放つ神影翼の声に気が付き、振り向いたときにはもう既に遅かった。
彼の右手から、今の一瞬で組み上げられた炎魔法による一本の槍が、防護制服を脱ぎ捨て、守りを失った彼女の心臓部を貫こうとしていたのだった。




