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25.六が織りなす陣形と《それぞれの破壊》

「フィア。さっさと片付けろ」


 神影翼(みかげ つばさ)の放った冷たい言葉に対して、返答はない。どうやら、彼の隣に浮かぶ魔法人形(ウィズドール)の名前らしいが。


 だが、彼も彼で、返答なんて余計な物は望んですらいなかった。彼が求めるのは、実際の行動、事象。


()()()()()()()


 モノクロのビスクドールは、まるで異次元から響くような声で、ただそれだけを口にした。……と同時。その周りに漂う、それぞれ色の違う宝石が中心に埋め込まれた、黒い六つの球体がこちらに近づいてくる。


 そして――ゴゴゴゴゴゴオオオッ!! 赤、青、黄色に紫、緑と白。六色がそれぞれ一本ずつの、カラフルなレーザーが至る方向から放たれる。


 対する有栖(ありす)は、それらを間一髪で避けると、影から二本の槍を取り出した。


「はあああああああああああああああああああッ!!」


 とりあえず、一番狙いやすそうな球体から潰そうと。一番近く……といっても、一歩踏み出さなければ届かない、青の球体に向けて飛び込んでいく。


 同時に、飛び込んだ後にかかる落下の勢いも乗せた、二本の槍による強烈な突きが、中心の青い宝石に命中する。


 しかし、直で喰らったそれは、砕けるどころか、些細な傷さえも付けることができなかった。


 逆に反動で、こちらの腕を痛めてしまいそうになる。


「やはり、本体を狙わなくちゃならないみてえだが……」


 狙うべきは、六つの球体に向けて指令を出している本体、モノクロのゴスロリ服を纏ったビスクドールの方だろう。


 ただ、ここから槍を投げても馬鹿正直に当たる訳がないし、無駄に手数と槍を消費してしまうだけだろう。


 近付こうにも、あの球体による攻撃が放たれる中を突撃するのはリスクが大きすぎる。そもそも、あれを全て避けつつ安全に近づけるビジョンすら見えない。


 そうこうしている間に再び、六つの球体の中心に埋め込まれた宝石が発光を始める。


「ああクソっ、流石にマズイか……」


 このままでは、あのカラフルなレーザーに撃ち抜かれてしまうのも時間の問題だと考えた有栖は、一度下がることにした。


 ちょうど、大広間に置かれた機材が部屋の光を遮り、影を作り出していた。影は彼女のフィールドである以上、どんな攻撃も受け付けない。


「はあ、危なかった。あんなもんを一撃でも喰らったら、タダじゃ済まねえっての」


 影の中に潜り、束の間の安堵を享受する。影の外では、赤、青、黄――と次々にレーザーが着弾する。しかし、影の中は微動だにしない。


 あの得体の知れない宝石――おそらく、それぞれ別の魔合金(まごうきん)だと思われるが、もし本当にそうだとしたら、あのレーザーに軽く触れただけでも致命傷になりかねない。


 紫、緑のレーザーも、影の中には届かず、床に着弾して消散する。そして、最後の白いレーザーは――。


「っ、ぐああああああああああああああああああああああッ!?」


 影を貫通し、驚く間もなく有栖の左足を貫いた。


 悲痛な叫びと共に、彼女の潜んでいた影から表層へと、強引に引きずり出されてしまう。なんとか立ち上がろうとするところへ、追撃を加えるために。


()()()()()()()()》』


 異次元から響く声の通りに、六つの球体の中心、眼球のような色とりどりの宝石からそれぞれ魔力の刃が生成される。


 その六つの刃が、こちらを切り刻むべく、容赦なく向かってくる。


(他の五色はともかく、あの白い力は影じゃ防げねえ。影に影響を及ぼしたということは、おそらく属性は『光』だろう。しかし、どこか既視感のある力だが……)


 その既視感は思わぬ突破口となりえる可能性もあるが、思い出せない以上は仕方がない。考えるのは後回しにして、まずはこの刃を凌ぐことに集中するべきだ。


 ひとまず、もう一度影の中へと潜りたい。影を貫通して攻撃できるのは、あの白い刃だけのはず。潜ることさえできれば実質、相手にしなければならない刃は一本となり、たった今展開されている刃の攻撃だけは何とか凌ぐことができる。


 白いレーザーに貫かれ、軽く吹き飛ばされてしまったせいで、影には一歩届かない。しかし、ここで諦める訳にもいかない。


「……影がないのなら、作るだけだ」


 言いながら有栖は、自身の上着――魔法大学指定、水色と白の防護制服を乱暴に脱ぐと、すっかりシャツとカーディガンだけになってしまう。


 これで彼女の上半身に宿る防御力はほぼゼロになってしまったが、あのレーザーが足の防護機構を軽々と突破したのを身をもって体験した以上、もう必要ないだろう。


 そして、右手に持った制服を思いっきり上へ放り投げると――その下には当然、()()()()()


 しかし、即席で作った影はやはり頼りなかった。影を作る防護制服をどかされてしまえばそれで終わり、ということは彼女も理解している。


 当然、この影に留まるつもりは毛頭ない。彼女は、潜ったかと思えば――そこから勢いよく飛び出した。


 影の中なら、足がなくとも高速で移動ができる。その勢いを利用して、大広間にある機材が作り出す、さらに安定した影へと移動するのが目的だった。


 まるで海を泳ぐイルカのように跳ねた有栖に向けて、六つの刃が襲い掛かってくる。しかし、影へ潜ったついでに取り出した二本の槍で、何とか抑え込みながら。


 ――スウッ……と、目標だった影の中へ、再び潜ることに成功する。


「あとは白い刃だが、これも槍で抑えこめば問題ないな」


 入り込んだ影に向かってくる六つの刃。しかし、白以外の刃はこの影を貫通できないはず。つまり、六本ある刃も実質一本。これだけなら、有栖でも簡単に対処できる。


 白い刃が影に入ってくる直前で。槍だけをそこから出し、まっすぐに向かってくるそれを受け止めた――はずだった。


 しかし、槍には刃と鍔迫り合いをする、重たい感覚は一切なく。


(な、何が――!?)


 まるで槍が溶かされていくように、そして白い刃の突撃が止まることはなかった。


「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 半ばヤケクソで、白い刃が影に触れる直前。思いきり、どの方角に飛んだかさえ掴めないままに自らの身体を吹っ飛ばした。


 防護機能を有する衣服も、もうスカートとタイツしかないままに。硬い床へと叩きつけられたダメージは計り知れない。もちろん、あの白い刃の攻撃を直で喰らうよりは何百倍もマシだろうが。


 ただ、今の槍を溶かされた感覚で。さっき感じたあの既視感……そして、白い刃の正体については完全に目星がついた。あれは――。


「……オルスエルゲン」


 彼女もよく知る、ある一つの魔合金の名前をつぶやいた。

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