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24.天地の差《才能と努力》

 四発の魔力弾による、激しい光と衝撃が止み。


 階段を上がった先に広がる大広間には、数えるのが面倒になってしまうほどの黒スーツが倒れ、ここまで銃弾が飛び交う戦場を走っていたまでではあり得ないほどの静けさだけが、この場所に残されていた。


「は、はは……これをオマエらだけでやっちまった、って訳か……」


 倒れる黒スーツの数は、適当に数えてみても四、五十くらい。ちゃんと数えれば、恐らくそれ以上はいるだろう。マトモに突っ込んで、対処できるような数じゃない。


 それを、一人の人形師と、二体の魔法人形(ウィズドール)だけで、一瞬にして圧倒してしまった。後ろから見ていた有栖(ありす)も、ただ笑うことしかできなかった。


「はあ、はあ……大成功、ですねっ」


「ああ。ありがとう、二人とも」


 とりあえず、一つの難関は突破できた。


 有栖の爆弾で下層に多くの黒スーツを封じた時点で、大半の戦力は削っていたはずだし、ここまでの道のりでもかなりの数を撃破した。さらにはここで無力化した大量の敵。神影翼が所有する戦力については、もうほとんど削りきったと思って間違いないだろう。


 証拠に、地下一階は足音なんかもあまり聞こえないし、そもそも人の気配さえあまり感じられなかった。


「ま、見るにここでアタシたちを仕留めるつもりだったんだろ。あまりに戦力が集中しすぎているし、こんな騒ぎになってるにも関わらず、ここに誰かがやってくるような気配もない」


 一瞬、間を置いて。有栖は続けてこうも言った。


()()()()()()()()()()


 彼女の視線の先には――紛れもない、この監獄へと四人を閉じ込めた張本人と、その彼が従える魔法人形の姿があった。


 長身で、青紫色の髪をした、胸元には所属する機関のマークが刻印されたスーツを纏う人形師。


 等間隔に展開された六つの球体の中心に浮かび、佇む、モノクロのゴスロリ服を纏う、目を瞑り眠っているようにも見える魔法人形。


 共に、自身の戦力をほぼ全て削られたにも関わらず。それでも恐れるどころか、まるで興味深いものを見つけた時のように一歩、また一歩とこちらへ近づいてくる。


「予想外だったよ。まさか、妹と第一発現者(ファーストサンプル)が協力関係になったとはね。かつては殺し合った間柄(あいだがら)と聞いていたんだけど」


「よお、クソ兄貴。今の敵はオマエだからな。『利害の一致』ってヤツだ。オマエを殺して、神影もろとも消し去って楽になれるのなら、アタシは誰にだって助けを求めるさ」


 神影家の兄妹が、ここで対面する。しかし、互いに――身内に向けるものとは思えないほどの強烈な殺気を放っているのが、傍から見ているだけの圭司(けいじ)ですら感じられる。


「俺を殺す、だって? 面白い冗談を言うよ。神影家で唯一、魔法の知識も才能も何もない、空っぽのキミが、ね」


 神影翼(みかげ つばさ)は、(あざけ)るように続けて。


「二男は世界の均衡を守る秘密結社の一員、二女は高校生ながらも機関の隊長を務めている。そして、長女のお前には――一体何があるという?」


「魔法の才能がないのは認めてやる。だが、それが理由でアタシの自由を奪ったのは断じて認めねえ。……才能がないからって、努力の機会までもが奪われるなんて、そんな不条理をな」


 強気な口調で。しかし、有栖の目には、かつて『神影家の恥だから』――そんなくだらない理由で地下室へと軟禁されていた過去が頭をよぎり、思わず涙を溜めこんでしまっていた。


 それを振り払うように、有栖はぶんぶんと首を横に振り、続けて。


「一年と少しなんて短い間だったけど、アタシは自由を手に入れた。……見せてやるよ、才能はあとから補えるってコトを。ここで、オマエをブチ殺すことで証明してやるッ」


「魔法の実力は、生まれ持った才能によって決まる。努力で多少はごまかせても、所詮は背伸びをしているだけに過ぎない」


「なら、その古臭い価値観を綺麗さっぱりアップデートしてやるぜ?」


 二人の兄妹が繰り広げるその言い合いは、割り込んで止めようとさえ思わせない。まるで世界からそこだけ切り取られたかのような壁を築いていた。


 蚊帳の外に取り残された、圭司ら三人は、それをただ眺める事しかできなかった。そのことを改めて突きつけるかのように、有栖はふとこちらに向かって。


「……これはアタシの戦いで、一切手出しは無用だ。こっちの問題で、オマエらを危険な目に遭わせる訳にはいかねえしな。もう道案内もできねえが……先に逃げてくれ」


 そして、彼女は最後に。こう一言だけ告げた。


「――()()()()()()()()()()()()()()()()()


 有栖がここまで見せたことのなかった、それは最大級の笑顔で。


 圭司はこんな状況にも関わらず、彼女の整った顔立ちと相まって……綺麗だなと。心の中でそっと呟いてしまうほどの光景だった。


「そんなっ! 短い間とはいえ、ここまで一緒だったんですし。私たちだってたた――」


 納乃(のの)が慌てたように紡ぐその言葉を、圭司は遮って。


「……行くぞ、納乃。シエラも――ここは俺たちの出る幕じゃない。有栖に任せよう」


「ちょっ、圭司さん!? そんな、一人で敵うような相手じゃないってことくらい分かってるはずじゃ……」


「納乃様。圭司様も、恐らく何か考えがあっての事でしょう。……行きましょう」


 先に一人、さっさとこの場を立ち去ってしまった圭司の後を追うように。まだ納得のいっていない納乃と、それを引っ張っていくようにシエラが後を追い――やがて、大広間に残されたのは二人の兄妹だけになってしまった。


「たった一言で去ってしまうとは。手を組んだにしろ、結局はその程度の関係だったようだね? キミ一人で一体、何ができるというのか」


「いや、これはアタシから望んだコトに違いねえ。それに――」


 それは、強がりでもなんでもなく、有栖の本心だった。


 身内の争いに巻き込みたくもないし、何よりも。……ここは、自分の力だけで勝たなければ意味がない。それを、彼もきっと理解し、汲みとってくれたのだろう。


(ありがとな、漣圭司(さざなみ けいじ)。……アタシが全部終わらせる。後は任せてくれ)

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