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23.階上を目指して《光の三人》

有栖(ありす)。随分と走ってるけど、まだ上の階には行けないのか?」


 ――ギュインッ! 横からこちらを狙う黒スーツの男が拳銃を握る、その右手に向けて一発。魔法銃で撃ち込みながら、圭司(けいじ)が問いかける。


「この建物は地下がメインと言っても過言じゃない。おおやけにはできない物を隠すのには、このくらい広く、入り組んでいた方が都合がいいって事だろう」


 有栖が、目の前に立ちふさがる別の黒スーツに、まるで流れ作業のように影から取り出した槍で一突きしながら返す。


 確かに。さっきからやけに、分かれ道や曲がり角が多いとも感じていた。普通に使う分にはかなり不便そうな施設だ。


 しかし、わざわざここまでして隠したい物……となっては、納乃(のの)も気にならざるを得なかったようで。


「おおやけにできないって……。一体、ここには何があるんでしょう?」


「関わらないほうが身のためだ。国を代表する魔法機関の闇なんかに触れたら最後、もう後には戻れなくなるだろうし」


 納乃の純粋な疑問に対して、有栖は冷淡に、含みを持たせるかのように返した。


 それが何を意味しているのかは分からないが、少なくとも普通の人形師や魔法人形として過ごしたいのなら、絶対に触れてはいけない禁忌、タブーなのだろう。


「ともかく、そろそろ階段が見えてくるはずだが」


 有栖が言いながら、目の前の曲がり角を進むと――その先には、彼女の言った通り、地下一階へ上がるための階段があった。


「ずっと気になってたんだけど」


「……? どうしたんだ、急に」


 四人が横並びできるくらいには広く、昇り切るだけでもひと苦労するくらいには長い。そんな階段を一段ずつ昇りながら、圭司がふと、有栖に向けて口を開く。


「どうして脱出のルートをここまで正確に覚えてるんだ? さっきから悩んでいるような様子もないし」


「なんだ、そんな事か。()()()()()()()()を残しておいただけだ」


 言いながら、彼女が影の中から取り出したのは――目を疑ってしまうほどに小さな、そこにあると意識しなければ絶対に気づかない、極めて小さな砂粒だった。


「……微細ながらも、魔力を感じます」


 シエラの一言で、じっくりと観察してはじめて、やっと魔力を感じるような気もする。その程度でしかなかった。


魔合金(まごうきん)、オルスエルゲンの破片だ。輝槍(きそう)・プラティウスを作った時の余りだが、まさかこんな形で役に立つとはな」


 どうやら、有栖が地下三階の監獄エリアに運ばれるまでの間、この小さな砂粒をこっそりと配置していたらしい。


 この微弱な魔力を辿って、脱出ルートが分かるようにしていた。……どこまでも、抜け目のない魔法師だなあと感心してしまう。


「――一旦ストップだ」


 長い階段の折り返しに差し掛かろうとした直前で、有栖による静止の声が響く。


「恐らく階段を上がりきった所でわんさか敵が待ち構えているだろう。通り道である以上、爆弾は使えないしな……」


 この建物から脱出をする上で、必ず通らなければならない道。となれば、敵が大量に待ち構えているのも当然だ。


「ここはシエラにお任せください。光の力を解放して、火力で押し切ってしまえば……」


 シエラは、少し回復したと言っていたが……それでも、もうかなりの回数あの光の力に頼ってしまっている。


 先で待ち構えているであろう神影翼との戦いに備えて、温存しておきたい気持ちもあったが、そこへたどり着く前にやられてしまっては元も子もないのだって事実。


「……分かった。すまない、シエラ。力を貸してくれ」


「はい、それでは皆様は突撃の準備を。――()()()()――」


 シエラがそう声を発したと同時。彼女の身体に、金色の光が宿る。それはコンタクトを通じ、圭司と納乃にも流れ込んでいく。


「アタシとやり合ったあの時ほどの出力はないみたいだが。だが、それでも十分すぎるほどに圧倒的だな……こっちまで疼いてきちまう」


 言いながら、有栖は影の中からまた槍を二本、取り出す。


「正直、今でもこの力が何なのかはさっぱりだ。タイミングによって、出力も変わってしまって安定しない。でも今はシエラのこの力を信じるだけだ」


「……ですね。心配はいりません、だって……ここまで、何度も死ぬ思いをしてきましたけど、なんだかんだで乗り越えられたじゃないですか。今回だって、きっと」


 圭司と納乃がそう言いながら、それぞれ、金色となった魔法銃を()()取り出す。普段使っている魔法銃は一丁だが、シエラの光の力で補完すれば、もう一丁の魔法銃を生成できる。


 納乃が気づき、それを圭司が教わったものだった。圭司は初めてだったので、できるかどうか不安ではあったが……実際に二丁の魔法銃が手元にあったので、どうやら成功したらしい。


「俺と納乃で先陣を切る。二人はとにかく、俺たちの後ろを走って付いてきてくれ。……行こう、納乃」


「はいっ!」


 そして、両手に握った金色の魔法銃へ魔力を送りながら――地下一階へとつながる階段、その折り返しを一段ずつ飛ばしながら、全力で走り始めた。


 長い階段の終点で――ゴウッ! と、二人は一気に飛び出すと、その両手に充填された、金色のエネルギーを全解放する。


「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」」


 次の瞬間。――ギュギュギュギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!! と、四つの音が重複し、大地をも揺るがす轟音と共に。


 階段の先に広がっていた大広間が、金色の光によって、一瞬にして塗りつぶされていった。

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