21.かつての敵と共に《影中疾走》
「それじゃ、まずはこの鉄格子から抜け出す方法を考えなきゃいけないんだけど」
かつては敵同時だった九鬼有栖と、今度は仲間として共に行動することになり、早速。
この状況を打破するためにも、まずはシエラの光剣でさえ壊せなかった、この硬い鉄格子を壊すか何かして、抜け出す方法を考えなくてはならない。
……だが、圭司のそんな言葉を聞いた有栖は、どこか呆れたような調子で。
「まだそんな事を考えていたのか。そんな物はもうとっくに突破して、今は影に隠れながら地上階へと向かっている所だぞ?」
「……え? シエラの光剣でも壊れなかったのに、いつの間に……って、そうか」
よくよく考えれば、あの鉄格子には人こそ通れないながらも当然、隙間がある。
影の中に隠れながら移動できる彼女にとっては、こんなものでは足止めにすらならないのは言うまでもない。
では、何故彼女はここに残っているのだろう? という疑問が浮かぶが、それはそれでまた、影に対する対策を施した専用の場所に閉じ込められていたと考えられる。
……仮にそうだとしたら、今度は有栖が目の前にいる事が不思議になってしまうが、彼女もまた規格外の強さを持つ魔法師だ。何かしら打つ手があったのだろうと勝手に納得しておく。
「アタシたちが閉じ込められていた場所が、この施設の地下三階。そして、ついさっき地下二階に上がったところだ。地上階まで辿り着けさえすれば、地下とは違って逃げるルートも豊富だし、もらったも同然だ」
……ただ。そう付け加えるように、彼女は続けて。
「敵は神影翼だけじゃねえ。アイツが私的に動かせる戦力も、この施設に待機しているハズだからな。それらが全部襲いかかってくると思ったほうがいい」
「大体、どれくらいの数を相手にしなくてはならないのでしょうか?」
圭司も納乃も、当然気になっていた事だった。シエラが訊いていなければ、きっとどちらかが訊いていたかもしれない。
まあ、圭司はといえば、いくら神影機関のナンバーツーだとしても、人ひとりが動かせる戦力なんて大したこともないだろう……そう考えていた。
しかし、シエラの問いに対する答えとして、有栖から返ってきたその数は――彼の想像なんて軽々と超えてしまう。
「ま、最低五百は覚悟しておいた方がいいだろうな。場合によってはそれ以上かもしれない。……敵は魔法師じゃなく、ただ武装しただけの一般人が大多数を占めているってのが唯一の救いだろうな」
「ご、五百……ですかっ!? 聞き間違い、じゃないですよね?」
その数字に、思わず納乃も驚いてしまうが無理もない。武器を持った人間が少なくとも五百。場合によってはそれ以上。
それを、こちらはたったの四人で応戦しなければならない。
圧倒的に格上の相手と、一対一の戦いを繰り広げるのとはまた違ったベクトルの絶望感が重くのしかかってくるようだった。
「ラスボスが待ち構えている訳で、雑魚に構ってられるほど余裕はないからな。アタシらの場所がバレるまでは、このまま影で突っ切るぞ」
五百の兵でさえも、あくまで前座。乗り越えた先にはさらに、最強の人形師までもが待ち構えている。
これを突破するのでさえ一苦労なんて言葉じゃ済まされないのに、その先に待つ大物の為に、力を温存しておかなければならないのだ。
「……ところで、今の状況はどうなんだ? 俺たちには全く何がどうなってるのか、伝わってこないからさ」
影の中に突っ込まれた彼らは、外の状況が分からない。地上階に向かって全力で走っているのだろうが、影に干渉できないのでここはもう有栖に任せるしかない。
「この施設も広いからな。ま、恐らくオマエたちが想像してるであろう、狭い通路に肉壁が――状態にはなっていないから安心しろ。何人かがライトで照らして必死に探しているって所だ」
流石にそんな想像はしてねえよっとツッコミを入れようと思ったのだが、隣で納乃が『ギクリっ』みたいな表情になっているので、どうやら図星だったらしい。
「そうか。……このまま、ずっと見つからずに逃げ切れればいいんだけど」
そう思い、ふと声を溢すが、それを聞いた有栖は『何を馬鹿な……』といった調子で返す。
「それができれば、わざわざオマエたちに協力なんて求めてない。百均のライトで軽く照らされただけでも、簡単に引きずり出されちまうからな。思ってる以上に不便なんだ、この魔法は」
あの時、相手にしていた分には相当厄介な魔法だと思っていたが……そう万能でもないらしい。
周りの環境に左右される、というのが大きいだろう。特に影響するのは時間帯。
外で戦う前提として。
夜であれば、彼女のとっておきである『輝槍・プラティウス』だって使えるし、この世界全体が影のようなものなので、それを塗り替えせるほどの強い光がない限りは無敵といっても過言ではない。
それ以外の環境だと、必然的に彼女の隠れられる影は限られてくるので、やはり不便さは否めない。
「――ああクソ、言ったそばから。……気をつけろ、放り出されるぞッ!」
「……え? ちょっと待て、それはいきなりすぎ――」
圭司がその言葉を言い終える前に、黒一色だったその視界はみるみるうちに崩れてしまい――。




