Member4:『神影』さえも疎みし『影』
『――よかった、目が覚めたんですねっ』
……そんな声を遠くから聞いていたのは、ある一人の魔法師だった。
(誰が来たかと思えば、まさかアイツらとはな。アタシをこんな状況に陥れた張本人じゃねえか)
彼女は、その声を知っていた。忘れるはずもない、自身の力を過信した彼女を、あっさりと打ち破った――あの人形師と魔法人形たちだった。
(何でこんな所に来ちまったかなんてアタシには知ったコトじゃねえが……ま、アイツらだけじゃ、ここからは絶対に逃げられないだろう)
何せ、ここはとある機関のナンバーツーを務める神影翼が個人的に所有している施設の地下に位置する監獄で、閉じ込めておく人物に応じて臨機応変に構造を変えることで、確実に逃がさない造りとなっているのだ。
例えば、どんなに小さな隙間でも、『影』を通じて抜け出せる。そんな彼女を閉じ込めるための監獄では、小さな影さえも残さず潰す、激しい閃光が部屋の四方八方から常時放たれている。
彼らの場合なら、警戒すべきはあの得体の知れない光を纏った攻撃だろう。単純に魔法攻撃に対する耐久性を上げている、とかだろう。
(一度は失敗しちまったが、今度こそ。アタシは神影を潰す為に――まずは自由を手に入れる。どこまでも舐めやがって、クソ兄貴)
ニヤリと、鋭く突き刺さるような笑みを浮かべる彼女は、その金髪のショートヘアをかきあげるような仕草で同時に、彼女の手でも軽く握れば覆い隠せるほどの小さな鉄塊を取り出した。
金属製のピンを外すと、それを目の前の煌々と光る鉄格子に向けて軽く放り投げる。
――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
見ての通り、小さな『グレネード』だった。しかし、それは小さいながらも大きさに見合わない大爆発をもたらした。
「ふふ、あははははははははははははははッ!! 『プラティウス』にしろ、この小型爆弾にしろ。アイツは本当にとんでもない物ばかり作りやがる。脱出できた暁には、お礼に飯でも奢ってやらなくちゃいけねえなあ」
魔法大学にて知り合った、あの魔合金である『オルスエルゲン』を加工し『輝槍・プラティウス』をも作り上げた、彼女の相棒とも言えるその人物。
そんな彼女に、いざという時にと持たされていたのがこの小さなグレネードだった。
こんな小さい物が果たして役に立つのか? そんな心配はどうやら無用だったらしい。
「影さえ封じればアタシを止められるとでも思ったみてェだが。そんな程度でアタシが止まらねえコトくらい、オマエが一番分かってるハズだよなああッ!?」
まだこの建物のどこかにいるであろう、国最強の人形師へと向けて言い放つ。どうせ、この施設のあちこちに仕掛けられた通信機を通じて、安全地帯からその言葉を笑っているのだろう。
木っ端微塵に破壊された鉄格子をくぐり抜け、開戦の狼煙を上げるかの如く、彼女は声を上げる。
「さァて、人形師、漣圭司。あの時は敵同士だったが、今回は同じ『神影』を相手取って、共闘といこうじゃねえかッ!」
彼女のアイデンティティである『影』を取り戻した今、もう誰も彼女を止められない。
爆発の影響か、このフロアの電気も完全に落ちてしまった。……が、それが良い。暗闇こそが、彼女のフィールドなのだから。
そして、ひとまず――監獄に捕らえられている人形師と、良く言えば共闘し、悪く言えば利用する為に。彼らの声がした方向へ向けて、影の中を走り始める。




