19.捕われし三人《鉄格子奥》
「圭司さんっ! よかった、目が覚めたんですねっ」
「申し訳ございません、シエラが不甲斐ないばかりに……」
嬉しそうな表情で、硬い地面に倒れる彼を見つめる。そんな納乃とシエラに迎えられて、圭司は目を覚ます。
彼に残る最後の記憶では、MagiCAからの刺客、イレーネ・アルフィスと相討ちになり――そこで途絶えてしまっていた。
あれから何時間眠ってしまっていたかは分からないが、気づけばそこは窓もなく薄暗い、陰気くさい部屋だった。
部屋を仕切る黒い鉄格子が、この状況をはっきりと物語っていた。
「いや。二人は悪くないよ。それより、今の状況は……って、まあ大体予想はつくんだけど」
納乃とシエラが無事ということは、二人に任せた金髪碧眼の魔法師、シェロン・ルイスの方は何とかなったのだろう。だとすれば、こっちで相手にしていたもう一人。
何とか相打ちに持ち込んだつもりだったが、失敗していた。そこからなんやかんやあって、MagiCAによって捕らえられてしまった。大方、そんな所だろう。二人に合わせる顔もない。
「はいっ、では、簡潔に説明しますね。まず、ここは――『神影機関』の、もう使われていない施設、らしいです」
「……ん? 神影機関、だって?」
またどこから飛び出してきたかも分からない、そんな名前に思わず聞き返してしまう。
「はい。神影翼……神影機関のナンバーツーで間違いありません。……シエラを作った人形師ですから、間違えるはずもありません」
「シエラを作ったって……、待ってくれ、頭が痛くなってきた。神影機関ってのは、俺の思ってるそれで合ってるんだよな。なんでまた、そんな大きな機関が……」
神影機関と言えば、あの日本三大魔法機関の一つ。少なくとも、彼が知っているその単語は、これにしか当てはまらない。
「MagiCAと同じく、私たちの『多重接続』が狙いなのか。――はたまた、シエラさんが狙いなのか。はっきりとした目的は分かりませんが、多分こんな所でしょうね」
何を今更。……そう、圭司は憤慨した。『多重接続』の力が狙いならともかく、もしも一度捨てたはずのシエラを取り戻しにきたというのなら。そんな自分勝手は絶対に許さない。
確かに、シエラを作ったのはその神影翼という人形師なのかもしれない。
しかし、今はもう。シエラはれっきとした彼の魔法人形なのだから。もし奪おうというのなら、相手が誰であろうと守り切る。それだけだ。
こうなってしまった以上は仕方がない。この暗い場の空気を切り替えるように、圭司は。
「何となく状況は掴めた。とりあえずここから抜け出す方法を考えよう。この建物の内部構造とかは覚えてる?」
「すみません、私たちもここに閉じ込められる間は意識を失ってしまって……」
「そうか。まあ、あれば便利だって思っただけだから。一番重要なのは、どうやってここから抜け出すかなんだけど……。シエラの剣で切れそうか?」
「光の力が使える程度には回復したので、一応光剣を試してみましたが……びくともしません」
簡単に壊せるとはもちろん思ってはいなかったが、シエラの光剣でも壊せないとなると、いよいよ手詰まりな気もする。
詰みにしか見えないこの状況をどうするか。頭を抱え、悩む――その時。
――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! この建物全体を大きく揺らすような激しい衝撃、轟音が走る。……爆発だった。
「いやいやいや、今度は何だ!? もう、色々とありすぎて理解が追い付かないな……」
ここまでくると、『呆れ』という感情しか浮かばないんだなあと実感した。
「とりあえず皆様、警戒を。これほどの爆発です、建物が崩れる可能性もあります」
「警戒を……って、閉じ込められてるのにどうしろって言うんですかあっ! 崩れてきたら私たち、おしまいじゃないですか!?」
災難は次から次へとやってくる。次の瞬間――プツリと。辺り一帯の照明が全て落ちてしまった。
「ひゃっ!?」
「爆発の影響か、照明が落ちてしまっただけでしょう。落ち着いてください、納乃様」
とはいっても、いつ天井が落ちてくるかもわからない、次にいつ爆発が起こるかも分からない。そんな状況で、視界まで失ってしまえば焦ってしまうのも無理はない。
そんな中で、さらなる恐怖が襲い掛かってくる。見えない恐怖の、最初のターゲットは納乃だった。
「ひっ、誰ですか!? いきなり私を掴んだのは……って、ちょ、引っ張られて――」
そこで、納乃の声はピタリと途切れてしまう。
「納乃ッ! ……仕方ない、シエラ。光の力を――」
『させねえよ』
彼の声を遮るように、納乃でもシエラでもない、ある第三者の声が暗闇の中で響き渡る。
どこか聞き覚えのある声な気もしたが、今はそれどころじゃない。
「はい。光を……、ッ!? 地面の中に、引きずり込まれて――」
次はシエラまで。その声は再び、まるでその場から消えてしまったかのように途切れてしまう。
そして、最後に。彼の右腕が、何者かにがっしりと掴まれてしまう。暗くてよく見えないが、それが納乃やシエラの手ではないことくらいは分かる。
掴まれたまま、彼の身体ごと強引にねじ込んでいくように――自分が、どこか別の空間に引きずり込まれていくような。恐らく納乃やシエラが経験したものと同様の感覚に襲われて――。




