11.その痛みは告げる《二人目》
「さて、ここから北海道まで向かうには……と。新幹線が使えないって分かった途端に、絶望しかなくなったけど」
金髪碧眼の魔法師をなんとか撃退したまでは良かった。だが、本当の不運はここからだったのだ。
当然、さっきまで乗っていた新幹線はもう動かない。それどころか、あの事故の影響で後続の便も全滅だ。
学生である彼のお財布にも優しく、できる限り早く到着できる乗り物。……と言われても、何も思い浮かばない。
まず、飛行機はあり得ない。予約なしの当日券なんて買ったら、家計が火の車どころか大炎上するのは確実。
やはり、新幹線とは別の路線を経由して電車で向かうのが一番なのだろうか。
「私たち、着いてからのことしか考えてませんでしたけど。辿りつくのさえ一筋縄じゃいかないなんて、思いもしませんでしたよ……」
「突然新幹線がぶった切られて、アメリカからはるばるやって来た魔法師に襲われるなんてトンデモ展開、予測する方が難しいのでは?」
そりゃそうだ。こんなアクション映画みたいな出来事がそう現実に起こるなんて普通は思わない。
住む世界がまるで違う、歴戦の魔法師とかそういった人間ならともかく。こっちはただの学生だ。極限異能バトルファンタジーな異世界には生きていない。
今回の本題、MISysの壊滅という仕事だけでも十分な重荷であるにも関わらず。どうしてこう、まったく関係のないトラブルまで次々と飛び込んで来るのだろうか。心底うんざりしてしまう。
人形喰いに、多重接続者。今回の仕事もそうだし、MagiCAからの刺客まで。二年生に上がってからというもの、そんな面倒ごとに巻き込まれることが増えてきたようにも思えるが、どうか気のせいであってほしい。
***
……さて、話を戻そう。
ただでさえ、今回の作戦には時間の余裕がない訳で。他のみんなが海外合宿に行っている期間。つまりは今日と帰りの日を含めた五日間で、今回の仕事を完遂しなければならない。
魔法という、科学とは対極的なイメージが世間的には根付いている、そんな分野に携わる彼ではあるが……。やはり、根本的には現代っ子である。
スマートフォンのマップだったり乗換案内アプリだったりを駆使して、何とか北海道までの道のりは検索できた。
便利なもので、動いていない路線は自動的に除外してくれる。よって、彼がしたのはただ目的地を入力してボタンを押しただけ。
魔法もそこそこ便利だとは思うが、やはり戦闘手段を主として発達したものである以上、便利度合いで言えばやはり科学には勝てないんだなあ、と再確認させられる。
で、肝心の検索結果だったが……。
「……ここから徒歩で四時間だ」
「なるほど。確かに遠いですけど、私は平気ですっ」
「シエラもこの程度、どうってことありません」
「俺が歩けねえよっ! さっきまで全速力で逃げた挙句にあの魔法師と一戦交えて、ここからさらに二十キロ近く歩かされるとか、想像しただけで目眩がする……」
仮に歩いたとして、もう時刻は十二時を回りそうだ。ここから四時間でもう夕方。なのに、それは北海道まで向かう旅の再スタートラインでしかない。
今日中に到着するのはもう絶望的だろう。少々値が張るが、夜行バスなんかも視野に入れないと、本当に四日後の帰る予定に間に合わなくなってしまう。
「でしたら、シエラが圭司様を背負って走ればすぐです。さ、背中にどうぞ」
すると、シエラがその場でしゃがんで、両手を後ろに。小さな子供をおんぶするかの調子で、手をくいくいっとしている。
確かに理にかなっているかもしれない、が、それだけは却下だ。いい大学生が、女の子に背負われて走っているなんて嫌すぎる。……と、思った。
「待てよ。ここは車通りもあまりないし、知り合いだっていない。少しくらい、甘えてしまってもいいんじゃ……?」
「圭司さんっ! それなら私もおんぶします。運動会の騎馬戦みたいにすれば、きっと快適な乗り心地に――」
「いや、危なく流されかける所だったけど。見られてなくたってこれはダメだろ」
ええー、と残念そうにしている二人。もしかして、魔法人形にとって人間の歩く速度は遅すぎてうんざりしているとか、そういったことだろうか?
……なんて、考えた直後の出来事だった。
「ほら、歩くぞー。今日中に到着は難しいにしても、歩かなきゃ始まらないん――がああああああああああああああああああああああッッ!?」
左肩に、焼けるような激痛が走ったのは。
「圭司さんっ! 攻撃は……あの森の奥からです!」
あまりに突然の出来事で、頭の回転が追いつかない。が、ほとんど直感で脳裏へと、少し楽観的にも思えるような、ある言葉が浮かび上がってくる。
……また本来の目的から一歩、遠のいてしまった……と。




