10.機関は国境を越え暗躍す《MagiCA》
「圭司さんっ! ごめんなさい、私たち、早々に捕まってしまいました……」
「すみません、シエラがあの鎖を切ってしまったばかりに……」
三カ所も貫かれた痛みによって集中力が途切れ、液体状の金属を自由に操る魔法も解けてしまったのか。納乃とシエラを縛っていた鎖も解け、自由を取り戻した二人がこちらへやってくる。
「誰も怪我なく終わったんだ。そんな細かい事、どうだっていいさ。それより――」
圭司は、地面にうつ伏せで倒れる、金髪碧眼の魔法師。
あまりに必死で相手の服装まで気にしている余裕はなかったが、青いパーカーに極端に短いショートパンツという、肌の露出が多く戦闘には適していないような、そんな服装の魔法師に視線を向ける。
「俺たちを狙うってことは、どこかの研究機関にでも所属している魔法師って所か。それに、見た感じ日本人じゃないようだし、まさか外国からわざわざやってきた……ってのか?」
「ええ、そうよ。研究機関ってのはちょっと間違いだけど。MagiCAって名前くらいなら、いくらお子様とはいえ、聞いたことはあるわよねぇ?」
「MagiCA……。アメリカか」
いくら日本の外についてはそこまで興味もなく、海外の知識には疎いという自負がある彼でさえ、その機関の名前くらいは知っていた。
何故なら。それは、日本で言うところのノーレッジやMSMS、神影機関といった、いわゆる『三大魔法機関』のように。その国の魔法事業を根幹を支えるレベルの国を代表する機関がある。
その代表的な魔法機関を、アメリカで挙げるとするならば。真っ先に名前が出るのはここだろう。
『MagiCA』……優秀な魔法師や人形師の人材を多く保有しているのはもちろん、魔法の研究から生活への応用まで。
魔法にかかわる事ならばどんな事だってするし、どんな分野においても世界トップレベルの力を誇る。それが正式名称『Magic Company of America』――略して『MagiCA』と呼ばれている機関なのだ。
つまり。世界的に見てもトップクラスの魔法機関からやってきたのが、この金髪碧眼の魔法師。
そう考えれば、あまりに理不尽で反則じみたこの強さも納得だ。こうしてたまたま、守りが手薄になったおかげで倒す事ができたものの。
もし、こちらを捕えるのではなく、こちらを本気で殺しに向かってきていたら。手も足も出ないうちに、一方的に殺されてしまっていただろう。どうなっていたかなんて想像もしたくない。
「……もう俺たちを狙わないというのなら大事にはしないし、救急車くらいは呼んでやる。……どうするんだ?」
文句は一つや二つどころの話ではないのだが、こっちだって早く北海道まで向かわなくてはならない。本筋に関係のないトラブルに時間を割いている暇はないのだ。
道路に立つ青色の案内標識を見たところ、どうやらここはまだ東北地方らしい。海すら超えていないんだぞ。
予約してあった新幹線はもう真っ二つで、当然もう乗ることはできないにしろ、どうにか北海道までは辿り着かなくてはならない。
何せ、進級の為に必要な『単位』へと直接関わる問題だ。スムーズに事を済ませられるのなら、それに越したことはない。……しかし、血を流して倒れる彼女は――。
「結構よ。アナタのようなお子様に頼るなんて、アタシのプライドが絶対に許さないもの」
「そうか。それならこっちも好都合だ。あいにく俺たちにはあまり時間がないんだ、遠慮なく先に行かせてもらう。……納乃、シエラ。行こう」
このまま放置してしまえばきっと、彼女は出血多量で死に至るだろう。しかし、彼女自身が望んでいるならともかく、拒否しているところを無理やり助ける義理も余裕もない。
まるで見捨てるかのように、その場を立ち去ろうとする。そんな自分の行動に対して『冷たい』と思ってしまった。
しかし、魔法師や人形師という括りで見れば、それはいたって普通の行動ではある。敵にまで情を抱くなんて、愚の骨頂とも言える行為なのだから。
故に、彼は心を氷のように冷たくして。魔法人形の二人を連れ、その場から静かに立ち去った。
***
とある田舎のあぜ道に、一人残された金髪碧眼の魔法師。何とか精神的にも落ち着き、魔法を行使できるまでに回復した。そんな彼女は、自身の血によって汚れたその手で、服のポケットから文明の利器であるスマートフォンを取り出した。
「とりあえず、イレーネには連絡しないと。はあ、あれだけ大見得を切った挙句、このザマだもの。ダッサいわよねぇ……アタシ」
今も激痛が走る中。まるで一昔前のガラケーみたいな、背面がラインストーンで煌びやかにデコられたその端末を操作して、別行動をしていた相棒であるもう一人の魔法師へと電話を繋げる。




