9.絶対を超える《万能》
「――『メタル・オペレータ』。アタシの鎖となって、全員まとめて捕縛しなさぁい?」
銀色の盾がみるみるうちに、長い、金属の鎖へと形を変えていく。たったひと声で、金属を自在に操る――それが、相手の得意とする魔法らしい。
そして、彼女が金属に向けて命令した内容はどうやら『絶対』らしい。現に、シエラをトリガーとしたあの光を纏った攻撃さえ、言葉通り防がれてしまったからだ。
「納乃、シエラ! ……来るッ!」
彼女は続けて、銀色の鎖でこちらを捕まえるよう指示をした。グインと伸びたその鎖は、まずシエラに向かって飛んでいく。
三人に宿る金色の光のトリガー。そして剣を扱う、つまりは前衛でもあった。一番最初に狙われるのも順当だった。
「絶対に守ってくれる盾……ではないのなら。この剣で切れるはず」
今はもう、盾から姿を変えている。あの鎖には、彼女を守ってくれるという絶対は残されていない。光の力も乗せた一撃で、切れないはずがない。
スパン――ッ!! 当然、銀色の鎖はシエラの攻撃によって、真っ二つになった。
……ただし。その鎖が、シエラを捕まえようとする動きだけは止まらなかった。
二つにちぎれた鎖の片方がシエラの両足に巻き付き、蛇のようにくねくねと這い上がると、剣を握る右手も封じる形でさらにきつく縛り上げる。
唯一、自由な左手で鎖を引っ剝がそうと試みるが、当然縛り上げる力の方が強く、びくともしない。
シエラの動きが完全に封じられた。――しかし、それだけに留まらない。それは、シエラが真っ二つにした鎖、そのもう片方にて起こっていた。
「――んぐッ! そんなっ、ちぎれたもう一方の鎖まで……っ」
切り離されたもう一方の鎖は、そのまま地に落ちることはなく。納乃に向かってさらに加速していくと、シエラ同様、まずは足から。続いて両手と動きを完全に封じられてしまう。
必死にもがけばもがくほど、その鎖が締めつける力は強くなっていく。
「……残るは人形師、アナタだけみたいねぇ? 魔法人形が戦えなくなった今、どう足掻いたところでアタシには敵わない。大人しくついてきてくれるなら、これ以上危害を加えないと約束するわ」
降伏、か。……そんなこと、できるはずがない。
戦える最後の一人となってしまった圭司は、魔法銃へと魔力を込める。金色となったそれは、溜められる魔力の量が圧倒的に増えているのに加えて、同時に光の力も放つことができる。
降伏なんてする気のないと分かった彼の姿を見て――対する彼女は、軽く舌打ちをしながらもう一つ、瓶を取り出した。こちらもまた、銀色の液体が限界まで詰められていたそれを、すぐさま開いて放出する。
「――『メタル・オペレータ』。アタシの盾となれ」
再び、絶対の防御を誇る銀色の盾が、彼女の目の前へと展開される。
しかし、彼にとってはそんなものは壁にすらならなかった。
理由は単純。この銃弾は、相手に命中させて攻撃を行うためのものではないからだ。よって、どの方角から撃っても必ず守ってくれる盾だろうと、彼女自身を狙っておらず、直接的なダメージを受ける危険がない以上は動かない。
光を纏った金色の銃弾は、金髪碧眼の魔法師の真横、その地面へと着弾した。そして、次の瞬間――カアアアアアアアアッ!! 銃弾はその場を、眩い閃光によって一瞬、白色へと塗りつぶした。
それを直視してしまった以上、どんな攻撃でも防ぎ、圧倒的な力を持つ魔法師だろうと。しばらく目を開くことはできなかった。
「……チッ、視覚を潰しに来るなんて、ズル賢い戦い方をしてくるじゃない。まあ、それならこっちだって。……目を作ればいいだけの話なんだけどねぇ?」
戦闘において、視覚を奪われるというのは致命的で、恐怖でもある。しかし、彼女は一切動じない。
「――『メタル・オペレータ』。アタシの目となって、視覚を補完しなさい」
彼女を守っていた銀色の盾が崩れると、それらは巨大な目玉へと変貌していく。放った言葉通り、潰されてしまった両目に代わって、あの目玉から視覚を得ようとしているらしい。命令さえすれば、どんなことでもやってのける液体金属……もはや何でもありだ。
……しかし。
「今のお前には、絶対の防御どころか攻撃手段だってなにもない。――終わりだ」
圭司は、再び魔法銃を構えた。今なら堅い守りを突破できる威力なんて必要ない。ただ、守りを展開される前に彼女を行動不能へと陥れることができる『速さ』だけ。
よって、魔力は銃弾を生成するための必要最低限だけ込めて、そのまま引き金を引く。
「――ぐあああああああああああああああああああッ!? った、盾を――」
――ギュウウウッ! 銃弾は、金髪碧眼の魔法師、その左肩を一直線に貫いた。
赤き鮮血が宙へと噴出される中で、彼はあと二発だけ。容赦なく引き金を引き、銃弾を放つ。
それぞれ右膝、左膝を撃ち抜いた。足から力が抜け、その場で前のめりに両手をついて、跪くように倒れる。
足の関節が使い物にならなくなったのに加えて、強烈な痛みまでもが襲い掛かってきているはず。ここまですれば命を奪わずとも、もうこれ以上追ってくることはできないはず。
……とりあえず、難を逃れることはできたようだ。




