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7.それは救いの手か《金属操作》

 目的は仕事ではあるものの、現地に到着するまでの道中は、納乃(のの)やシエラと一緒の楽しい旅路になるはずだった。


 それは、あまりにも突然だった。……銀色の刃と共に、新幹線の車体もろとも、束の間の楽しみさえ二つにぶった切られてしまったのは。


「立ってるのがやっと、か。納乃、シエラ、大丈夫か!?」


「はい、何とか……」


「少しでも気を緩めると飛ばされてしまいそうです」


 それもそうだ。圭司たちが三人、並んで座っていたのがこの車両の最前列。そのすぐ目前が、巨大な刃でバッサリと切断されて、その断面から先はもう外だった。

 

 真っ二つにされてしまったその後ろ側。圭司たちの乗っている方は、先頭車両から送られてくるはずの電力が通っていないからか速度は少しずつ落ち、前の車両とは差が開いていく。


 それでも、まだ二百キロくらいは優に超えている。外から吹き込んで来る風は、人など簡単に吹き飛ばしてしまうだろう。


 だが、学生であると言えど、大前提として人形師である彼らには『やるべき事』があった。


「……とりあえず、他の乗客を後ろの車両に避難させないといけないけど」


「し、しかしっ、この風の中じゃ、動けません……っ」


 ここで立ったとしても、大学生の圭司でさえそのまま持ち堪えるのがやっとだった。歩くなんてもってのほかだ。


 周りを見渡してみると、お年寄りから子供まで、様々な乗客がこの車両には乗っている。中には立つことさえできない人だっているだろう。


 それに加えて、この危機的状況。人形師として戦闘訓練を積み、今月の初めには生きるか死ぬかの戦いさえ経験した彼でさえ、若干パニック気味になってしまっている。


 それなのに、他の乗客たちが恐怖で騒ぎにならない訳がない。現に、後方からは無数の叫びやらが飛び交っている。そんな混乱の中で、直接人命に関わる避難誘導をテキパキとこなせる自信はなかった。


 動きたくても動けない。……そんな時。


「――まだお子様とはいえ、人形師が一歩も動かないなんてとんだ腰抜けねぇ? アタシが出ずとも……なんて展開なら面白いと思ったのに、残念」


 後方から、甘ったるいながらも棘のある、そんな声がこちらに向けて放たれる。


 激しい突風の中、その声が飛んできた方角を見ると――金髪碧眼で、そのポニーテールは風になびかれて今の時期ならたくさん見られる鯉のぼりのように泳いでいた。身長は高くてスタイルも抜群。そんな女性の姿があった。


 その風貌から、日本人ではないのは分かる。同じ列車に乗り合わせていた海外からの旅行客だろうか?


 しかし、その女性は人間なんて軽々と吹き飛ばせるであろう風にも屈せず。さも平然と、真っ二つにされた断面へと向かって歩いていく。ただの観光客なんかじゃないのは一目瞭然だった。


 そして、彼女が羽織っている青色のパーカーの内ポケットから取り出したのは――()()()()()()()()()()()だった。


 瓶の蓋を開けると、ドロドロと粘性のあるその液体をそのまま宙へと撒いた。そして、彼女はそのまま言い放つ。


「――『メタル・オペレータ』。アタシの()()()()


 それに呼応するかのように、撒かれた銀色の液体が明確な意思を持って動き出す。それらはやがて、彼女の言葉通り――一本の長く、金属製で丈夫そうな『杖』を形作っていった。


「あのカーブに差し掛かる前までに、速度を落とせば全て解決……ってコトね? ――余裕すぎるわぁ?」


 彼女は、銀色の液体から生成した杖を、断面の先、走る線路上へと両手で力強く突き刺した。


 ――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!


 列車が通るレールの下に敷き詰められた、砂利の地盤が削れていく音と共に。彼女の突き刺した杖がブレーキの代わりとなって、分断された列車の後ろ側、完全に制御を失った車両の速度が、みるみるうちに落ちていく。


「ひええー、すっごいですねえ、あの人……」


「魔法の腕もありそうだけど、物理的な力の方も規格外だ。あの魔法自体は金属を杖の形にしただけのように見えた。ってことは、この列車の速度を力尽くだけで落としてる……ってことになるぞ」


 そして、列車はカーブに差し掛かる直前で――ピタリと。完全に静止した。


 もう動力がないにしろ、彼らの乗っていた新幹線の三両目から後ろまで。重さについては今更言うまでもないだろう。もう減速する一方であるにしても、それでも二百キロくらいのスピードは残っていた。


 それを、ただ一人の力で止めて見せた――そんな彼女は、疲れた様子も見せずにケロッとしている。もはや人間の範疇でなせる業ですらない。


 他の乗客たちは、電力が途絶えて自由に開けられるようになった扉から続々と降りていき、残骸となってしまった新幹線の中は気付けば、圭司たちと金髪碧眼の魔法師だけとなっていた。


 どこか、気まずい空気が流れたのち。最初に言葉を発したのは向こうからだった。


「さて、多重接続(マルチコネクト)の『第一発現者(ファーストサンプル)』――アナタを持ち帰れば、アタシに課せられた仕事はオールパーフェクト……ってワケぇ♪」

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