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4.演習後のひととき《出立前》

 圭司(けいじ)らにはあまり関係のない話ではあるのだが、明日からアメリカ行きという衝撃の事実を告げられた日の午後も、いつも通りの戦闘訓練が行われていた。


 今日は何種類もある演習の中でも、必要単位数、そして演習回数自体も多い『個人演習』だった。その名の通り、人形師と魔法人形(ウィズドール)のペア同士で戦うというもの。


 ……なのだが、圭司は二体の人形とコンタクトが繋がっている。原則、人形師に魔法人形は一体だけという前提で作られたルールのせいか、演習に定められたルールだけを加味すれば、納乃(のの)もシエラも揃って参加できるようだった。


 今日の演習を取り仕切る、日替わりの講師にも一応ダメ元で確認を取ってみたが、返答は『勝手にしろ』とのことだった。故に、彼らは三人で演習に臨んだ訳だが……。


「二人ともお疲れ様。この調子なら入院してた間の単位もすぐ取り戻せそうだ」


「三対二になってしまって、なんだか相手に申し訳ない気もしますけどね」


 この下位クラス内の演習においては一番の格上である、Dランクと当たらなかったのも幸いしたかもしれないが……入学以来、片手で数えられるほどしか経験したことのない、久しぶりの三戦三勝。ストレートに単位を獲得してしまった。


 なので三人は、スタジアムを出た大学の広場のベンチに並んで座り、一足早く、ゆっくりとしていた訳だが……。


 だが、それが今の彼らが得意とする戦い方なのだから仕方がない。誰だって、自らのアイデンティティを持っているだろう。それが彼の場合はたまたま『多重接続者(マルチコネクタ)』だったというだけの話。


「勝ちは勝ちですし、何も気にすることはないと思いますよ、納乃(のの)様」


 シエラの言う通り。事実、これで単位を貰っているのだから、それ以上でも以下でもない。


 それに、二人とも一緒に戦えるのにも関わらず、わざわざ一人を待機させておくなんて、相手から逆に手を抜いているだろうと怒られかねない。


 この大学の人たちは何故だか、こういったことにはウルサイのだ。プライドが高いというか、なんというか。単位が取れればそれで良しな彼にはよく分からない感覚だ。


「よっ、圭司。こんな所でのんびりしてるってことはもう単位を取り終えたってことだな?」


 広場のベンチに並んで座っていると、スタジアムの方から二人の人影がこちらに声をかけてくる。片方は人形師の男、もう片方はピンクのツインテールにメイド服を着飾った魔法人形だった。


「ああ、久々の三連勝だったよ。っていうか、こっちは三人だしなあ」


「でも、その主人(マスター)は圭司、お前一人なんだ。それが人形師としてのお前が持つ実力ってことだろ?」


 たまたま、偶然。この身に宿ったこの力を『実力』とはあまり呼びたくないが、確かに彼、一輝(かずき)の言うとおり……なのだろうか。


「それにしてもシエラさん、本当にお強いようですね。いっその事、私たちと共に戦いませんか?」


「えっ、し、シエラは……ど、どうすれば?」


「リリアさん? なーにうちのシエラさんを引き抜こうとしてるんですか? ……というか、シエラさんだけが褒められているのが納得いきません、私だって大活躍だったんですけどー!?」


「おっと、納乃さんもいたのですね。あまりの存在感のなさにすっかり見落としておりました」


「おやおや、リリアさん? 私は今すぐにでも四回戦をここで始めてしまってもいいんですよー?」


 リリアと納乃は通常運転だ。シエラまで巻き込まれて、困り顔でこちらに助けを求めてきているが……すまないシエラ。この二人の言い合いは主人である俺たちでさえ止められないんだ。


「そうだ、圭司。これから合宿に必要なものでも買い揃えにいかないか? どうせお前も、旅行セットなんてある訳ないだろ?」

 

「あー、悪い一輝。生憎なんだが、俺たちはアメリカには行かないんだ」


 そういえば、灯砥禊に呼び出されて以降一輝には会っていない。つまり、合宿に行けないと話していなかったのをすっかり忘れていた。


 それを聞いた彼は、一瞬『は?』を具現化したような顔になってから、どうやらその言葉の意味を飲み込んだようで。


「おい、圭司だけ厳しいことから逃げようなんて絶対に許さないからな! 俺は絶対にお前をアメリカまで引きずってでも連れていってやる、覚悟しやがれ」


「落ち着け一輝。これは灯砥先生に直接『行くな』と言われたからであって、別に逃げようとかじゃない。それに、合宿よりも面倒なことを押し付けられそうな予感もするし」


「でも行かない事には変わりないんだよな!? いいや、誰がなんと言おうと、お前は俺が引きずっていくからな!」


 その後、何故か旅行セットを買い揃えるのに半強制的に付き合わされながらも必死に説明して、やっと――彼の誤解を解くことができたという。

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