3.灯砥禊の呼出《宣告》
各々、昼休憩を満喫しているであろう最中。圭司たちは灯砥禊に連れられて、この大学の講師陣が集結している、この世の混沌を混ぜ込んで煮詰めたかのような異空間へとやってきてしまった。
講師控え室。変わり者だらけが集まった、できればあまり近づきたくはない場所である。
「さて、単刀直入に言おう」
デスクに備え付けられたオフィスチェアへと座って足を組み、やはり気の早い彼女はまた結論だけ、簡潔に一言だけ告げる。
「お前は明日からの海外合宿には行けない」
それに対して、圭司はどう反応すれば良いのか分からず、黙ってしまう。
旅行とか、そういった純粋に楽しい行事でそう告げられたのなら、驚いて悔しがるのが正解なのかもしれない。
しかし、海外合宿は違う。楽しいなんて甘い言葉は存在しない、それくらい厳しい行事とも言われている。行けなくなってむしろラッキーなのでは? なんて考えと、絶対参加の海外合宿、その単位は大丈夫なのだろうか? という不安が入り交じり、ごちゃごちゃになってしまう。
「……ちゃんとした説明をお願いします、灯砥先生」
「説明と言われてもなあ。理由はなんとなく察しがついていると思うが?」
彼だって、そこまで鈍感ではない。具体的に何故なのかは知らないが、行けなくなってしまった根本の原因くらいは流石に心当たりがある。
「俺が多重接続者になったから、ですか」
「当然だ。お前はもはや、研究対象として世界中にその存在を狙われている身といっても過言じゃないからな。日本の中ならまだしも、国外に向かわせるなんてできる訳がないだろう」
「シエラたち、それほどまでの大事に……」
「ずっと病院にいたし、全然気が付かなかったな……」
あれから一ヵ月も経っていないのに、何故もう世界中に情報が広まっているんだろうかとも思ったが、誰でもネットで一発検索、そんな情報化社会の中でこのような情報を隠しきるほうが難しい。
「まったく呑気なものだな。で、お前たちはとりあえず明日も控室に来てもらう。時間はさっき伝えたのじゃなく、普段通りの九時までに来てくれればいい」
「なんか同じようなことさっきも言われたような……。まあそれは良いとして、合宿の間、俺たちは一体何を? ゴールデンウィークですけど、どうせ休ませてはくれないんでしょうし」
「ご明察。海外合宿分の単位を補完する『何か』を用意してある。お前たちが来る頃にはもう私は出発しているだろうから、別の誰かが説明してくれるとは思うが」
『何か』――か。その言葉の響きだけで嫌な予感しかしない。それも、厳しいと言われる海外合宿、その単位を補完できるほどの何かとなれば、それはもうとんでもない無茶を吹っ掛けられそうだ。
「何かって……。今ここで説明してくれればいいんじゃ?」
「今から無理だと駄々をこねられても困るからな。こちらとしては何としてでも遂行してもらわなくてはならない案件なんだよ」
駄々をこねるって、俺たちのことを小学生か何かだと勘違いしてないか? と危うくこぼれそうになった言葉を寸前のところで抑えこむ。
案件とか、遂行だとか、大学のカリキュラムとしてはあまり相応しくない言葉だった気もするが。ひとつ確かなのは、これ以上何を言ったところで無駄だろうということだけだ。
大人しく明日まで、どんな無理難題を課せられるかにビクビク怯えながらもただ待つことしか、圭司にできることはないのだ。
「……分かりました。灯砥先生。くれぐれも、Fランクの俺たちじゃ手に負えない内容は嫌ですよ」
「手に負えないとは言わせん。何しろ、これはお前らが起こした面倒事の後始末だからな」
後始末……? 相変わらず、普段は直球に結論だけ話すくせに、こういった時だけは何故か含みを持たせたような回りくどい言い方をしてくる人だ。
どうやらもう話すことは全部話し終えてしまったらしい。こんな所に長居する理由もないので、軽く挨拶を交わして、さっさとこの場所から退散する事にした。
去り際にふと時計を見ると、まだ短針が十二を超えていない。本来なら講義中の時間だった。あいにく今日は昼食を持ってきていないため、学食が空いているうちに急ぐとしよう。




