終幕C 一人の『神影』は翼を広げ
「観測地点の中心はこの辺りのようですが」
「交戦跡がある程度で、残り香すらない――か。惜しい事をしてしまった。仕事さえなければすぐにでも飛んで行ったものを」
軍事行動への人材派遣の為に設立された、日本におけるトップクラスの魔法師や人形師が多く所属するその機関。世界的にも名の知れた『神影機関』のナンバーツー、神影翼とその秘書が、閑静な住宅街にまで足を運んでいた。
国最強とも謳われる人形師が、わざわざ大学エリアの外れ、住宅街にまでやってきたのは他でもない。昨日、半径数十キロにもわたって、夜を昼に塗り替えた大規模な魔力反応があった。その発生源が、この地点だったからだ。
「『神の領域』が現れたのはたった五分。しかし、その短い間にも、それは『奇跡』を残していったらしい。おい、例の資料をもう一度見せてくれ」
「それなら、そちらの端末へ転送済みでございますが」
「ああ、仕事が速くて助かる」
彼は、仕事用のスマートフォンを取り出す。普段から通知は切っているため、気が付かなかったが……目的の書類は十五分前に、確かに届いていた。
メッセージアプリなどが業務でも使われるのが一般的になってきた昨今で、メールとは前時代的だとも思われるかもしれないが、セキュリティを確保した遠隔通信を行うのなら、そちらの方が都合はいい。
件名:『多重接続者発現症例1 資料』
本文はない。添付ファイルが一つだけ、淡白に張り付けられたそれを彼は開く。
《多重接続者一例目 解析結果
author:魔法大学附属病院
検体:人形師・漣圭司
魔法人形A
魔法人形B
解析結果:暫定
検体、漣圭司と魔法人形A、および魔法人形Bとの間で、魔力的繋がり(以下、コンタクトとする)が認められた。
但し、魔法人形Aと魔法人形Bとの間では、コンタクトは認められなかった。
よって、検体に見られた多重接続は『プランB』に属するものと定義づける。
魔法人形Aとのコンタクトは強固なものとなっているが、魔法人形Bとのコンタクトは不完全であり、Aとの比較結果は午前2時の測定時点でおよそ36%ほど。
数値は時間の経過と共に上昇している為、長期的な観察が必要と考えられる。
コンタクトの維持は安定しているが、二つのコンタクトを維持し続けられる原因は解析不能。過去の研究結果とのデータの違いから、各研究機関にて原因を調査中。
尚、この文書は機密情報として、厳重に保管すること――》
「……こんなにも面白そうな大事件に、指をくわえて黙って見ていろとは。父上も酷な事を言う」
「問題ございません。仕事の予定等は先行して全てキャンセル済みとなっておりますが」
「流石、仕事が速すぎて恐ろしくも感じてしまう」
こんな場所に長居しても、もう手がかりは得られないだろう。
「さて、あの光に葬られた張本人にでも話を聞きに行くとしよう。奇しくも、彼女は今、我が家の地下に軟禁されているらしいからな」
「神影家の長女……でしたっけ。まあ、私は話にしか聞いておりませんが」
「……さあ、誰の事だか。神影家に失敗作なんて存在しないのだから」
表情さえ変えず、彼はさも本当に覚えていないかの調子で言い放つ。




