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28.全てを照らす光剣《イルミネート》

「傷口が塞がって……? それに、痛みも少しずつ取れていくような……」


「私の身体も、元通りに修復されていきます……っ!」


 シエラの身体から神々しい光が放たれる。それは、深手を負った二人の応急処置を施すだけに留まらない。


 今も増幅し続けるその光こそが、シエラの奥底で眠る『真の力』だったのだろう。


 圭司(けいじ)が彼女に触れたときに感じた、圧倒的な魔力量から。ただの魔法人形(ウィズドール)ではないとは理解していたはずだった。しかし、これほどとは思わなかった。もはや、魔法人形が持てるであろう力の範疇を超えている。


「――ふふ、はははははははははははははははははッ!! 次から次と面白えコトばっかりで、思わず滾っちまうよなああッ!!」


 輝槍・プラティウスの一撃が、今も煌めくシエラに向けて放たれる。


 しかし、彼女は一歩も動かない。動く必要がないからだ。触れたもの全てを例外なく消し飛ばすはずの白いレーザーが、彼女の身体に吸い込まれていくように消えていく。


「は、はははははははは……、こりゃ、笑えねえなあ。お前が放つそれは一体なんなんだ……」

 

 その一連の流れを見た九鬼は、血の気が引いていくような乾いた笑いしか出なかった。当然だ。物理的に防がれるはずがない、九鬼有栖(きゅうき ありす)のとっておきの切り札が、ただただ突っ立っているだけの魔法人形に防がれてしまったのだから。


 星々の輝きを取り込み、凝縮したその光も、確かに人智を超えた『神の領域』へと僅かながらに届くような、そんな異質なものだったかもしれない。


 そもそも、異能力の。この世界に根付いたもので換言するのならば『魔法』という存在の最終到達点とは何だろうか。その内の一つだと考えられているのがいわゆる『神の領域』だ。


 輝槍・プラティウス――元を辿れば、その原料となった魔合金であるオルスエルゲンだって、その人智の及ばない絶対の力を目指して造られたのだから、そこへ片足を突っ込みかけた力があってもおかしくはない。


 だが、しかし、輝槍・プラティウスがそうだとするのなら、シエラが纏うそれは――全世界の魔法に関わる人々が血眼になって追い求める『神の領域』そのものだった。


 どのような因果が巡って、この力が発現したのかは理屈や常識では計れない。シエラを作った人形師がきっと相当な実力の持ち主であるとか、漣圭司(さざなみ けいじ)という人間が、人形師としての常識を外れていたとか、そういった偶然が重なって起こった現象なのかもしれない。


 だからこそ、過去にその領域へと辿り着いた者はいないのだ。


 ただ、そんな事はどうだっていい。何が起こっているのか、理解の及ばない圭司ではあるが、そんなイレギュラーも利用できるものはとにかく利用するのが人形師といった戦闘職のレギュラーだ。ましてや、魔法とかいう分からない事だらけの分野の上なのだから。


 圭司は立ち上がり、魔法銃を構える。不思議と、槍で貫かれたはずの首は痛くない。傷そのものはあるが、傷口が光で塞がれており――痛みどころか、温もりさえ感じてしまうのだ。


 納乃も立ち上がり、魔法銃を構える。不思議と、輝槍・プラティウスによって胸に開けられた大穴は、何事もなかったかのように元通りへと戻っていた。人形の体温は低く、冷たいはずなのに――光によって修復された箇所だけは何故か温かい。


「ありがとう、シエラ。この光――受け取った」


「へっ……ふへ、ははははははははははははははははッ!! 生憎、アタシは追い詰められれば追い詰められるほど、燃えてきちまうんでねええッ!!」


 対する九鬼は、それでも尚。いや、ここまで追い詰められたからこそ、心から笑っていた。まだ、対抗できる術がある限りは彼女の心は砕くことができないらしい。


「そうだなァ、じゃあ――お前がいくら、こいつらの傷を完璧に治せるったって、無限じゃねえ。お前には傷一つ付けられないかもしれないが、そこのFランクなら千回でも一万回でもブチ殺せるだろ。それまで、お前のその不可解な光は()ってくれるのかねえ?」


 そう言うと、彼女は再び夜の闇夜へと姿を消してしまう。見えない場所から、何度も何度も何度も、圭司と納乃を痛めつけるために。……いくら神の領域に踏み込んだ力でも、無限という言葉はまず根本的にあり得ない訳で、そこを狙ったのだろう。


 しかし、シエラは無表情で、退屈そうに。


「まあ、貴方との我慢比べでシエラが負ける気もしませんが――」


 そう前置いたうえで、続ける。


「これ以上、圭司様と納乃様の苦しむ姿を見たくはありませんので」


 言うと、シエラの持つ剣にその神々しい光、全てが注がれていく。一番最初に見た、あの槍にエネルギーが充填された際の光も異質なものだったが、その程度とは、比べるまでもない。


 見れば分かる。太陽のようにありがたく、月のように儚く、星々のように美しい――そんな光だったのだから。


 そんな剣を、シエラは両手で改めて握り直すと――。


「この光剣は全てを照らします。――()()……()()()()()()ッ!!」


 本気で叫ぶシエラの声に対して呼応するかの様に、ビシッと天に向けられたその剣は、輝きを増していく。そして、その輝きがさらに増幅し、やがて最高潮へと達した時。


 ——()()()()()


 黄金の剣の輝きは、一帯を覆う闇夜を一切のこさず、隅から隅まで照らし尽くす。まるで、太陽が差す昼間のような明るさが、夜の闇どころか、辺りにあるはずの影さえ消失させた。


 影が一切ない世界というのは、想像すらしたことさえなかったが……意外と違和感のある世界だ。光があるからこそ、影もないとおかしいのだから。ただ、今だけは、影というものが一切存在しない。それだけのこと。

 

 そして、影を失い立ち尽くす有栖は、今度こそ本当に――何が起こったかも分からずにただ、愕然とする事しかできなかった。彼女のアイデンティティ(影魔法)そのものを失ってしまったのだから当然か。


「そういえば、先ほどこう言っていましたね。『それは一体なんなんだ』……と」


 もはやこの世の全てを握っている、まるで『神様』のような調子で、シエラは言う。


「それは『感情』です。シエラが封じられたと勝手に諦め、捨て去ろうとしていた――。みんなを助けたいという想いが、シエラに。この剣に、力を貸してくれます」


 そう、上から言い聞かせるかのように、優しく穏やかな口調で九鬼に向けて話すシエラに対して、最後の抵抗とでも言わんばかりに。

 

「――クソッ!! 下らねえ、下らねえ、下らねえッ!! ここまで来て何が『感情』だ、馬鹿らしいッ!!」

 

 やけくそに叫びながら、九鬼の足元に落ちていた二つの槍を、シエラに向けて一気に放つ。

 

 しかし、飛ばされた槍は双方、シエラに届く事もなく、剣が放つ黄金の光によって照らされ、その槍の存在ごと塗り潰されてしまう。


「納乃ッ!」

 

「はいっ、圭司さん!」


 二人は、立ち尽くす有栖に向けて、右手の銃の引き金を引く。二つの銃声が同時に鳴り響くと――それを避ける事もしない、九鬼を目掛けて飛んでいく。二つの銃弾は、彼女の身体をしっかりと二箇所、殺さないかつ意識を失う程度に撃ち抜いた。


「へっ……最後の最後で、こんな得体の知れない物にやられちまうとは。ああ、今回はアタシの負けだよ。だが、アタシは執念深いんでね。この敗北は決して忘れねえ――」


 有栖はそのまま力を失い、バタンッ! という音と共に倒れる。その音が、人形喰い・九鬼有栖との、長く激しい戦いの終わりを告げたのだった。

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