幕間 Luminous trigger――
全てが元に戻るだけ。ただそれだけだ。
主人に捨てられ、居場所を失くした魔法人形に住むところ、存在する理由があるだけで、それは果てしなくイレギュラーなのだから。
たった一日、そんな瞬間があっただけでも。元の主人が求めていた性能を満たしていない魔法人形として、これほど幸せなことはないだろう。
いくら『人形法』で、作った魔法人形を捨てたりすることが禁じられているとしても、やはり法の影では、未だに捨てられる魔法人形は多く存在する。そんな多くの人形たちが辿る末路に比べれば、そんなことは一目瞭然だ。
ただ、そのことに対して彼女自身は何も感じない。彼女にとっての不幸をあえて挙げるならば、その幸せを感じることができないという点なのかもしれない。
彼女にはそもそも感情というものが備わっていない。既にアンインストールされてしまった概念なのだから。
……これが前提条件として。ただ一つだけ、彼女の行動には矛盾点があった。
(……どうして、シエラはお二人をお守りしようとしているのでしょう)
ふと、疑問に思う。
(……何故、身体がこうして勝手に動こうとするのでしょう。分かりません)
誰が傷ついても、この心には傷一つ付かないはずなのに。
今の居場所を失うのが自身にとって、最も自然な結末で、それを享受するのが当然のことであるはずなのに。
それなのに、どうして――。
首からだらりと血を流す、人形師の姿を見て。
胸に穴が開き、苦しむ魔法人形の姿を見て。
(――ひどく、胸が締め付けられるような感覚に陥ってしまうのでしょう――)
思えば、この矛盾点に気づくことが引き金だったのかもしれない。失われたはずの感情を取り戻し、その身体に光が灯るための。
そうだ。これが――。
***
「シエラに居場所を与えてくれた。感情というものに気づかせてくれたお二人を、シエラは——助けたいッ!!」
主人を失った魔法人形、シエラ。彼女の身体から、神々しいほどの光が放たれる。星々のエネルギーを集めて放つ、輝槍・プラティウスの光とはまた違った、異質で――しかし、同時に温もりも感じるその光が。
その光は、圭司の首に開き、噴水のように血が噴き出す傷口へと膜を張る。これ以上の出血を防ぎ、呼吸を助けるために。
納乃の胸にぽっかりと開いた大穴が、元あった形へとみるみるうちに修復されていく。……まるで『奇跡』だった。
それは決して神頼みなどではなく、起こるべくして起こった結果。彼女が覚醒のトリガーを引くだけで手繰り寄せられるもの。
しかし、それが引かれてしまった以上――どんな暗闇だって、星々の加護だって。この光で照らせないものなど存在しない。




