27.最強の槍は身に余る《オーバースペック》
「はははははははははははははははッ!! そんな逃げ腰じゃあ、せっかく本気を出したのが馬鹿みてえじゃねえかよおおッ!!」
一番最初に放ったあの攻撃ほどではないものの、それでも十分な威力を持った、幾千もの星から集めたエネルギーの砲撃が彼らを襲う。
たった一撃で建物一つを消しとばすような威力はないかもしれない。が、人を消し去るくらいには必要以上の火力がある。
それが威力を落とした分だけ数となって襲いかかってくるのだから、逃げるなという方が無理だろう。
なんて考えているうちにも、白いレーザーが圭司の右肩スレスレを通り抜けていく。
わずかに触れた、彼の着ていた防護制服が簡単に焼き消されてしまう。……って、ちょっと待て。これは剣すら通さない代物だ。それを貫通できるほどの攻撃に、直接触れてしまったら――なんて、想像すらしたくない。
「なあ、圭司。ここは一回、逃げた方がいいんじゃねえか……?」
「いや、今から逃げても間に合わない。後ろから撃ち抜かれて終わりだろ。それに、あの槍には弱点がある」
圧倒的な火力、連射性能を持つ武器、輝槍・プラティウス。一見、突破口なんて存在しないようにも思える。
しかし、彼は見つけていた。最強と呼んでも遜色ない槍が持つ、致命的すぎる弱点を。
「確かに、一撃でも当たれば終わりかもしれない。……でも、当たらないんじゃ意味がない」
たった一撃でどんな物でも消し飛ばせて、それを連射する事ができる。しかし、それを狙った位置に飛ばすことはできなかった。
考えてみれば分かる。星々からエネルギーを充電した杖を振り下ろし、ボールを投げるかのような感覚で放たれるその攻撃。
しかし、そのエネルギーが溜まっているのは槍の先端。持ち手から実際の発射点まで距離がある分、ボールを投げるのとはまた訳が違う。
それに、彼女は普段からこの槍を使っていないようだった。慣れていない上に、扱いが難しいともなると、いくら武器が規格外でもその性能を引き出せない。
そして、子供がデタラメに投げたボールなんかに当たるだろうか? 相当な運動オンチならともかく、彼は底辺のFランクであってもやはり人形師。そんな物に当たるなんてあり得ない。
結局。どれだけ強くとも、当たらない攻撃なんて怖くもなんともない。ただの見かけ倒しだ。
「納乃、一気に詰めるぞっ!」
「はいっ!」
それならば。九鬼が想定外であるはずの動きで焦らせる。その焦りはやがて――。
「――ッ!? 真正面から突っ込んでくるなんて、正気じゃ――」
彼女の焦りは、放たれる攻撃の挙動へと如実に表れる。弾道がさらに不安定に、的外れな方向へと飛んでいく。
その間にも、人形師とその魔法人形は、さらに近距離へと近づいていく。相手の纏う、大学指定の防護制服が持つ弱点。防御力をカバーすることのできない、手や足、首から上といった範囲を確実に仕留められる範囲まで。
「終わりだ、九鬼有栖。『輝槍・プラティウス』だったか。それが本物だということは認める。けど、どうやらお前には身に余る代物だったようだ」
――そして。二人の持つ魔法銃、その引き金は引かれた。
別の方向から右手と左足、それぞれ別の弱点を狙う二つの銃弾は――そのどちらも、彼女の身体へ命中することはなかった。
理由は単純。彼女の姿、その物がこの場から消え去ったからだ。
それから息をつく間もなく、元々彼女がいたはずの場所から。一本の、彼女がいつも使っていたごく普通の黒い槍が、そこから勢いよく放たれた。
「……外したッ!? くそっ、間に合わない――」
彼女の槍は、今度こそ。人形師・漣圭司の首を貫いた。
喉の焼けるような激しい痛みが、感覚という感覚、その全てを塗り替えていく。
「……圭司さんッ! っ、んぐうああああああああああッ!?」
納乃がすかさず、再び姿を現した彼女に向けて銃弾を放つ。……が、今度は九鬼と納乃と、その距離たったの数十センチから放たれた、輝槍・プラティウスの一撃で胸を貫かれてしまう。
あまりに一瞬のことで溜める時間もなかったせいか、致命傷には至らない。しかし、それでも納乃という戦力を削ぐには十分すぎた。主人の魔力がなければもう立ち上がることすら難しいだろう。
「馬鹿、お前ら……無闇に突っ込んだりするからだ。リリア!」
こうなってはもう、全員生きて、いつも通りの日常を取り戻すにはいくしかない。そう覚悟を決めて、立ち上がったもう一組の人形師と魔法人形。しかし、その歩みは簡単に止められてしまう。
九鬼の持つ槍から、一つの威力はただの銃弾よりも多少殺傷能力が高い程度だろう。しかし、それが弾幕を形成し、彼らに向かって突撃していったからだ。
けん制としては百点満点。こうなっては、近づく事などできるはずもない。
(このままじゃ、納乃が、死ぬ。納乃が。納乃が。納乃が。納乃が納乃が納乃が納乃が納乃が納乃が納乃が――ッ!!)
起こった出来事の整理さえマトモにできない状態の彼に向けて、その残忍な笑い声はこう告げる。
「確かにアタシの切り札はこの槍だ。でもよ、それ以前に――アタシの本分は影を操る魔法だってことを忘れちまったかああ? ああ、そうだよなあッ! 魔合金で作った槍なんて持ち出されたら、それで頭がいっぱいになっちまうのも無理はねえよなあ! あはははははははははははははははははははははははッ!!」
失念していた。『輝槍・プラティウス』はもちろん脅威だ。しかし、それよりも根本的に――この夜という、空間全体が彼女のフィールドであるという状況そのものが、もう既に――数字じゃ計り知れないほどの脅威だったということを。




