表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/148

24.誓いを果たすため《克服》

「……ありがとう、納乃(のの)。もう大丈夫だ」


圭司(けいじ)さんっ! 良かった、いつもの圭司さんです……っ!」


 もう一人の自分に別れを告げて、再び戦場へと戻ってきた。不完全に残っていたあの時のトラウマを、完全に克服することができたのだ。


「……圭司。もしかして、お前……」


「ああ。もう、弱い自分に負けたりはしない」


 もっと強くなって、今度こそ皆を守ると誓ったあの日。しかし、その誓いは本物ではなかったのだろう。だからこそ、あんな言葉に惑わされていた。


 ならば今、再び誓おう。


「魔法師、九鬼有栖(きゅうき ありす)。お前を倒し、みんなで元の『平穏な日常』へと帰らせてもらう。俺はもう、誰一人として死なせはしない」


「へっ、そこのDランクならともかく、テメェみたいなFランクが足掻いたところで、人形を喰って力を得たアタシに勝てる訳がねえだろうが」


 影となった魔法師の彼女が鼻で笑う。……まあ、勝手に笑わせておけばいいだろう。こちらは人形喰い、九鬼有栖を倒して、戦いという非日常からただ抜け出すだけのこと。


「ま、底辺のFランクのクセにその度胸は気に入った。ただのFランクじゃないとは薄々感じていたが……こりゃ、想像以上に楽しくなってきちまったかもなああッ!!」


 九鬼有栖が、両手にそれぞれ一本ずつの槍を握りしめて、圭司の元へと突撃を仕掛けてくる。


 しかし、今の彼はもう暴走状態なんかではない。冷静に、一輝(かずき)から聞いた情報を思い出す。


「弱点は――槍を握る、その()


 圭司は、彼女が槍を握る以上、影にできない唯一の弱点に向けて、魔法銃の引き金を引く。


 放たれた銃弾は、目標を確実に捉えてまっすぐに飛んでいく。が、その弾は唯一の弱点へと()()()()()


「同じ手に何度も引っかかる訳ねーだろうが、馬鹿のひとつ覚えみたいに狙ってきやがって。もしかして、脳ミソまでFランクになっちまったかあ?」


 九鬼は、軽々と手を動かしてその銃弾を避ける。


 そもそも、こちらは魔力を充填し、引き金を引くという予備動作があるにも関わらず。相手はほんの少しだけ手の座標をずらせばいいだけ。これでは、あまりにも分が悪い。


「あいにく底辺のFランクである俺は、お前のように、影になったり隠れたりみたいな芸当はできないからな。ただ魔法銃を撃ち続けるしかできないかもしれない」


 それでも、と。圭司は続けて。


「守りたいものさえあれば。ランクなんて物は実力を示すものなんかじゃなく、結局はただの文字による分類分けでしかないってことをその身に叩き込んでやる。――納乃ッ!」


「はい! 強さしか持ちあわせていない魔法師に教えてあげましょう、圭司さん。勝敗を決めるのは、単純な実力差だけじゃないってことをっ!」


 二人は互いに目配せを交わすと、遠距離からの攻撃が強みである魔法銃ながらも思いきり、人形喰い……九鬼有栖の元へと突撃した。


「……ああ? 銃の癖に突撃かあ? へっ、ついに頭までイカれちまったみてえだが、大丈夫かあ?」


 ついに気が狂ってしまったとかそういった訳ではない。しっかりと、冷静に考えた上で辿り着いた結論だ。


 結局、距離を取るといったところで、この狭いアパートの中では魔法銃の強みを活かすには中途半端な距離しか確保できない。


 槍の射程外から攻撃はできるものの、槍だって一歩踏み込めば届く――そんな微妙な距離だった。


 それならいっそ、一気に近づいて――。


「納乃、周りの事は気にしなくていい。俺は制服を着ているし、家具だって買い直せばいい。とにかくその手を撃ち抜くことだけを考えろッ!」


「はいっ! 圭司さんも、私のことはお構いなく! 圭司さんから頂いた銃弾はむしろご褒美ですからっ!」


 納乃の言っている意味は全く分からないが、今はそんな些細な事を気にしている余裕はない。


 二人は言葉を交わすと、二本の槍を構える彼女の周りを縦横無尽に動き回り、四方八方から魔法銃を連射する。


 九鬼有栖もこちらの意図が汲み取れたらしく、持っていた槍の片方を床へ乱雑に放り投げた。少しでも被弾のリスクを下げようとしたのだろう。


 しかし、的が両手から片手になったところで、やるべきことは変わらない。


 相手が武器を片方捨てたという事は、それだけ追い詰められているということ。相手には効果的の戦略であることの裏返し。ならば、いつか相手が隙を見せるまでこのまま撃ち続ければいい。


 ――ギュイン! という、魔法銃独特の音が、幾重にも交差する。


 それらは、桜吹雪のような弾幕を張り巡らせ、九鬼有栖の小さな弱点を追い詰めていき――やがて一発の銃弾が、彼女の手を掠めた。


「……痛ッてえ……。ああ、そうだ。そうこなくちゃなああッ!! 所詮はFランクだと侮っていたが、どうやら間違いだったみたいだ。むしろ注意すべきはオマエらだったらしい」


 残り一本の槍を床に投げ捨ててその全身を影へと変えた上で、安全地帯から彼らを見下ろしつつ言う。


「アタシの主戦場(フィールド)で待ってるぜ。何せ、こんな明るい場所じゃあ、本気なんて出せたもんじゃねえからよ」


 九鬼有栖はそう言い捨てると、割れた窓から外へと飛び出していってしまった。


「……追うぞ、納乃」


「はいっ! せっかく追い詰めたのに、また振り出しに戻ってしまった感は否めませんけどね」


 一足先に夜の闇へと消えた彼女を追うように、窓へと走る二人に向けて。不意打ちを喰らってしまい、動けずにいた一輝が後ろから声をかける。


「俺たちも行く。圭司と納乃が戦ってくれている間に応急処置は済ませたし、もう大丈夫だ」


「私も、マスターに魔力を回復させて貰ったのでいつでも戦えます」


 続けてリリアまで。無惨にも貫かれた両手に、いつの間にか包帯をぐるぐる巻きにしてはいるものの、まだ痛く辛いであろう二人が、それでも戦意を喪失せずに人形師として立ち上がろうとしていた。


 しかし、圭司はその申し出を一蹴する。


「いや、二人はここで待っていてくれ。そんな傷を負っているのに、戦場に向かわせるなんてできない。シエラだって病み上がりだし、ここは俺と納乃の二人で――九鬼有栖との戦いに、ケリをつけてみせる」


「安心してください、みなさん。今の圭司さんと私なら、怖いものなんてありませんっ」


 そう言い残して、圭司と納乃の二人は格上の、それも影に隠れることができる彼女にとっての主戦場へと三人を部屋に残したまま向かっていく。


『元の平穏な日常へと帰る』……そんな当たり前かつ小さなものを取り戻す、しかし彼にとっては大きな誓いを果たすために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ