21.手狭な部屋にて《学生寮》
「んなワケで、今日は圭司ん家に泊まりで決定だ!」
「……おい、ちょっと待ってくれ。こんな狭い家に五人も寝泊まりするつもりか? いくら何でも無茶だろ……」
「仕方ねーだろ。俺たちは今、あの人形喰いに狙われてんだ。いつ襲ってくるかが分からない以上、一緒に行動しておかないと」
連絡する事さえも忘れるほどに焦りながらもここまでやってきた一輝から、圭司が倒れ、それを納乃が運んでから起こった一連の出来事を聞いた。
人形喰いと戦ったこと、あと一歩の所まで追い詰めたものの逃げられてしまったこと。そして――その人形喰いが、再びこちらの命を狙っているということも。
確かに、狙われている者同士で行動を共にしておいた方が良いのは重々承知の上であるが、それにしても。
そもそも、ここは一人用の寮だ。ただでさえ人形師が住むには少し手狭なこの部屋で、五人は無理だろう、五人は。
「……っていうか、なんでいつの間にかお前は三人暮らしになってんだよ。シエラ……だっけか?」
「ああ。話す機会だってなかったし、そもそもシエラと暮らすことになったのも昨日からだったし、まだ話してなかったけど」
「あまり、とやかく言うつもりはないんだけどさ。……分かってるよな、圭司」
一輝の声色が、人形喰いについて話していた時よりも一層、真面目なものにうって変わって。
「魔法人形ってのは、主人がいることで真価を発揮するもんだ。その気持ちは分からなくもないけど、あまりそう……無闇に首を突っ込むのは圭司の長所でもあるし、短所でもある」
それくらい、自分でも分かっているつもりでいた。
魔法人形の存在価値とは、やはり主人である人形師と共に戦うこと。主人と呼べるような存在を失くしたシエラを助ける事は、果たして彼女にとっての救いになったのか。
実際、共に暮らすことになった今でさえも、胸を張ってそうと言い切ることはできない。それでも。
「シエラと暮らすっていう選択に後悔はしてないし、彼女にもそんな思いをさせるつもりはないさ。今はまだ、シエラにとっての生きる意味なんて見つからないかもしれない。けど、それなら。俺が見つけてあげればいいだけのことだ」
圭司は、部屋の傍らに立つ、騎士のような風貌の彼女に向けてそう告げる。
対するシエラは――。
「……圭司、様?」
今、たった一瞬だけ。
それを封じられたと言った彼女が、具体的にどんな顔を見せたのかと聞かれれば、それは言葉にできないくらいにささやかな物かも知れない。が、確かにそこには浮かんでいた。
……『感情』が。
一瞬たりとも、表情さえ一切変えることのなかった彼女がだ。見間違いかと思い、彼はシエラの顔を二度見する。
しかし、そこにはもう、感情のひと欠片さえも残されていなかった。
(いや、気のせい……か。感情は持っていないと本人の口から聞いたんだ。そう簡単に心を取り戻すなんて、流石に……な)
もう一度、冷静になって考えてみればそうだ。まだ、彼女と出会ってから一日しか経っていないんだし、いくら何でも気が早すぎるだろう。
シエラに早く、感情を取り戻してほしいと願う自分自身の心が生み出した幻覚だ。……そう考えた方が、何倍も自然だろう。
「どうしたんだ、圭司。クサい台詞を吐いたと思ったら急に黙りこくっちまって」
すっかり一人で考え込んでしまっていた彼に向けて、そんな辛辣な言葉が飛んでくる。……って。どうしてそんな悲しいものを見るような目でこちらを見る?
「……おい、ちょっと待て。昨日の一件は確かに俺が悪かったかもしれないけど、今回のは一輝、お前が話を振ったから答えただけだ」
ふと、納乃の方を見てみると――(またですか、圭司さん……)みたいな表情でこちらを見ている。
ふと、ピンクのツインテールにメイド服という奇抜な恰好をしたリリアを見てみると――やはり彼女も彼女で、ちょっと引き気味だった。
最後に、シエラを見てみると……やはり、無表情でこちらを見つめていた。
「なあ、なんで俺のときだけそんな雰囲気になるんだ。一輝だってちょっとそれっぽく言ってたじゃん。ねえ、誰か、何でもいいから喋ってくれないか……?」
何故、二日連続で。しかも、今回に関しては一輝の言葉に返答しただけなのに。どうしてまた、こんな冷たく突き刺さるような視線を送られなくちゃならないんだ。
……どうするんだよ、この空気感。




