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20.暴走の果て《後悔》

「……目が覚めたんですね! 良かった……」


 意識が戻ると、見慣れた光景が広がっていた。紛れもなく、毎日、彼が眠りについているベッドから見える天井だ。


 そして、傍らには納乃とシエラの姿があった。どうやら意識を失っている間、二人して看病をしてくれていたらしい。


「すまない、納乃(のの)。俺のせいで……」


 ()()していた時の記憶はしっかりと残っている。自分が自分ではなくなってしまったようなあの感覚も、この身に焼き付けられるかのような鮮明さで。


 納乃を守りたいと言いながらも、勝手に一人で突っ込んで、むしろ彼女を危険な目に遭わせてしまった。人形師として失格だと言われても、何も言い返せない。


 それでも納乃は、こちらに向かって微笑みかけて。


「圭司さんが気にすることじゃないですっ! それに、私だって。……本来、魔法人形(ウィズドール)は守られるんじゃなくて、守らなきゃいけない立場だったのに。あの時、一歩も動けませんでした」


 納乃はそう言ってはくれるが、当たり前のことだろうとも思う。実践経験なんて一度もない、ただの学生なのだから。


 あの時、恐怖すら感じることもなく。結果自体はお粗末だが、それでも正面から立ち向かえたのは、やはり彼が持っている『あの状態』だったのが全て。普段の彼ならばきっと、同様に動けずにいただろう。


「……納乃にあの姿を見せたのは初めて、だよな」


「はい。発作のこと……話だけは聞いてましたけど、聞かされていた以上にとても苦しそうでした。何かにうなされているような」


 圭司(けいじ)が高校三年生の時。納乃を作る少し前までは、別の魔法人形が彼のパートナーだった。そして、通り魔によって彼女が殺されてしまった――()()()()()


 納乃を作る少し前までの間、あの凄惨な光景とパートナーを失ったという事実から、精神が不安定に陥ってしまった……そんな時期がある。


 その頃は、あの光景や出来事を思いだすだけで自我を失い、周りの人々に見境なく攻撃的になってしまう、いわば『発作』のようなものがあったのだ。


 それこそ、自らの危険もかえりみずに自らが倒れるまでただ一心不乱に、人形喰いに向けて攻撃し続けたさっきのような。そして、暴走の果てに残るのはいつも『後悔』それだけだった。


 そのトラウマを克服できたからこそ、彼にとっては二体目の魔法人形である『納乃』を作ることができたのだろうと思っていたのだが……どうやら、まだ完全には克服できていなかったらしい。


「シエラも、看病してくれてありがとう」


「いえ。シエラはすべき事をした。それだけですので」


 相変わらずの無表情で、聖騎士のような風貌の彼女が凛とした立ち振る舞いで、淡々とそう述べる。こちらも相変わらずで、なんだか安心させられる。


「そうだ、納乃。一輝(かずき)とリリア……人形喰いはどうなった?」


「それが、私たちを逃がす為に二人で人形喰いに……」


 それを聞いた圭司は、慌ててポケットに持ち歩いているスマートフォンを取り出す。


 あれだけのことがあったんだ、無事なら何かしらの連絡は来ているはず。そう思い、電源を付けてみるが――一輝からの連絡は電話も、メッセージさえも来ていない。


 まさか。人形喰いとまだ交戦しているのか? それとも、一輝が人形喰いに……。そんな、嫌な予感が脳裏に走り抜ける。


 まだ身体が本調子ではないが、そんなことを気にしている暇はない。


「まだ一輝が戦っているかもしれない。……納乃、行こう。シエラはまた留守番を頼む」


「ちょっ、圭司さん!? まだ安静にしていないとっ!」


 ベッドから飛び起きると、納乃の静止さえも無視して、別に広くもないアパートの室内を走って玄関へと向かう。


 こんな所をわざわざ走る必要なんてなかったかもしれないが、それだけ焦っていたことの表れなのだろう。


 なにしろ、躊躇なく撃ちまくった最大出力の魔法銃による砲撃を受けてもなお平気な顔をしていた、そんな相手だ。


 あんなのと真正面からやりあって、無事でいられるとは到底思えない。もし、まだ戦っているのならば今すぐ助けにいかないと。そう思った矢先。


 ――ピンポーンッ! まるで空気を読まない、来客を知らせるドアチャイムが部屋に鳴り渡る。


 こんな時に一体誰だ。変な勧誘とかだったら一発、魔法弾でもブチ込んでやるかと思ったが……。


 その来客は、ドアチャイムだけではなく、ドンドンドンドンッ!! と、叩く音も同時に響く。何やら向こうも焦っている様子だった。


 そしてドア越しに、聞き馴染みのある声が飛び込んでくる。


「――俺だ、一輝だ! 大変な事になっちまった。とりあえず開けてくれッ!」


「……一輝!」


 俺のせいで一輝が人形喰いに。そんな、最悪の結末を迎えた訳ではなかったと知り、ひと安心したようで……。声を荒げてやってきた彼が、新たな戦いの始まりを告げようとしているのもまた事実だった。

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