16.影に潜みし魔法師《九鬼有栖》
(……一体、アイツらは何をやっているんだ?)
とある魔法師の女性が、ふと心の中でそう呟いた。文字通り影に身を潜めながら、何やら言い争いをしたのちに武器を取り出して、すっかり戦闘モードに入ってしまった二人を眺めていたのだった。
影に身を潜める……というのも、彼女が得意としている魔法の一つ『影隠れ』によってあちこちの影へと入り込み、その中を縦横無尽に移動できるというもの。
そんな彼女の標的は、前を歩く人形師二人を差し置いて、勝手にバトルを始めようとしているもう二人の魔法人形。
片方は何故か大学指定の制服を着ているし、もう片方はフリフリのメイド服という、どちらも少し変わった魔法人形ではあるが……彼女の目的を果たすのに支障はない。
メイド服の方が、ナイフだろうか? 短い刃を向けてもう一人へと突撃していったが、どうやら攻撃は外れたらしい。……見ているこちらまでヒヤヒヤしてしまう。
その直後、前を歩く人形師が仲裁に入っているような素振りを見せる。
(しかし、調子が狂うな……。あの人形師の仲裁がなかったら、アタシが出るまでもなく一大事になってただろ。アイツら、大丈夫なのか?)
彼女はつい、相手の心配をしてしまう。……そんな二人を、これから食べなくてはならないというのに。
作られた人形に宿った、作り物の感情だということくらいは彼女だって分かってはいる。それでも、心が痛まない訳じゃない。
今まで食べてきた魔法人形、そのどれもが苦痛に顔を歪め、痛みを訴えていた。そんな光景を目の当たりにして尚、気分が良いはずもない。
それでも彼女は魔法人形をとにかく沢山、喰らわなくてはならない。
(……全ては、その家名に値する実力を持たないという理由だけで、人間らしい扱いすらされなかった……忌々しいあの『名前』を滅ぼす為だ)
脳裏を過ぎる、この地上に出る前の記憶。
才能がないから、弱いから、名前に対する恥だから、人目に触れないように――。そんな理由で軟禁されていた、光の入らない薄暗くジメジメとした地下室の光景を。
時間の感覚さえ分からなくなってしまう程に見慣れてしまったあの場所は、地下室の間取りから家具の配置、床や壁のシミ一つまでもが今でも鮮明に思い出せる。
「くっだらねえ。……何が『神影』だ。このアタシ『九鬼有栖』が跡形もなく全てブッ壊してやる。その為の力を手に入れる為なら――」
――人形喰いだろうと、何だってやってやる。
(失敗はできない。奇襲をかけて、確実に一撃で仕留める。二人相手だが問題はないだろう。見た所、連携もクソもないだろうしな)
有栖は、二つの影をそっと放つ。しかし、影だけを操り、飛ばしたところで何も起こるはずがないだろう。ならばどうするか。
(……影撃ち。武器を影に隠し、武器ごと放つ魔法。さて、お前ら二人も、アタシの糧になってもらおうかッ!!)
直後。彼女は身を潜めていた影の中から飛び出し――その両手から放たれた二つの影が、二人の魔法人形に向けて高速で飛んで行く。




