終幕 取り戻した日常、それはあまりに脆く
「確かに、僕達MagiCAは日本の魔法大学との交戦によって大損害を被ったうえに、表面上の成果はゼロに等しかった。けど、次なる一手を決める材料は手に入った訳だ」
その小柄な男性は、暗い部屋で光る画面を眺めながら呟いた。難解な数式に、常人には理解し難い図式。それっぽい作業風景が、パソコンのデスクトップに拡げられていた。
「幸い、必要なデータは落としてくれたからね。貴重な戦力を失くしたとはいえ、彼女の死は無駄ではなかった」
言いながら、彼よりもさらに一回り小柄な――深紅色の軍服を好んで着ていた、子供のような魔法師を思い出す。
確かに彼女は、MagiCAという枠組みの中でも特別頭のネジが外れているようで、何者にも代えがたい人材だった。
だが、そんな彼女が命と引き換えに残した『データ』さえあれば、もう他には何もいらない。あとは彼の意志一つで、あの国を内側から瓦解させることができる。
そして、副産物として他を一切寄せ付けない――そんな無類の力もついでに手に入れられる算段だ。
「日本が古来より抱える爆弾。この時代まで残し続けていた事を後悔するが良い。起爆までの刻限は――あの日しかあるまいに」
MagiCAというアメリカでも最大級の魔法組織。その長である彼――ペティエル・リーテンスの、暗闇で画面の光に照らされる顔には、この世の邪悪を集めて煮詰めたような。そんなどす黒い笑みが浮かんでいた。
彼の統治する組織、MagiCAの幹部クラスに位置する魔法師でさえも知らないほどの水面下で。世界をも揺るがす大騒動が再び、幕を開けようとしていたのだった。
***
一方、件の騒動で損害を被ったアメリカとは正反対に。
一人の死者も出さずに結果を収め、一度は大規模な戦争にまで発展しかけたものの、日も経って世界情勢も落ち着いてきたように思える日本では、発展途上ながらも未来の可能性を秘めた『魔法』に対する、一般民衆らの支持はより一層強くなっていた。
そんな中。日本の魔法特区に、魔法関係者以外も多く集まる『一大イベント』は、例年をも超える集客が見込まれていた。
その名も魔法大祭。大小様々な魔法組織がしのぎを削って、外からの資金提供やイメージアップ、隠れた人材の発掘など、それぞれの目的を果たす為にアピール合戦を行う――そんなイベントだ。
魔法師たちによるトーナメント形式の模擬戦や、最新技術を駆使して作られた魔法機器の体験会。各地で行われている一般的なお祭りのような屋台が立ち並んだりと、年を重ねるごとに規模は前年比で大きくなっていくのだが、今年は特にその傾向が著しい。
六月中旬から一週間に渡って開催を控えた『魔法大祭』の当日に向けて。魔法特区内の盛り上がりはますます加速していく。




