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9.新学期の翌日《四月三日》

 翌日。圭司(けいじ)納乃(のの)、そして昨日から共に暮らす事になったシエラの三人で、ちょっとばかり窮屈なテーブルを囲み、朝食を摂る。


 ……朝食と言っても、朝に炊けるようセットしておいた白飯に、オレンジ色に光る生卵を上から落としただけではあるのだが。


 何の変哲もない男子学生に、朝から一汁三菜のフルコースを作る余裕なんてあるはずもない。


「やっぱり、朝イチの卵かけご飯は沁みますねえ。……って、圭司さん、どうしたんですか? 何か考え事でも?」


 黙々と、機械的に卵かけご飯を食していくシエラに、一口、一口と卵の深みを堪能しながら大切に味わう納乃。


 そして、圭司はというと――卵を落としたご飯茶碗に、まだ一口しか手を付けていなかった。


「ああ、ちょっと……な。シエラのことでちょっとどうしようか迷ってて」


 というのも。これから、納乃と共に大学へと向かわなくてはならない訳だが……シエラを連れていったら、軽く騒ぎになるだろう。


 人形師に魔法人形(ウィズドール)は原則一体まで。というのは覆ることのない常識だからだ。


 それに、製作者すらも分からない魔法人形である彼女を連れて行って良い物かさえも怪しい。よって、留守番をさせてしまう事になってしまう訳だが――。


「うーん。やっぱりシエラさんは大学に連れて行けないですもんねえ……」


「ただ、最近はこの辺りも治安が悪いし、一人にさせておくのも不安なんだ」


 そう言うと、彼は視線をテレビの方へと向けた。


 流れているのは朝のニュース番組だ。男女のアナウンサーが並んで、事件や事故だったりを読み上げている。


 この番組を放送しているのは魔法特区の中にあるテレビ局であり、ニュースなら当然、魔法特区の中で起こったものを中心に取り上げている訳だが……。


 男性のアナウンサーが冷淡な口調で語っているのは、最近この辺り――大学を中心として、圭司たちが住むアパートも建つ住宅街の中でも起こっている、()()()()についてだった。


『「人形喰い」による被害は、ついに二十件を超え――』


 人形法の施行から、減っていた『魔法人形への無差別破壊事件』。


 個人的なストレス発散の為とかで通りがかりの人形師が連れている魔法人形を襲う……といった内容であるが、以前よりも数が減ったとはいえ、完全にゼロになった訳ではない。


 最近では、人形師らの間で『人形喰い』だとか呼ばれている、人形師の身動きを封じて、襲った人形を目の前で食べ始めるという変異種まで現れる始末だ。


 魔法という異能の力を扱う者が集まる街である以上、同じ日本の中とはいえ、やはり他の地域と比べれば治安は悪くなってしまう。


 拳銃、もしくはそれ以上にもなり得るの武器を、魔法特区に暮らすほぼ全員が持っていると言っても過言ではないのだから無理もない。


「気にする必要はありません。事件に巻き込まれる確率は限りなく低い上に、そもそもシエラがその程度の()()に引けを取るとは思えませんが」


「小物って……。まあ、シエラさん、オーラというか風格と言いますか……見るからに強そうですし。確かに、返り討ちにしちゃいそうですけど」


 流石に考えすぎだろうか。しかし、彼は一度経験している。人形を狙った通り魔に、パートナーを殺された経験が。


 そのせいか、こういった事件などには一層、敏感になってしまう節があるのだった。


「とりあえず、今日は留守番をしてもらうしかないか。大学に確認を取ってみるから、それまではすまないが……」


「はい、お任せ下さい。この部屋には何人(なんぴと)たりとも通しません」


「……その心意気はありがたいんだが、荷物の受け取りとかはちゃんと応対してくれ。多分今日は来ないと思うけど」


 特に今日は荷物が届くとかそういったイベントはないはずだが……こう釘を刺しておかないと、なんだか取り返しの付かないことになる予感がした。


 彼女の腰に携えるご自慢の剣で、宅配に来ただけの一般人に向けて一撃――みたいな惨劇を生まないために。


「……流石のシエラも、それくらいは理解しているつもりですが……」


 どうやら考えすぎだったらしい。『何人たりとも』とか、紛らわしい事を言うからだ――という言葉はそっと心の中にしまっておこう。



 ***



「それじゃ、シエラ。俺たちは大学に行ってくるから留守番は頼んだ。これが鍵で、昼飯は冷蔵庫に昨日の余りがあるから、それで我慢してくれ」


「はい、行ってらっしゃいませ。圭司様、納乃様」


 シエラに見送られて、二人はアパートを後にする。


 ……誰かに見送られて学校に行くなんて、実家暮らしの頃以来な気がする。大学に通う為、魔法特区に来てからはずっと納乃と二人で暮らしていた訳だし、何だか新鮮な気がした。

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