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終わらないデスマーチ  作者: やみの ひかり
5/5

最終話 繰り返す終わりの先に

 七色に光る穴の中を落ちていく杉崎雷太。


(俺のせいだ。俺がタイムマシーンなんて作るからだ)


 七色の光が消え、


 ドン


 地面に叩きつけられる。


(ここはどこだ? どこの時代にジャンプした?)


 辺りを見回すと、砂まじりの市街地に出た。遠くにはドームが見える。


(ここは、RSCの会社があるドームシティだ。まだ町が砂に飲み込まれていない。俺がいた未来の少し過去だな)


 立ち上がる雷太。携帯電話を取り出し、日付を確認する。


(この日、この時間は来たことがある。まさか、健太郎は母親に会いに行ったんじゃあ? まずい)


 走り出す雷太。雷太は健太郎の母が、どこにいるのか知っていた。なぜなら、健太郎のためにこの時代にジャンプして、健太郎の母親を救おうとしたからだった。


 高級ホテルの目の前で、一度足を止め、最上階を見る雷太。


(くそっ。早まるなよ健太郎)


 高級ホテルのエレベーターに乗り、最上階のスイートルームを目指す。


 チン


 最上階で降りると、そこに六角健太郎が立っていた。


(遅かったか……)


 スイートルームからは、怒鳴り合う声が漏れてくる。




 部屋の中では、健太郎の父と母が口論をしている。


「君は私のお金が目当てだったのか!?」

「そうよ!! ようやくわかったのね。私は結婚詐欺で生活している女なの。あなたはターゲットに過ぎない。子供が出来たのは誤算だった」

「健太郎はどうするつもりだ!! 君の子だぞ!!」

「あんな子供生まなければ良かったわ!! あなたが育てて、私はいらない。こんな食料が無い時代に子供なんていらないわ。私はこれっぽちも、あの子に愛を感じたことが無い」

「お金ならくれてやる!! 出ていけ!!」


 バン


 札束が入った紙袋を机に乗せる。


「ありがとう。このお金で、違うドームシティで遊んで暮らすわ」

「二度と私と健太郎の前に現れるな!!」

「そのつもりだから心配しないで」




 ガチャ


 ドアから健太郎の母親が出てきて、健太郎と母親が対面する。


「あんた誰? 何見てんの? どきな……」


 ザシュ


「うっ……」


 健太郎の機械の腕が、母親の体を貫く。


 バタン


 全身の力が抜け、健太郎の母親は床に崩れ落ちる。


「お母さん…… 僕は間違ってた…… 孤独が人々を苦しめると思ってた…… 人間は、おろかな生き物だ……」


 雷太は、健太郎の震える背中に、


「健太郎……」


 伸ばそうとするも、


 ダダダダダダ パリン


 走って窓を突き破り行ってしまう。


「待て健太郎!!」


 健太郎が去った後、健太郎の母親の生死を確認するが、


(もうダメだ……)


 もう息の根は止まっていた。


 ファアアアアアアアン ファアアアアアアアアン ファアアアアアアアン


「なんだ!?」


 けたたましいサイレンが、ホテルの中に鳴り響く。


 ドオオオオン ドゴオオオオオオオン


 ホテルの下では、車があちらこちらにぶつかって、炎が燃え上がる。


「うわぁああああ!!」


 部屋の中で、健太郎の父の叫びが聞こえたので、


 ガチャ


 急いでドアを開けて中に入ると、健太郎の父が窓の外を見て驚いている。


「どうされました?」

「誰かが核爆弾のスイッチを押してしまった……」


 窓の外には、大きなロケットが空高く弧を描き飛んで行く。


(健太郎を探さないと)


「あの核爆弾の遠隔操作は出来ないんですか? 今から軌道を変えることは?」

「ドームの中の司令部だったら出来るかもしれない」

「瞬間移動装置は持ってますか?」

「瞬間移動装置? そんなものあったらいますぐにでも欲しい」


(そうか。まだこの時代には、瞬間移動装置が開発されてないんだ)


「俺行きます!!」


 ホテルから出ると、町中の機械が暴走している。信号機は点滅を切り返し、自動ドアは開いたり閉まったりを繰り返し、車はいたるところに突っ込んで燃えている。


「きゃあああああああ!!」

「この世の終わりだ!!」

「うわああああ!!」

「こっちはもうダメだ。どこへ逃げたら良い!!」


 人々はパニックで右往左往している。


(制御システムがジャックされ、暴走している。健太郎がやっているのか? 俺よりも12年後の未来から来ている。その間に科学技術が上がっていてもおかしくはない。これ以上早まるなよ!!)


 雷太は混乱する街の中を、ドームを目指し走りはじめた。






 健太郎はドームの中で、人々が逃げ惑う様を見ていた。片手にワインを持ち、口に流し込む。


「味がしない…… ちくしょおおおおおお!!」


 全身を機械の体にしてしまったために、味覚が無くなっていた。


 持っていたワイングラスを、力任せに壁に投げつける。


 パリン


「わぁっ」


 割れる音にビックリして、誰かが驚いた。


「誰だ!!」


 男の子が、物陰から出てくる。


「はははは。良いところに来た。未来を教えた上げよう。こっちへ来な」


 その男の子は、幼いころの健太郎自身だった。恐る恐ると、歩み寄る幼い健太郎。窓の外を恐ろしい表情でのぞく。


「大変だ。みんな大丈夫かな?」

「この先の未来はもっと大変になる。地球の砂漠化は止められず、人口はどんどんと低下していく。少ない食料を求めて、各地で戦争が起こる」

「でも、ヒーローが現れて、なんとかしてくれるんでしょ?」

「あははははははは。ヒーローなんていないさ」

「じゃあ僕が大きくなったら、みんなを助けたい。戦争なんて起させない。みんなを笑顔にするんだ。僕はヒーローになりたい」

「……」


 幼い健太郎の言葉に、頭を抱え込む健太郎。


「おじさん? 大丈夫?」

「君はなんて優しいんだ。僕はなんて汚れてしまったんだ」


 健太郎の顔は、悲しみでクシャクシャになるも、機械になってしまった体に涙を流す機能はそなわっていない。


「健太郎!!」


 そこへ雷太が到着した。


「来るな!! 僕の醜くなった顔を見るな!!」


 健太郎は、顔を押さえ、アタッシュケースを握りしめて走る。


「待ってくれ健太郎!! 話をしよう!!」

「やめてくれ!! 俺はもう人間じゃない!!」


 屋上に続く階段を登っていく健太郎。それを追う雷太。


「はぁはぁはぁ」


(運動不足だな…… 俺も健太郎みたいに機械の体にしようかな?)


「ははは……」


(こんなときに冗談かよ)


 力を振り絞り、階段を登っていく。


 ガチャ


 屋上の扉を開けると、そこに健太郎が立ち尽くしていた。悲しい表情で、町をながめている。


「健太郎おおおおおおおおおおおおお!! はぁはぁはぁ……」

「雷太!! なぜだ!! なぜうまくいかない!!」


 健太郎は、雷太に手のひらを向ける。


 キュイイイイイン


 健太郎の機械の腕が光り。電気エネルギーをため込む。


「やめろ!! あやまちを繰り返すな!!」


 ドゴオオオオオオオオオオオオン


 雷太に向かって、強力な電気エネルギーが発射され、間一髪避ける雷太。


 ゴゴゴゴオオオオオオオオオオオ……


 後方に建っていたビルに電気エネルギーが当たり、崩れ落ちていく。


「子供の頃から、ずっとずっと僕は孤独だった。物心ついた頃には母はいなく、父は会社の経営に必死で、僕の話を聞こうとしてくれ無かった。誰もいない家で、僕は孤独と戦った。お母さんが生きていればと何度も願った。でも違った。交通事故で死んだと聞かされていた母は、結婚詐欺を生業にしている最低な人だった」

「だからドームシティを壊すのか?」

「あぁ。そうだよ!! 悪いかよ!! みんな道連れだ!!」


 ゴオオオオオオオオオ


 空を見上げえると、大きなミサイルが音を立てて、こちらに向かってくる。


「核爆弾を撃たれたドームシティから、お返しが来たな。これでこのドームシティも消える」

「健太郎おおおおおおお!!」


 雷太が健太郎に飛びかかり、倒れ込んだ健太郎に馬乗りになる。


 ガチャン


 健太郎の顔を思いっきり殴るも、


「いってぇー」


 機械になった健太郎の顔は物凄く固い。


「殴ったところでもう痛みを感じない。僕は人間やめたんだ」

「ふざけんな!! なんで人を殺す!!」

「だって、タイムマシーンでもう一回過去を作り直せば良いじゃないか? 過去にジャンプして死なないようにすれば良い」


 ゴオオオオオオオオオオオオオ


 空から核を積んだミサイルが、ドンドンとこちらに近づいてくる。


「俺は、何度も何度もジャンプして、過去を書き換えた。でもダメだったんだ。何度やっても、修正される。どこかで、違う方法で、別の誰かがトリガーを引く。頼むよ。もう人を殺さないでくれ」

「あははははははははははははははは」

「何がおかしい!!」

「雷太は、もう無理だと思ってるだけだよ。どいてくれ」


 馬乗りになった雷太を簡単に払いのけ、アタッシュケースを雷太に差し出す健太郎。


「雷太に返すよ。僕じゃあ世界を救えない。こんなにも汚れてしまったから」

「健太郎。何をするつもりだ?」


 核ミサイルを見上げる健太郎。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ


「すっかり忘れていたけど、幼いころの夢はみんなを守るヒーローだったんだ」

「やめろ!! なにをするつもりだ!!」

「なぁ、雷太。みんなのヒーローになってくれよ」

「俺には無理だ!! 俺は孤独に逃げて、自分のことばかり考えて、研究ばかりしてきた。他人の痛みを見ないように、自分の幸せだけを夢見てきたんだ。タイムマシーンを作ったのだって、みんなに認められたかっただけなんだ。俺が作ったタイムマシーンで、健太郎の人生は間違った方向へ行ってしまった」

「雷太あああああああああああああ!!」


 健太郎がいきなり大きな声を出し、


 ビク


 ビックリして固まる雷太。健太郎は、雷太を真剣な表情で見つめる。


「まだ終わりじゃない。早くそれでジャンプするんだ。僕が時間を稼ぐ。勝手に終わらせるな」

「健太郎聞いてくれ。過去を変えても、全て元通り修正されるんだ。全ては運命なんだ。運命を変えることは出来ない。健太郎行かないでくれ!!」

「雷太は、小さいころから僕のヒーローなんだ」


 健太郎は、幼き日と同じように無邪気な笑顔を雷太に見せると、


 シュッ


 ミサイルめがけて飛んで行く。


「健太郎おおおおおおおお!!」


 雷太は急いでアタッシュケースを開き、数字を打ち込むと、七色の穴が現れる。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン


 ミサイルが上空で大爆発する。


 雷太は泣きながら、


「ちっくしょおおおおおお!! やってやるよ!! 俺がヒーローになってやるよ!! 何回だって!! 天文学的な数字になろうと、運命を変えてやる!!」


 七色の穴の中へと入っていく。


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン


 爆風が、ドームシティをなぎ倒していく。








 砂漠の真ん中、山越真知子の隣に住む山田夫妻が立っている。


「真知子さん。あれから何回ジャンプしたんだろう」

「何回だってやるんでしょ。雷太さん」

「そうだけど…… 現実を見るのは辛い……」


 山田夫妻は、成長した雷太と真知子だった。


 広がる砂漠を見て、うつむく雷太。


「あれ見て」


 砂漠の向こうを指さす真知子。雷太が、目を凝らしてよく見てみると、遠くに小さなオアシスが見える。小さな湖の周りを植物が囲んでいる。


「何万回もジャンプした成果が、たったこれだけかよ。うう……」


 涙を流す雷太。


「雷太さん? 大丈夫?」

「違うんだ。うれしいんだ。やっと実を結んだ。やっとだ。やっと……」

「頑張ったわね」


 背中をさする真知子。子供が母親に甘えるように、雷太は真知子を抱きしめる。


「ありがとう」



 地球は再生へと向かうのか。ただの気まぐれなのか。それはわからない。その答えは、雷太があと何万回かジャンプした先にある。



 オアシスに向かって走り出し、服を脱ぎ捨てて行く雷太。


「ひゃほおおおおおお!! 水だあああああああ!!」




 終わり

 最後まで、お付き合いいただきありがとうございました!! 「終わらないデスマーチ」いかがだったでしょうか? この下にある☆☆☆☆☆で評価お願いします。ぜひ、あなたの評価を教えてください。お願いします。さらにその下の感想もお待ちしています。


 次回作もよろしくお願いします。過去作もありますので、もし良かったら読んでください。最後まで読んでいただき、本当に本当にありがとうございました!!


 以上、やみのひかりでした。

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