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終わらないデスマーチ  作者: やみの ひかり
4/5

04話 アフターデスマーチ

 バコオオオオオオオン


 六角健太郎(ろっかくけんたろう)に、頭を強く蹴られた杉崎雷太(すぎさきらいた)


「うぐ……」


 その衝撃で、雷太の眠っていた記憶が脳内を駆け巡っていく。






 はじめて、雷太が健太郎に会ったのは、健太郎の父親の部屋だった。


「健太郎。この子はうちで育てることになった。杉崎雷太くんだ」


 健太郎の父親の横で、


 ブツブツブツ


 独り言をしゃべり、ずっと下を向いている男の子が立っていた。その子供は、幼き日の雷太だ。


「お父さん!! 僕、逆上がり出来るようになりました」


 健太郎は、雷太のことなんて目もくれず、父の愛を欲した。健太郎の父親は、忙しくてあまり家にはいない人だった。


「お父さんな。これから会社の会議なんだ。後から聞く。雷太くんと仲良くしなさい」

「お父さん!!」


 秘書の人間が現れ、仕事の打合せをしながら、部屋を出ていく。


「……」


 いじける健太郎。健太郎の父は、RSCの最高責任者だ。そして、母親はいない。健太郎が、生まれてすぐに交通事故にあって亡くなっている。






 未来の地球は、砂漠で覆われている。世界の人口は、10%にまで減った。人々はその現象をデスマーチと呼んだ。


 最初の始まりは蚊だった。蚊を媒介にしたテング熱は、人々を殺していった。熱帯に住む人口の半分を殺したテング熱を抑えるために、国々の首相が集まり出した答えは、蚊を死滅させること。


 蚊を死滅させるために、遺伝子操作された卵を生まない蚊を自然界に何万匹放った。その蚊と交配した蚊は2世代後に卵を生まない蚊を生む。ねずみ式に卵を生まない蚊が増えていく。数年経つと蚊は自然界からいなくなった。


 蚊を死滅させること、それはデスマーチのトリガーだった。蚊がいなくなったことで自然界のバランスが大きく崩れる。次に起こったのはバッタの大量発生だった。そのバッタが驚異的だったのは、草木を食べるだけではなく、食料が尽きると、家畜も食べるバッタに進化したからだ。


 人々は、ドームと言われるシェルターを作り、その周りに都市を作っていった。急速に地球上の生物、植物はバッタに食い荒らされた。


 地球はどんどんと砂漠化していく。大きな都市さえも砂が飲み込んでいく。地上の生物、植物は消えていった。


 それでも人間は、科学を利用して細々と生活をしている。だが、デスマーチにあらがうことは難しい。人口は減っていくばかりだった。






 雷太が、ドームの窓から外を眺めていると、健太郎が話しかけてきた。


「なぁ。雷太はどこのドームシティから来たの?」

「……」

「ねぇ!! 聞いてるの!?」

「うるさいな。今、妄想の真っ最中で良いところなんだ。話しかけるなよ!!」

「えっ!? ごめん……」

「悪い。妄想中は誰にも話しかけられたく無いんだ。現実を忘れられる手段なんだ」

「そうなんだ。君の両親は?」

「食べ物が無くて死んだんだ。ここから北に90キロ行ったところに、俺が育ったドームシティがある。そこはもう食料がほとんど無い。俺は運が良かった。君のお父さんが連れてきてくれた。若い頃に、君の父親にお世話になったと言っていた。ここだって食料が無いはずなのに。なぁ、健太郎のお父さんの会社の研究所貸してくれないか? 頭の中に広がる妄想を具現化させたい」

「え? 無理だよ。僕には何の権限も無い。お父さんは忙しくて、僕の話はまったく聞いてくれないんだ……」

「あっそう。じゃあ、どっか行ってくれ。俺は現実にいたくない。妄想の中に入る」

「うん……」


 雷太は再び、1人妄想の世界へと入っていく。






 数日後。雷太は健太郎の父に頼み込み、小さな研究室を貸してもらえることになった。そこは、長年使われていない、ただのワンルームの部屋だった。だが、雷太にはそれで十分だった。


「雷太すごいじゃないか。研究室を貸してもらえることになったんだろう?」

「ああ。別にすごいことじゃないさ。これで研究に浸れる。辛い現実を俺が変える。俺の妄想を現実に持ってくるんだ」

「いったいなんの研究をするんだい?」

「植物の種が残っているだろう? それを俺は1秒で、食べれるまで成長させる」

「そんな冗談だろう?」

「空飛ぶ車だって、瞬間移動だって、昔の人は漫画やアニメの世界だった。俺は不可能じゃないと思ってる」


 その日から、雷太は研究室にこもるようになった。健太郎は、物資を探し運ぶ役として、雷太をサポートしていった。






 数年後、雷太の構想は完成した。


 電子レンジを利用した装置に植物の種、成長に必要な栄養を入れ、電源を押す。


 チン!!


 扉を開けると植物は中で急激な成長を遂げて、パンパンに詰まっていた。


「出来た!! やったね!!」


(これは…… とんでもないものを作ってしまった……)


 雷太は何かに気づき、とても険しい表情をしている。


「雷太どうしたんだ?」

「神の領域に足を踏み入れたかもしれない」

「神? 何言ってるの?」

「この野菜は、急激に成長したんじゃない。時間をジャンプしたんだ…… もしかしら、タイムマシーンが作れるかもしれない」

「タイムマシーン!?」

「俺はすごい発明をしてしまったかもしれない…… 過去にジャンプして、歴史を書き換えることが出来れば、デスマーチが発生しない世界を作れるかもしれない」

「すごいよ!! 雷太は天才だ!!」


 それから、雷太はタイムマシーンを作ることに没頭していった。健太郎は、必死に父親を説得して、最新の研究室を貸してもらった。


 はじめに作ったのは、過去と未来を繋げる携帯電話だ。この携帯電話は一台で使える。現在には一台しか存在しないが、違う時間に存在する携帯電話と話が出来るからだ。


 試しに未来に電話をかけることにした。


「もしもし、俺か? 未来の雷太だよな?」

「あぁ、雷太だ。今すぐタイムマシーンを作るのは止めろ。良いか。これはまったく意味の無いものだ」

「何言ってるんだ。俺はタイムマシーンを作って歴史に名を残す」

「ダメだ。俺はこれを破棄しに過去に行く。健太郎が来た。切るぞ」


 ブチ


 携帯電話が切れた。


 暗い表情の雷太に、


「雷太? どうしたんだ? 成功したのか?」


 話しかける健太郎。


「あぁ。成功した。だが、作るなって言われた。なぜだ?」

「なに言ってるんだよ。絶対に作ろう。そのためにこんなきれいな研究室を手に入れたんだ。今までの努力は? 僕は過去にジャンプして、母を助けたい!!」

「わかった。研究を続けよう。未来では、たしかにタイムマシーンは出来ていた」


 それから研究を進めると、遂にタイムマシーンは完成した。現在に帰ってくることを考えて、アタッシュケースに入れて持ち運べるように改良された。


 雷太は、しっかりと準備を整え、タイムマシーンで過去につながるホールを作る。


 グワアアアア


 七色に光るの穴が、研究室に出現すると、


「それじゃあ、行ってくる。なんとかデスマーチの発生を止める。止めるまでは帰ってこないつもりだ。次に会うときは平和な世界だ」


 健太郎に別れを告げて、雷太は入っていく。


 数分すると、研究室に七色の穴が出現し、


 ボト


 雷太が穴から降ってくる。


「早かったね。どうだった?」

「くそ!! ダメだ!! これは作ってはいけなかったんだ!!」


 現在に戻ってきた雷太は、すごくやつれた顔をしている。


「何があった?」

「俺は何度も時空を行き来した。デスマーチを起こらないようにするためだ。何度も何度もあらゆる手を使った。だけど、少し未来にジャンプして確認してみるが、違う誰かが実行してしまったり、違うことが起こって歴史は修正される。こんなもの作ってはいけなかった!! 神の領域なんだ!! デスマーチを止めることは出来ない!!」

「それじゃあ、僕のお母さんは生き返らない?」

「悪い。今までの研究は無駄だった……」


 ガッカリして、膝が折れる健太郎。


 バシャア バシャア バシャア


「何してるんだ雷太?」


 雷太は、燃料は研究室に撒き始める。


「研究資料は全て燃やす。作ってはいけなかった。健太郎はジャンプしてないから分からないんだ。全てだ。全て修正される!! 俺が頑張ってやったことは無かったことになる!! 俺の人生をかけた全てだったのに!!」


 ポケットからライターを取り出し、


 ボウ


 火をつけ、ライターを落とす。研究室全体に、火が燃え移っていく。


 ボワアアアアアア


 火は研究データを燃やしていく。二人の間に、炎が広がる。


「雷太ああああああ!! 何考えてんだ!! 僕の……」

「おまえのじゃない!! 俺のだ!!」


 RSCの文字が書かれたベストを着て、黒い手袋をつける雷太。ベストには、RSCが開発した瞬間移動装置がついている。黒い手袋は、電気を発生させて攻撃する機能が備わっている。


「タイムマシーンは雷太だけのものじゃない!! 開発するまでにどれだけの根回しをしたと思ってる!! 頭を下げて回ったのを僕だ!! 雷太が閉じこもって研究に集中出来たのは僕のおかげだろう!!」


 アタッシュケースを持つと、


「すまない。過去を変えようとしても、辛いだけなんだ。修正される」


 パシュン


 雷太は、瞬間移動をして砂漠の真ん中へと出た。


 ビュウウウウウウウ


 風は砂を巻き込んで、無数の竜巻を作り出している。


 ググググ……


 目渡す限り続く砂漠を見つめ、眉間にしわを寄せ、アタッシュケースを持つ左手に力が入る。


(なぜこうなった? 早くこれを、跡形もなく壊わそう)


 パシュン


 雷太の目の前に、瞬間移動してきた健太郎が現れ、


「なにしてるんだよ。帰ってカップラーメンを食べながら、話の続きをしよう」


(なぜだ!! なぜ瞬間移動した先がわかった。このベストに発信機が付いているのか!?)


 健太郎がなだめようとするも、雷太は正気では無い。


「うるさい!! 俺がすることに指図は受けない!! これをどうしたって俺の勝手だろう!!」

「それは多くの命を助けることが出来る。なぁ、帰ろうよ」


 スゥー


 右手を健太郎に向ける雷太。身構える健太郎。


「待て待て!! 雷太がやってることがどういうことかわかっているのか?」

「うるさいなぁ!! もうこれ以上は無理だ!! 限界なんだ!!」

「雷太!! 落ち着けよ!!」

「だまれ!!」


 バチイイイイン!!


 雷太の右手から電気の塊が発射され、


「うわあああああ」


 健太郎の体に直撃し、しびれながら倒れる。


「なぜわかってくれない!!」


 パシュン


 雷太は、旧市街地に瞬間移動する。大きな都市があったが、大部分を砂漠に埋もれてしまった地区だ。


(ここなら身を隠せる)


 パシュン


 身を隠す所を探していると、すぐに健太郎が瞬間移動してきた。


「雷太!! 待ってくれ!!」

「俺が過去に飛ぶまでもう少し待ってくれ!!」

「待てるはずないだろ!! タイムマシーンを壊してどうするんだ。僕は母に会いたい」

「無駄だ!! 会わないほうがいい!!」


 健太郎は、雷太に向かって右手を伸ばす。


 キイイイイイイイン


 健太郎は、電気発生装置をチャージモードへと切り替える。右手が光り、どんどんと明るさが増していく。


「そんなにチャージしたら死ぬぞ!!」

「かまわない!! そのタイムマシーンさえあれば、過去を修正してまた生き返すことだって可能だ。僕が雷太の代わりにジャンパーになる」


 バチイイイイイイイイイイン


 健太郎の右手から、稲妻が雷太に向かって走る。


「うわっ」


 雷太が、稲妻を避ける。後ろにあった廃墟のビルに当たると、


 ズゴオオオオオオオオオオン


 ビルが倒壊していく。


「この人殺しめ!!」

「大丈夫だ。雷太の代わりに、僕が未来を設計する!!」

「くそっ」


 走り出す雷太。電気発生装置をチャージモードへと切り替える。


 キュイイイイイイン


 両手に電気がたまっていく。


「僕とやりあう気なのか? 君はこもってばかりで、運動不足だろうに」

「ああ!! 運動不足だが、健太郎よりは頭が良い!!」


 廃墟のビルの中へと走り出す雷太。


「その中は危ないぞ。ビルごと倒壊させてやる!!」

「そんなことしたら、タイムマシーンも埋まるぞ!!」

「安心しろ!! そのアタッシュケースは僕が用意したんだ。特殊な金属で出来ている。何トンもの衝撃に耐えれるんだ!!」


 キュイイイイイイン


 雷太が、逃げ込んだビルに両手を向ける健太郎。


「雷太が生き埋めになったあと、ゆっくり掘り返すさ」

「やってみろ!! 健太郎に俺を殺す勇気があるならな!!」


 ビルへと入っていく雷太。


「その言葉後悔させてやる!!」


 バチイイイイイイイイン


 ビルに向かって稲妻が走る。


 ビルに当たると、


 ゴゴオオオオオオオオオオオ


 ビルが倒壊していく。


 健太郎は、ポケットから追跡装置を引っ張り出す。


(やはり、瞬間移動したか)


 瞬間移動した先に、歩みを進める健太郎。


(ここの中にいるな)


 ビルの中へと入っていく健太郎。


「おーい!! 雷太!! 出て来いよ!! 話をしよう!!」

「……」

「こっちから行くぞ!! もう追いかけっこはやめにしよう!!」


 人気の無いビルの中を歩いていく健太郎。追跡装置を見ながら進んでいく。


「おい!! 着いたぞ!!」


 ドアの手前で足を止める健太郎。


「……」

「なにか返事をしてくれ!! あきらめたのか!! まぁ、良い。すぐに殺そう。僕が世界を変える」


 ガチャ


 ドアを開けると、RSCの瞬間移動装置のベストと、光る黒い手袋が床に転がっている。


「なに!? これはおとりだ。まさか…… まだ倒壊するビルの中に…… くそおおおおおおおお!! 雷太あああああああああああああ!!」






 崩壊するビルの中。アタッシュケースを広げ、適当に数字を打ち込む雷太。


「とりあえず、どこでも良い。健太郎に見つからない過去へ」


 ENTERキーを押すと、


 グワアアア……


 七色に光る穴が現れる。


「良し」


 崩壊する天井が、雷太の頭上から降り注ぐ。






 山越真知子(やまごえまちこ)の部屋。記憶が脳内を一周すると、雷太は意識を取り戻す。


(思い出した。俺はタイムマシーンを壊すつもりでこの時代にジャンプしたんだ。健太郎は取返しのつかない勘違いをしている。歴史を変えようとしても修正される。過去を変えて、人を生き返らせるなんて無理なんだ。俺は何度もやったんだ)


 雷太の横に、横たわる真知子。息をしていない。


(真知子すまない。君を巻き込んでしまった……)


 健太郎が、タイムマシーンを使って作った、七色に光る穴がまだ小さく開いている。


(まだ間に合う。あれが閉じてしまったら、健太郎を追うことが二度と出来なくなる)

 

 光る穴に飛び込んでいく雷太。七色に光る穴が閉じていく。


 ズズズズズズ……






 雷太と健太郎が去った真知子の部屋に、


「勝手に入ってすみません。大きな音が聞こえて。何かありましたか? 誰かいますか?」


 お隣の山田(やまだ)さんが異変に気づき、家の中まで入ってきた。


「これは?」


 倒れている真知子の元へ駆けつけ、息をしていないことを確認すると、胸に耳を当てる。


「心臓が止まってる!!」


 すぐに抱きかかえベッドに寝かせると、真知子にまたがり心臓マッサージを始める山田さん。


 グッ グッ グッ グッ


「帰ってこい真知子!! 君が必要なんだ!!」


 グッ グッ グッ グッ


「絶対に死なせない!! 目を覚ませえええええええ!!」

04話いかがだったでしょうか?


ブックマークと、この下にある☆☆☆☆☆で評価してもらえると、僕の執筆作業の意欲になります。読者の反応を知ることが出来て、とてもとてもうれしいです。


次話は、最終話になります。


雷太は、健太郎と向き合い、そして、現実と向き合うことに……


最後までよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雷太と健太郎の動機がわかってきて全体像が見えてきました。もぐら叩きのような状態からどう進んでいくのか気になります。 [気になる点] 全体的に双眼鏡で覗いているような印象を感じます。 バトル…
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