02話 流れに逆らう者
とある研究室。杉崎雷太と六角健太郎が言い争いをしている。窓の外は、砂嵐が激しく舞う。
「こんなもの作ってはいけなかった!! 神の領域なんだ!! デスマーチを止めることは出来ない!!」
「それじゃあ、僕のお母さんは生き返らない?」
「悪い。今までの研究は無駄だった……」
ガッカリして、膝から崩れ落ちる健太郎。
バシャア バシャア バシャア
「何してるんだ雷太?」
雷太は、燃料は研究室に撒き始める。
「研究資料は全て燃やす。作ってはいけなかった。健太郎はジャンプしてないから分からないんだ。全てだ。全て修正される!! 俺が頑張ってやったことは無かったことになる!! 俺の人生をかけた全てだったのに!!」
ポケットからライターを取り出し、
ボウ
火をつけ、ライターを落とす。研究室全体に、火が燃え移っていく。
ガバッ
ベッドから起きる雷太。寝ていたみたいだ。
(夢……? 記憶……? あいつが健太郎?)
辺りを見回す。
(そうか、ここは真知子の家だった。いったい俺は何をしたんだ。思い出せない……)
部屋の隅に置かれたアタッシュケースを見つめる。
(このケースはいったいなんなんだ。思い出そうとすると、頭が痛くなる。きっと、思い出さなくても良い記憶なんだ。だから忘れた。きっとそうだ……)
昨夜、山越真知子の家に泊めてもらえることになった。簡単に泊めてもらえた訳では無かった。
家の前で、真知子は立ち止まると、真剣な表情で、雷太を見つめ話し始める。
「言って無かったけど、うちのお母さん男にうるさいのよ。この前なんて、包丁持って部屋に入って来たんだから」
「え…… やっぱり止めようかな…… 外で野宿しよう」
「良いの? 夜は蚊が活発になるよ」
「そうだった…… ちゃんとお母さんに説明してくれよ」
「大丈夫。私に任せて!! 隠れて私の部屋まで入っちゃえば、後は絶対バレないからさ」
「本当か?」
「はいはい、大丈夫大丈夫。ほら、行くよ」
「うーん……」
玄関から、電気をつけずに入る二人。
「真知子見えないぞ」
「しー。まっすぐ目の前の階段を登って」
パチ
玄関の明かりがついて、
「真知子遅かったじゃない? 何してたの? あなた誰?」
リビングから真知子の母がやってきた。その手には包丁が。
「お母さん。俺は怪しいものじゃないんです」
「クゥーちゃん?」
「へい?」
「クゥーちゃんの生まれ変わりよ!! ねぇそうでしょ?」
「はい!! 生まれ変わって戻ってまいりました!!」
母に聞こえないように、真知子に耳打ちする雷太。
「クゥーちゃんってなんだ?」
雷太に耳打ちし返す真知子。
「半年前まで飼ってた犬の名前よ。あなたにそっくりなの」
クゥーちゃんとは、隣に住む山田夫妻からもらった犬の栗太郎だ。栗色の毛からそう名付けた。今はもういない。半年前に亡くなってしまった。
「うれしい」
真知子の母の瞳から、涙があふれ落ちる。
ガバ
真知子の母が、雷太を包丁を持ちながら強く抱きしめる。
「お母さま!! ほ、包丁が!!」
キラリン
「あら、ごめんね。真知子持ってて」
「うん」
包丁を真知子に手渡すと、
ワシャワシャ
雷太の髪の毛を犬をあやすように撫でまわす。
(くそー。今は耐えろ!!)
話は朝に戻る。雷太が今いる部屋は、海外留学をしている真知子の兄の部屋だ。雑然と置かれた家具や本や服。
(汚い部屋だな。整理がまるでなってない)
ガチャ
ビクッ
真知子がドアを開けて部屋に入ってくる。昨日の真知子の母の行動は、雷太にトラウマを植え付けていた。
「おはよう。良く眠れた?」
「なんだ真知子か。ノックぐらいしろ。また母親に撫でまわされたら、頭がおかしくなりそうだ」
「ふふふふふ。でも、そのおかげでベッドで寝れたでしょ。良かったじゃない」
「まぁ、そうだが。だが、マイナスのほうが大きい」
ビリリリリリリ ビリリリリリリ
「電話だ」
ポケットから、薄いカード型の携帯電話を取り出す雷太。六角健太郎からの着信を知らせる画面が点灯している。
「六角健太郎。こいつが俺の過去を知っている男」
ビリリリリリリ ビリリリリリリ ピ
電話に出る雷太。
「もしもし?」
「もしもし。雷太?」
「ああ。そうだけど、健太郎だよな?」
「あはははは。記憶喪失ってのは本当なんだ。演技じゃないよね?」
「演技なわけあるか!! こっちは何がなんだか分からないんだぞ」
「ごめんごめん。僕は六角健太郎。君の友人だ。今は、友人だったというほうが正しいのかな? くくくく」
「笑うな!! 今日、夢を見た。どこかの研究室で、健太郎と言い争いをしている。最後に俺は、研究室に火をつける。あれは実際に起きたことなのか? 夢にしては生々しかった」
「……それは夢だよ。ゆっくり思い出せば良いんだ。話は変わるけど、昨日、雷太を襲って来たのは、RSCという会社だ。RSCは、ライジングサンコーポレーションの頭文字。軍事用の兵器を開発している会社だ。君とアタッシュケースを狙っている。アタッシュケースはちゃんと持ってるかい?」
「これはいったいなんなんだ?」
「すまない。今は言えないんだ。これは君のためなんだ。RSCが、またいつ君を襲いに来るのかわからない。だから、RSCのデーターセンターに侵入して、ウイルスを打ち込んで欲しい。それを君に頼みたい」
「健太郎がやれば良いだろう」
「すまない。そちらへはまだ行けそうにない。ウイルスを打ち込むUSBメモリーを送る。携帯電話でこちらに位置情報を送ってくれ。位置情報の送り方を教える。大丈夫、簡単なことだよ。君の社員証を偽造する。雷太はただ、社員証を入口の機械にかざして、データーセンターまで行って、USBメモリーを挿す。それだけだ。あとは僕がやる」
「大丈夫なのか? 敵のど真ん中に行っても」
「心配ないよ。変装グッツも送る。見つかることは無いさ」
健太郎から送られて来た、変装グッツを付け、RSCの本社ビルの前に立つ雷太。RSCはすぐに見つかった。オフィス街でひときわ大きい自社ビルだ。
会社の建物の中に入る雷太。
(大丈夫なんだろうな。こんな眼鏡とつけ髭だけでバレないか?)
会社の一階のエントランスでは、RSCが開発した製品が展示してある。雷太を襲ってきた人型ロボットは展示していない。どれも介護用のロボットだ。
(本当にこの会社なのか? どのロボットも俺を襲ってきたロボットより技術力が低い。まぁ、良い。難しく考えるな。早く終わらそう)
エレベーターの前に入室管理の出入口がある。駅の改札と似たようなシステムだ。
健太郎から送ってもらった社員証をかざすと、
ビー ビー ビー
(な!?)
警告音が鳴りだす。
「ちょっと良いですか?」
警備員に呼び止められる雷太。
「は、はい。なんですか?」
「今日は機械の調子がおかしいんですよ。代わりにこれで入ってください」
社員証の代わりのカードを渡される雷太。
「わ、わかりました」
「帰りにここに返しに来てください。よろしくお願いします」
「はい。ご苦労様です。ふぅー」
エレベーターに乗り込む雷太。警備員は、雷太を見送ると、
「もしもし、こちら一階入口。侵入者です」
インカムで連絡を取る。
エレベーターが止まり、データーセンターがある階で降りる雷太。
データーセンター入口で、再び入室管理システムに、カードを当てるも、
(反応しないな)
扉は開かない。
「動くな!!」
「えっ……」
警備員が背中から1人やってくると、すぐにもう二人警備員がやって来て、三人の警備員に囲まれてしまう。
(おいおい。どういうことだよ!!)
警備員に会議室まで連れてこられる雷太。椅子に座らされて、椅子ごと縄でグルグルに巻かれる。
「何が目的なんだ?」
「俺はな。あんたたちに命を狙われてるから、仕返しに来たんだよ」
「本当のことを言え!!」
「だから言ってるだろう。なぜ俺を狙う!!」
警備員に尋問される雷太。
ガチャ
そこへ、ドアを開けて入って来たのは北条有希。彼女は研究室の責任者を務めている。
「変な人が侵入してきたんだって? なんで侵入したの? 本当のことを言えば帰してあげても良いわよ」
「だからさ。あんたたちが俺を狙ってくるからだろう。人型ロボットを作ってるだろ?」
「なんでそのことを知ってるの? まだ開発中の秘密事項よ。あなたどこかで見たことがある顔ね」
「この前、そのロボットを使って俺を襲ってきただろう。危うく死ぬところだったんだぞ」
「なにを言ってるの? 私達はそんなことしてない。それに人型ロボットを使って襲うなんて無理よ。まだ、出来てもいないのに」
(どういうことだ。だって健太郎に…… まさかあいつ嘘を俺に教えたのか?)
ドゴオオオオオオオン!!
「うわ!!」
「きゃあ!!」
下の階から、爆発音が鳴り響く。
「あなた何やったの?」
「俺は何もやってない。また、俺を狙いに来たんだ。あんたらじゃないなら、誰が俺を狙っているんだ?」
警備員のインカムに連絡が入る。
「下でトラックが突っ込んで来たそうです」
「トラック? 監視カメラの映像をここのモニターに」
「はい」
会議室のモニター画面に、一階の映像が映し出される。
「きゃあああああ!!」
「うわああ!!」
「逃げろ!!」
逃げ惑う人々。入口を突き破り、一回の展示スペースにトラックが乗り上げ、黒煙が立ち込めている。
ジリリリリリリリリリ
サイレンが鳴り響く。
ザアアアアアアア……
火災用のスプリンクラーが起動し、一階全体に水を降らせる。
ガチャ
トラックの扉が開くと、大柄の男が降りてくる。雷太をこの前襲った人型ロボットだ。
「コイツだよ。おまえらの会社が作った人型ロボット」
「これがロボット? どう見ても人間じゃない?」
(この会社が作ったんじゃないのか? 健太郎……)
人型ロボットは、エレベーターに乗り込む。
「まずいぞ!! 早くこれをほどけ!! こっちに来る!!」
「大丈夫。あんな人型ロボットなんて有り得ない。人間よ。こっちは警備員が三人もいる。あの男を拘束して」
「わかりました」
ジャッキン
警備員達は、腰についた警棒を伸ばし、会議室を出ていく。
「おい、待て!! あんな武器で対抗できるはずないだろう」
「人型ロボットの研究をしているけど、あんなもの今の技術で作れるはずがない。あなたは黙ってて」
有希はモニターを操作し、映像を一階からこの階のエレベーターの前に切り替える。
チン
エレベーターのドアが開くと、人型ロボットが出てくる。
「止まれ!!」
ドス ドス
警備員の静止を無視し、人型ロボットが歩きはじめる。
「確保!!」
警備員が、警棒で殴りかかるも、
ガン!!
まるで何も無かったような涼しい顔をしている。
「障害を排除する」
ガン!! ドス!! ドン!! ドス!!
人型ロボットに、警備員は数秒で倒されてしまう。
「どういうことよ!? あなたの言ってることは本当なの? あれがロボットだなんて……」
モニターを見ていた有希は慌てふためく。
「早く、これをほどけ!! あいつは俺が狙いなんだ。殺される!!」
急いで有希は、雷太の縄をほどこうとするが、
「固い!! もう力いっぱい結んだのは誰よ!!」
ドス ドス ドス ドス
会議室の外から、大きな足音が近づいてくる。
「ほどけない!!」
ほどくのを諦めて、雷太ごと椅子を引っ張り机の裏へと、
ズル…… ズル……
引きずる。
ガチャ
会議室の扉が開くと、人型ロボットが入ってくる。
「はぁはぁはぁ……」
テーブルの影に隠れ、ロープを外そうとする有希。外そうともがく雷太。
ドス ドス
足音が二人に近づいてくる。
「対象を確認。任務を遂行する」
人型ロボットは、テーブルの奥に隠れいる雷太を見つけた。テーブルの奥にいる雷太に向かって突進する。
「外れた」
雷太のロープが外れ、すぐに避ける雷太。
ガシャアアアアアアアアン
「きゃあああああ」
有希は避けきれず吹き飛ばされる。雷太を狙った攻撃だったので、直撃は避けられた。
「くそ。あんとき倒して無かったのか」
ビリリリリリ ビリリリリリ
雷太の服のポケットから携帯電話が鳴り響く。
(健太郎からだ。今それどころじゃないんだよ)
人型ロボットと対峙する雷太。
ブシュウウウウウウウウ
有希が、会議室にあった消火器を人型ロボットにかける。
ビリリリリリ ビリリリリリ
「おっ、よくやった」
すかさず、会議室から逃げる二人。
「こっちに来て!!」
エレベーターに乗る二人。有希が社員証をかざすと、特別な人しか行けない階のボタンが点灯する。
「これで時間稼ぎ出来るはず」
有希が、ボタンを押すと、エレベーターは上へと動き出す。
ビリリリリリ ビリリリリリ
「どこに向かってる? 上に行っても逃げられないぞ」
「やり返すのよ!!」
「狙いは俺なんだ。俺がここから離れれば、あいつもここを離れる」
つけ髭と眼鏡をかけた雷太を見つめる有希。
「なんでだろう。あなたの顔どこかで見たことあるのよね。なんだか放っておけないの」
ビリリリリリ ビリリリリリ
「さっきからうるさいわね。電話に出たら?」
「そうだ。健太郎に聞きたいことがある。絶対におかしい!!」
ポケットからカード型の携帯電話を取り出す雷太。携帯の画面に六角健太郎の文字。
「何その携帯? なんでそんな薄いの?」
有希が話しかけるも、
「もしもし」
それよりも聞きたいことがある雷太は、電話に出る。
「雷太? ウイルスを打ち込むことは出来たの?」
「それどころじゃない。また人型ロボットに襲われている。健太郎何か隠してないか? 何かがおかしい。人型ロボットは、ここの会社のものでは無いと言われたぞ」
「すまない。ゆっくり少しずつ説明しないと、また雷太がおかしくなってしまうんじゃないかと思って」
「早く言え!! いったい何が起こっている?」
「後で説明しようと思ったんだけど、僕は未来から電話をかけている」
「はぁ!? どういうことだ?」
「落ち着いて聞いてくれ。君はそちらの人間じゃない。未来からそっちにジャンプしたんだ」
(何を言ってる? 冗談を言ってるのか? そう言われれば全ての辻褄が合う……)
「うっ」
頭を押さえる雷太。
(思い出そうとすると頭が痛い……)
「大丈夫? 雷太?」
「……」
「もしもし!! 雷太!! 返事をしてくれ!!」
02話も読んでいただき、ありがとうございます!!
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03話もよろしくお願いします。