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働き女子

「フリージア、君との婚約を解消させてもらいたい。君は悪くない。別に君に魅力がないわけではないんだ。ただ、これからも一生一緒にいるということに不安なだけなんだ。ほら、僕らってなんとなく婚約したわけだし、これからを考えた時、急いで婚約することもなかったかな、なんて思って」


「…わかりました」


 卒業したら婚約者のところで花嫁準備の予定でした。風潮として、卒業後の結婚を奨められる中、幼なじみでこれからも一緒でいいよね、という理由で私達はなんとなく婚約しました。マリッジブルーは私にもあったけれど、彼の方が影響があったようです。

 卒業まであと半年、卒業パーティーで婚約破棄を伝える人もいる中で、彼は誠実な方なのかもしれません。両親には何と伝えましょうか。ため息をつきながら帰路に就きます。



「わかった、お前たちは幼なじみだという理由だけで、本当に婚約してしまってたんだな。それだけの理由じゃ結婚生活は続けられないだろう」

 お父様があっさりと認めます。

「…お前も、アイツのことを一生添い遂げるほど好きなわけじゃないんだろ?」

 確かに。お父様の言うとおり、本当に好きな人だったら、縋り付いて泣きつくかもしれないですね。私も彼と同類です。

「卒業後は、どうすればいいかしらね」

 お母様はため息をつきながら首をかしげます。

「…王太子妃の侍女の採用試験を、今更遅いかもしれませんが受けてみようかなと思います」


「…そう」

 お母様は私が本当は職業婦人になりたいことを知っています。周りの結婚や婚約に流されて、「子供が大きくなったら行こうかな」と諦めていた夢です。こうなったらやりたいことができると思って、仕事ができるカッコイイ女性になりたいです。



 それからは毎日試験のための準備で学校から直帰していました。私が婚約解消されたことが周りにも伝わっており、口さがないクラスメイトからあることないこと言われるかもしれないと怖かったのもあります。もうすぐ卒業だし、クラスメイトとは関わらなくても構いません。

 卒業まであと一週間というところで試験でした。途中面接では自信のない答え方をしてしまい、不安でしたが何とか合格連絡をいただきました。

 王太子妃は私の学園での一つ上の先輩ですから、年齢的にも良かったのかもしれません。

 卒業後は直ぐに王宮にて研修が始まるため、授業が終わったらまた直帰して、準備に追われました。侍女寮へも入寮手続き完了です。


 卒業式の朝、お母様が言いました。

「頑張りなさい。自分で決めた道よ。後悔しないように思いきって、あなたらしく進みなさい」

 奮い立たせるようなその言葉に、今までもやもやと本当にこれでいいのかとちょっとだけ迷ったり悩んだりしていた気持ちが、スッキリとなくなりました。清々しい気持ちで卒業式に向かいます。私は王太子妃の侍女として、精一杯これから頑張るのです。


「侍女を目指しているあなたはとても素敵な顔をしてたわ。それぞれの道があると、感じさせられるの」

「婚約解消してよかったんじゃない?スッキリした顔してますわ」

「あちらからの婚約解消なんて、よっぽど魅力がなかったのね」

「やりたいことをやれるなんて、羨ましいわ」

 言いたいことをそれぞれ言っていましたが、もう気になりません。私は後悔しないように思いきって私らしく生きることを決めました。



 王太子妃リリーア様は昨年卒業から半年後に成婚されました。殿下との関係も良好とお聞きしております。


「今日のティーセットはだれ?」

(わたくし)でございます」

「…そう、いつもと違うから」

 まずい。何か失敗したのかしら。自分なりに工夫して、最新の雑誌から取り入れたのだけど。

 不安そうな私の顔を読み解かれたのか、

「いえ、違うのが、悪いと言っているわけではないのよ。いつもと違って良いと言う意味よ。あなた、名前は?」

「…フリージアと申します」


「そう、フリージア、あなたしばらくティーセットを担当なさい。期待しているわ」

 これはチャンスです。王太子妃リリーア様に名前を覚えていただくのは、上級侍女へのステップアップコースです。

「かしこまりました」


 王太子妃、というより王宮の侍女は主に3つに分かれています。下級侍女(中級侍女の手伝いやメイド業)、中級侍女(身の回りのお世話)と、上級侍女(貴人の執務の手伝いを含む業務)です。私は中級侍女からのスタートでした。

 試験から自信のあるティーセットを極めていて良かったわ。ご期待に添えるよう、さらに精進します。


 私は褒められたことで、さらにやる気を出しました。不得手だったお召し物に関しても色別鑑定士の資格を取ったり、外国語の挨拶だけでもできるようにと独学で図書館へ通い7か国分のよく使われる挨拶を覚えたり、パーティー用のセットについても先輩の中級侍女へ何度も質問して全体の流れも掴んだり。リリーア様もそんな私の努力を認めて褒めてくださるのですから、好循環が生まれて上級侍女へのステップアップも間近だと言われるようになりました。



「フリージア、あなた上級侍女を受験なさい」

 ついに、推薦をいただけました。私が王太子妃付き侍女になってから5年、王太子妃殿下リリーア様はお子様も生まれ、王太子殿下とともに今年の春、国王、国王妃になられます。


 私のさらなる試験勉強が始まりました。働きながら、今までの業務に加えて政務に係る一般的なことまで学んでいきます。先輩の上級侍女から研修を受け、海外のお客様へのマナー、執務室での業務一連の流れ、簡単な書類仕事、各場所への伝達など、楽しくて仕方ないです。

 そんな時、両親から連絡がありました。結婚に適していると言われるのは卒業時の18歳から20歳です。すでに卒業から5年経っておりますので、婚期を過ぎております。一緒に侍女として就職した人は結婚を期に3年前に辞めました。子供を産んでから復帰される人もいましたが、キャリアは一段階下からのスタートです。仕事に夢中で気付きませんでしたが、もしかしたら両親は婚期の遅れた娘がいると陰口を叩かれていたのかもしれません。それを気にする両親ではありませんが。


「おかえり。こうやってゆっくりするのも久しぶりね」

 王城の侍女寮へ入ってから5年。年に一度は帰省してましたが、数時間の滞在で帰ってましたので、たしかにお母様とゆっくりお茶を飲む時間はなかったかもしれません。

「上級侍女、推薦おめでとう。フリージア」

「…ありがとうございます。お母様」

 涙が出そうになるほど嬉しいです。お母様がアドバイスしてくださったティーセットの工夫から興味を持ち、侍女になりたいと話していたことを思い出します。


「早かったな。おかえり。フリージア」

 お父様も仕事から帰ってきたようです。同じ王城内で働いていますが、お父様は騎士部門で全く違うので王城で会ったことは一度もありません。

「急な呼び出しですまない。休みは取れたのか?」

「はい。今日は泊まっていきます」

「久しぶりにゆっくりだな。…夕食後に話そう」


 何でしょう。上級侍女の試験の前にわざわざ呼び出しなんて。すでに家は兄が継いで子供もいます。だからこそ好きにさせてもらえるこの環境に感謝してます。


「お前に縁談がきている。私の上司直々だからすぐに断ることもできない。お互いもう婚期も過ぎているし、見合いだけでもやってくれないか?」

「え?」

 私に?結婚するつもりはないので、見合いをしても断るつもりですが、せめて試験の後にしてほしい。集中したいです。それに

「もう婚約はしたくないです」

 正直不安です。婚約解消されているのは事実ですし、婚約に対してはっきり言って嫌なイメージしかないのです。


「…試験が終わってからでいい。見合いだけだ。頃合いを見て断ろう」

 それがいいと思います。

「試験準備は順調?見合いはお断りするつもりかもしれないけれど、失礼のないようにドレスやアクセサリーを準備しておきましょう。いつ買いましたの?その私服」

 はい。おっしゃる通りです。お母様。働き女子はオシャレにも気をつけましょう。上級侍女になってから必要になることもあるとお聞きしましたし、お見合い用とあと何着かついでに購入しましょう。



 試験は最終確認のようで、国王との面接もありました。緊張しましたが、なんとか応答できたかと思います。


 あとは気が乗らないお見合いです。一応ちゃんとした形になるように、一旦実家に帰ってお迎えを待ちます。そういえば、断るつもりだったので、名前も聞いていなかったわ。お父様の、上司の紹介と仰ってましたけれど。


「本当に興味がないんだね。名前はオウリアンと言うんだ。今は騎士団長だ」

 お父様!愉快そうに言ってますが、あのオウリアンですか!?女性はおろか、泣く子も黙る、あの視線に殺されると恐れられるあのオウリアンですか?というか、私よりもかなり年上のようですが、まだ結婚されてなかったのですね。女性が怖がってお付き合いもないのかしら。


「そんな顔をするな。会うだけだ」

「そうよ、会ってみなきゃわからないじゃない」


 そう言うお母様にお任せでどんどん準備を進められ、お見合い用に買った新しいブルーのドレスを纏い、王都で有名なカフェレストランへ向かいます。予約してますので、すぐにカフェテラスへ通されました。


「…来ませんね」

「時間は合っているのだが、何かあったのだろうか」

 お父様と一緒に待ちます。



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