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ミカン  作者: 日次立樹
2/5

room2

 ぱら。




 さて、二度目のおはようだ。いやもしかしたら何千回目かもしれないけど、そういうことにしておいて。私にはわからないから。白い壁に向かって語りかける。寝返りを打つと、がらんとした空間が目に入る。一度目と同じ部屋のようだった。

 何の前触れもなくパチリと目を覚ますのは、まるで私が機械にでもなったようで面白い。いつもはもっとグダグダと寝汚(いぎたな)い私を起こすのに苦労するのだという。そういうことになった。ただ、私がまだこんな部屋にいるのもそんな風に寝汚いというのも、すべては例の〈誰かさん〉がそう決めたせいなので私を責めるのはお門違いというものだ。やめていただきたい。

 相変わらず私には大した記憶がないようだ。記憶――この言い方はわかりにくい。記録、情報? 何かしっくりくる言い方はないものか。まあそれはまた考えることにして(時間はたくさんあるだろうし)、寝る時の姿勢とか、起きる時の様子とか、そんなことばっかり知らなくてもいいだろうに。それは私が思うようにくだらないことだろうか、それとも本当は必要なことなのか。何のために?


 部屋の中を見回す。前とちょっと違うのはベッドから手の届く位置に窓ができたことだ。まだこの窓は開かなくて、外の景色はのっぺりした空色なのだけど。そのせいで一見、壁を四角く切り取って水色に塗りつぶしただけのように見える。それから、ベッドのわきには小さなテーブルが置かれて、水差しとコップが置かれている。水の色がインクを落としたみたいに青かったり、コップがガラスのくせにプラスチックの質感だったりするあたりはどうにも詰めが甘いと思うのだが。まあ、そんな感じで部屋をぐるりと確認してみれば、前回よりは少しだけ病室らしくなったかもしれない。

 私はしばらくぼんやりと部屋を眺めてから、この部屋が青と白の二色で構成されていることに気づいた。白い天井、白い壁、白いベッド。水色の衝立に空色の窓、水差し。鏡がないので瞳の色は確かめられないが、視界に入る限りでは私の髪だけがまるで異質なもののように黒かった。


 ぱっと急に部屋が明るくなる。今度は部屋の中心から。円盤みたいな平べったいライトが、天井に埋め込まれた形の小さな丸いライトに代わっていたことに気づいた。そのライトがついたのだ。その光はスポットライトのように部屋の中央に置かれたものを照らし出した。病院みたいなリノリウムの床の上、白い光で照らされているのでわかりにくいが、白くて薄い長方形に見える。私は初めてベッドからおりて歩き、それを拾い上げた。

 それの正体は手のひらサイズの小さめの封筒だ。開けてみるが、中にはメッセージカードのようなものが一枚入っていたきりだった。封筒を裏に表にひっくり返してみる。差出人の名前もなければ宛先もない。真っ白だ。ここにはまだ私しかいないようだから、私宛てなのだろうと見当はつくのだが、どうにもそっけない。

 封筒の中身をメッセージカードのようなもの、といったのは、それが白紙だったからだ。何の模様もないただの四角い紙だった。コピー用紙よりは丈夫で、夏休みの絵の宿題に使うような画用紙よりは頼りない、そんなかたさの長方形のカードだ。図工の授業でよく使うケント紙を思い出す。切り紙なんかをするやつ。

 たぶん、〈誰かさん〉はここから何かを始めるつもりなのだろう。物語の始まりにはなにかきっかけが必要なのだ。白紙ではあるが、それは未来と希望を感じさせる白さだった。なるほどなるほど。これはいいことだ。いいことが起きているときは流れに乗ってしまうに限る。余計なことをして〈誰かさん〉が拗ねてしまっても大変だから。


 私はメッセージカードと封筒をテーブルの上に置き、ベッドに横になる。するとすぐに眠くなった。

 まぶたの向こうがふっと暗くなったから、明かりが消えたのだろう。

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