room1
ぱた、ぱらり。ぱら、ぱら。
私は目を覚ました。
白いシーツ。無音の部屋。ぱちぱちと何度か瞬きをして、私はやっと自分が「目を覚ました」ことを理解する。
こうして目覚めるのは、もう何回目のことだろう。十回目かもしれないし、百回目かもしれない。もしかしたら同じことを延々と繰り返していて、そんな回数はとっくに超えてしまっているのかも。そんな気もするが、とりあえずこれは一度目のおはよう、だ。
ベッドの上で上体を起こし、病室のような白い部屋をぐるりと見回す。広さは、小学校の教室よりも少し狭いぐらいだろうか。ほとんど物のない、がらんとした部屋だ。天井の形は正方形で、真ん中にどら焼きみたいな円盤型のカバーがついた丸いライトが取り付けられている。明かりがついているのかどうかはわからなかったが、部屋の中はぼんやりと明るい。両手を真っすぐ前に差し出す。床に影はできなかった。私のいるベッドは壁際に置かれていて、反対側の壁際に学校の保健室にあるようなキャスター付きの水色の衝立がある。かすかに消毒液のようなにおいがしたが、それは保健室のような、と先ほど想像したイメージと結びついただけの幻かもしれない。
白い部屋の中に見えるものはそれだけだった。窓もドアもない。ベッドから届く壁に触れると、つるりと冷たい感触がした。なんというか、ひどく作り物めいた――いや、人工物であることは間違いがないのだが――現実味のない部屋だ、と考える。私はどうやってここに来たのだろう。どこかに隠し扉でもあれば面白いのだが、それでは私がこんなところにいる理由があまり平穏ではなくなってしまいそうだ。海外製のミステリーであった、天井が開くようになっていてそこから室内に死体を投げ入れ密室を作った、というトリックを思い出した。模様があるようでないような、特徴のない白色の天井を見上げる。目を凝らしてみるが、それらしい継ぎ目は見当たらなかった。知らない天井だ、とお決まりのフレーズが頭の中をよぎった。お決まり、それはいったい何の話だか。起き上がってから言うセリフじゃないし。そもそも私は眠るときいつも右側に体を丸めて眠る癖があるので、目を開けた時に真っ先に目に入るのは白い壁だった。それから、耳の横にそえるように投げ出された右手だろうか。そう、あとは白いシーツ。さっき起きた時みたいに。
つまらない話はここまでにしておこう。
突然だが、私には記憶がない。名前は何で、年はいくつで、今までどこにいて何をしていたのか、そんなことがさっぱりわからないのだ。驚いたかな。まあこれは、私が交通事故にあって記憶喪失だとか、ずぼらな〈誰かさん〉が作らなかったとか、そういうわけではない。まだ白紙なだけだ。これから先はお楽しみ。そう。
ところであの衝立の向こうには扉があるんでしょうね、頭の中で〈誰かさん〉に向かって投げかけてみるけれど、当然返事なんかこない。いつも私の言葉なんてちっとも聞きやしないんだから。もしかしたら、私がこんな風に動いて、考えて、あまつさえ問いかけてくることがあるかもしれないなんて、思ってもいないだけなのかもしれないが。
ふっと部屋が暗くなった。部屋の中心から隅に向かって光が消えたのではなくて、例えばもとは壁全体が光っていてそれが一気に消えてしまったような暗くなりかただった。影といい、この消え方といい、天井のあのライトはただの飾りなのだろうか。それともほかに何か用途があるのだろうか。
とにかく部屋の観察はもうできないので私は目をつぶった。




