鳥のような彼女
あの日神様はどうしたかったのだろうか。
「おとぎ話の踊り子はお空で神様と生きているのかな?」
爽やかな緑の髪を頭の高い所で2つに束ね、動きやすいよう毛先をまとめた少女は陽の光を浴びながらそう聞いてきた。くるくると軽やかに回転し木の上の鳥にこっちにおいで、と媚びを売るが鳥に効く訳もなく相手にされていない。
「そんなこと僕がわかるもんか」
1刻置きに湧き上がる噴水はついさっき仕事を終え、今はちょろちょろとさぼっている。ラピスは噴水の端のかわいた部分に腰掛け、今日も朝から元気に踊る彼女を眺めていた。
「ラピスはいつも素っ気ないんだからーもう。そんなんじゃモテないよっ」
純粋なその言葉がチクリと刺さるが平静を装いながら話を戻す。
「んー、じゃあレイラとしては神様の世界で人間が生きれると思ってるの?」
レイラと呼ばれた少女は鳥を諦め、とたとたとラピスの所へ駆け寄った。
「おとぎ話はなんでもありでしょう?生きてたっていいじゃない」
「まぁそれもそうだけど」
前提がそれだから答えがないのが難しい。
「でもさ、人間は歳をとるじゃない」
「うん」
「もし連れていかれた踊り子さんが死んじゃったら、神様はどうするんだろうね」
「どうするって」
「寂しくなって代わりの踊り子さんを探しに来るのかな」
何故そんな話をしてきたのか分からない。ただ、レイラの顔は何処か不安そうに見える。
「そんな神様は悪者みたいなことしないよ」
励まそうと少し声を大きくする。
そうかな、とレイラは控えめに笑った。もっと君を笑顔にしたいのに、僕は無力だ。
「そういえばもうすぐお祭りだね!」
「あ、ああそうだね」
聖地であるサラナでは毎年外部からも人が大勢やってくる祭りがある。外面は街の大きな催しであるが、実際は優れた踊り子達の首都進出へのアピールの場のようなものだ。
「明日、朝からメンバーと配置の発表だったよね!」
待ちきれない、といった顔でレイラはまた踊りだす。
「ラピスとたくさん踊りたいんだ!」
「僕と?」
「だってラピスはこの街で一番上手だもの」
「レイラの方が成績いいじゃないか」
実際、レイラは評判がよく、外部からも大人顔負けの人気を集める。彼女を見に観光へやって来る程だ。
「人の評価なんて関係ないわ。私はラピスの踊りが1番好き」
真っ直ぐにこちらを見据え、さらりとそう言い放つ少女と小さい頃から一緒にいて恋しないなんて無理な話だ。
「…楽しみだね、明日」
そんな心の内を未だに明かしていない意気地無しの僕には彼女の真っ直ぐな瞳が眩しい。
その場しのぎのような言葉しか出てこない弱気で逃げている僕は君には相応しくない。
だって本当は気づいてるし期待してないんだ。僕は君と公式の場で踊ることなんて出来ないって。
「私はラピスと一緒に踊ってこの街を飛び出して世界で有名になるの」
夢を語る彼女が益々遠くへ行った気がした。