心のどこかで
久しぶりの投稿です、
「私達はこの目で確かめに来たの」
その事件は丁度10年前の春、聖地が暖かな音楽で包まれている時に起こった。
あの頃とは違う、励ますような賑やかさに包まれたサラナ。1人の青年は言う。
「あの時、皆居なくなってしまった」
1人の老女は笑う。
「…嗚呼、昔の活気が懐かしいねぇ」
1人の少年は夢を見る。
「聖地を、いつか見てみたいな!」
ある青年は心のどこかで思っていた。
「奴らを殺せるものなら殺してやりたい」
「貴方はどうする?ラピス」
合った目を外さないまま、ニアは問いかける。
「…なにが?」
彼女から逃れるように顔を背ける。これで二度目だ。
「ここで悲しむだけで貴方は報われるの?」
何を分かっているかのように、と苛立つ。
「死者のために…慈しむ以外に、何ができると言うんだ」
ニアが近づいてくる。信用していない相手との距離が詰まるようで、高圧的な雰囲気のニアから距離をとるように仰け反る。
「後悔するよ?」
小さなテーブル越しに前のめりになったニアの髪が頬を撫でる。
睨むように見たニアの顔は
その思いを経験した街の仲間と同じ表情をしていた。
どうしてお前がそんな顔をするんだ。ついさっき出会ってこっちの事情なんて知らないはずのお前が。
ずっと考えが読めない目の前の彼女達がレイラを探している理由をまだ聞いていない。分からない中で、話していく中で…短時間の間に僕は自分を見つめ返させられたような気がする。
僕は、一体どうしたいんだろう?
「私は後悔したくないから今ここに居るの」
考えを巡らせるラピスにお願い、とニアは続けた。
「レイラ・ローレンスに会わせて」
圧倒されながらも、時折見せる彼女の素の必死さはどうしようもなく手を貸したくなる魅力があるなと冷静に考える自分が不思議だ。
ニア、とカナが宥めるように声をかける。はっとしたようにニアは小さくごめんなさい、と言うとラピスから離れていった。
「僕は君達の期待に答えられない」
ちゃんと、伝えようと思った。彼等は彼女に会うことが出来ない。
「…そこまで拒否するのなら俺ら勝手に街の中探しちゃうけど」
サナが笑って、それでも冗談とは思えない口振りで言った。
「探したいのなら探せばいい。だけど君達はレイラに会うことは出来ないよ」
ふ、と自分の口から息が漏れる。現実を改めて思い返された気分。目を背けたくて笑って生きてきたのに。
まさか、とカナが口を動かしたのが見えた。言葉にしたくないような、雰囲気。嗚呼そうだよ、僕は本当はその言葉を音として、響きとして、この世に出すのが嫌だったんだ
「レイラ・ローレンスは死んだ。この世にはもう存在しない」
目の前の3人が初めて明らかに表情を歪めた。いい気味だ、と思った僕も相当性格が悪いんだなと他人事に感じる。
頬が温いなと思ったら自らの涙だった。
あれ、僕はまだ泣くことができたんだな