木漏れ日の中で
道を外れ、狭い路地を歩き階段を少し登ると木に囲まれたラピスの家が見える。
「随分個性的な建物ね」
「正直な感想を言ってくれてもいいけど」
自分の家が酷い状態なのは分かりきっていた。
「そう?なら、木に囲まれた屋根のない小屋なんて初めて見たわ」
「僕の家を小屋呼ばわりなんて本当に酷い人だ」
正直に言い直すニアにラピスはわざと悲しい顔をしてみせる。
「なっ…貴方が正直に言えって言ったんじゃない」
むっとする彼女の顔を見て勝ち誇ったように笑いながらラピスはドアを開けた。
後ろでは「もう仲良しになってるじゃんニア~」と言うサナにニアはそんなつもりないわよ!と言い返している。
勿論同意だ。僕は外部の訳の分からない人間と仲良くする気などない。
ニアの言った通り、屋根の欠けたラピスの家は周りの木々がその代わりを果たし、天気のいい今日は木漏れ日をもたらしていた。
「悪いね、見ての通り裕福じゃないんだ。おもてなしするお茶なんかは期待しないで欲しい」
茶葉の“ち”の字すらない。と戸棚を開けてみせる。
「あら、お構いなく。こう見えてそんな図々しい育ちはしてないのよ」
それは助かる、と戸棚を閉め家に唯一ある椅子に腰掛けた。
「あのマトラニアから来たんだ、この街は酷く荒れて見えるだろうね」
「まぁ元々聖地だって聞いてたしね」
地べたにドサッと勢いよく座り込みながらサナは口を開いた。
「1度も拝んだことが無い聖地に実際着いたら荒れた遺跡のようだったんだからさ」
サナ、と制するカナにはいはい、と手をヒラヒラさせる。
「でもカナだって思っただろー?今のこの聖地は賑やかな遺跡って呼んだ方がお似合いだって」
何も言わないカナをみてサナは満足そうに、俺ら昔から思ってることは一緒だもんね〜と笑った。
「10年前、マトラニアである企業一家が襲われた事件を知っているかしら」
仕切り直すようにニアが口を開く。
「マトラニアの?」
突然の話題に困惑する。
「子供達に人気のあった美味しいお菓子屋さんの話〜」
サナはごろん、と床に寝そべる。
服が汚れるだろ、とため息をつきながら諦めたようにカナはサナの横に座った。
「ここ、サラナにも新店をだす計画があった菓子店よ」
そういえば街の人々が話していたのを聞いたことがあるのを思い出す。
「血塗れの次女だけが朝日の下生き残ってたってやつか…?」
使用人までも殺され、長女は連れさらわれたという。当時そんなホラーで現実味のわかない話に、何処までが真実なのだろうと疑問に思ったものだ。
「あはっ血塗れの次女だってさ」
サナは目を細めながら笑う
「その犯人達はある集団組織だったの」
でも、とニアは続けた。
「手に入れたいものがあったから事件を起こしたのに、間違えちゃったみたい」
「……間違えた?」
意味ありげな言い方に不審がると、忘れて?とニアは言う。
「大事なのはそいつらはマトラニアを出た後聖地に向かったという事実よ」
思いがけない言葉にラピスは目をみはり、ニアを見る。
ニアは、ラピスを見つめていた。