賑やかな街
雲がちらほらある空に今日も太陽が顔を出した。
寂れてしまった街でも、朝から子供達の元気な声が聞こえてくる。
青々とした空が反射するような白い髪を腰まで伸ばし、三つ編みにまとめた青年はその声を聞きながらぐっ、と背伸びをした。
「やぁ、おはようラピス!今日も生きてたな」
早々と仕事を始めていた男が、赤い果物をこちらに放り投げながら話しかけてきた。
「おはようマキ。縁起でもないこと言うなよ」
苦笑いしながら果物を齧る。甘くて、ただ後味は酸っぱい。
「そういや、広場で5区のばあさんが話し相手探してたぞ。行ってやったらどうだ?」
「ああ、分かった。そうするよ」
青年は腰に布をまき、広場の方へ走り出した。
彼の名はラピス・アルバート。
この街に守られ隠れながら過ごす
街唯一の踊り子である。
「お前さんはいつも笑顔だなぁ」
ジャムづくりをしている鍋をかき混ぜる手を止めないまま、サリアおばあさんは呟いた。
「どうしたのさ、急に」
ラピスはハーブをちぎる手を止め尋ねた。
「ああ、その手を止めるんじゃないよ。一日は短いんだ、こんな歳とったばぁさんにとっては更にね」
彼女はぺちぺちとしわくちゃになった手で、ラピスの腕を動かすよう促す。
「ごめんごめん」
相変わらずだな、とラピスは作業を再開した。
「ただ、わしはそう思っただけさ」
「思っただけ?」
「そうさ、思っただけ。お前さんが笑ってる以外の顔をばぁさんは忘れてしまったんだよ」
自分が美人だった記憶だけはあるのにな!とサリアおばあさんはカッカッカ、としわくちゃな笑顔を見せた。
「サリアおばあさんの笑顔には勝てないなぁ」
と、ラピスもつられて笑った。
自分が最後に笑顔以外を街の人に見せていたのは、いつだったか。
そんなのもう自分でも思い出せない。
「ラピス!今日は踊ってくれないの?」
昼過ぎ、木陰で休んでいると子供達が駆け寄ってきた。朝から遊んでいたのによく疲れないな、と思わず感心してしまう。
「いいよ、行こうか」
ラピスは子供達の手を取り歩き出す。
どこからか笛の音が聞こえてくる。子供達が言い広めたのだろう。街の人々が仕事の手を止め集まってきた。
湧き上がる手拍子とリズミカルな音楽の中人々の為に踊る。今、この時だけラピス・アルバートは踊り子として存在できていた。