溢れた宝石
街の奥の練習場にたどり着いたが、レイラの姿はどこにも見えなかった。
サラナの街は閉塞的に見えて街の外へ出る通路は外周にいくつも存在する。その為何かあった時は街の外に逃げることが人々に染み付いているのだ。この練習場の裏にもその逃げ道があり、ラピスが辿り着いた時には避難が進められていた。身を隠しながらここに辿り着いた人達が、流れるように街を去っていく。
もしかするともう外に逃げたのかもしれない。近くで両親と合流する為に隠れていた同じ練習場の踊り子2人を見つけ話しかけたが、彼女たちもレイラの居場所は知らないようだった。
「レイラってば、すぐに飛び出してっちゃったの。私は大丈夫!って」
「あの子じっとしてられなかったのね。正義感強いもの。流石にもう逃げてはいると思うけど…」
レイラが名指しで追われているんでしょ?と彼女達も知っているようだった。 入り組んだ道が多く、隠れ家のような場所が点在するサラナの街では、武力侵攻より情報伝達の方が早いようだ。
「ラピスも踊り子なんだから…捕まったら何されるか分からないわよ。…無事にまた会いましょうね」
そう言って彼女達も家族と合流し街から逃げていった。
「計画的に見せているが、逃げ道は何処も塞がれている様子もないし…あまり頭が良くは無さそうだな。突発的な襲撃のような…ただの雇われのような気もするが、それにしては人数だけは多い」
そう言いながらこちらに歩いてきたのはマキの父親だった。
「おじさん!」
「よう、ラピス無事だったか。うちのガキはとうした?」
わしゃわしゃとラピスの頭を撫でる彼は屈強な身体をしていて圧があるように感じるが、話すとかなりフランクな人だ。
ラピスはここに来るまでのことを話す。
「ばぁさん抱えて外に出たんなら上出来だな。皆続々と街の外に逃げてるが、お前は嬢ちゃんを探すのか」
こくりと頷く。アテは外れた、次は時計台だ。
「わかった。止めても聞かないだろう、気をつけろよ。もし街の外で嬢ちゃんを見かけたらこいつを祝砲みてぇに鳴らしてやるよ」
護身用の銃をくるくる見せびらかし、笑ってそう言うマキの父は、口調は冗談めかしてることが多いが頼もしく、何よりも暖かい目をしていていつも背中を押してくれる。
「ありがとう。おじさんも気をつけて」
礼を言い、時計台に向かって走り出す。
上に向かう長い階段道を登っている途中、息が切れ少し立ち止まって後ろを振り返る。少し視界が開けていて、建物の上から街の広場が見えた。
「あっ…」
街の警備隊が必死に抵抗しているのが目に入った。直視できず、逃げるようにまた階段を登り始める。警備隊の人達も知り合いばかりだ。つい昨日まで街が平和で、平和すぎて、彼等は祭りに参加者として居られないことを嘆いていたのに。
「くそっ…」
無力な声が口から漏れた。
数分駆け登り続け、やっと時計台にたどり着いた。爆発が起きてすぐに逃げた人が多かったようだ。住宅街を通ったにもかかわらず、ここまで誰にも会わなかった。
息を上げながら時計台を見上げる。
ここには普段時計台を管理しているお爺さんが居るが、彼も既にこの場を離れている。
下ではあんな騒動があっているのに此処だけは何も無かったかのように静かだ。
不思議と落ち着く雰囲気で上がっていた息も整っていく。中に入り、駆け足で短い外通路を渡っているその時
「ラピス!!」
ずっと聞きたかった声が聞こえた。
スローモーションがかかったかのように自分の身体がその声のする方へと向く。
声の主は、さっきまでラピスが居た時計台の入口に立っていて、
泣きそうな顔の彼女と目が合った。
頭がぼおっとする。
気がつくとレイラに抱きしめられていた。
「レイラ、」
「らぴす、ラピス、会いたかった」
腰に回された手は小刻みに震えていて、温かい。嗚呼、本物だ。生きている。ずっと探していた。ここに居る。目の前で生きている。
いっきに理解してぶわっと心があつくなる。彼女の頬を包み、目を合わせて存在を確かめた。
「レイラ、本物だ。生きてた、良かった、会えた、探してたんだ僕きみを見失ってあの時すぐに追えなかったのを悔やんでてそれでレイラが追われてるのを知って守らなきゃって」
「らぴ、す」
ぽろりと彼女の瞳から涙が零れた。つい先日も見た、綺麗な宝石みたいな涙
らぴす、あたし、しにたくない
ぼろぼろと溢れる涙はラピスの両手では受け止めきれず腕を伝って流れていく。
「泣かないで、れいら、逃げよう」
「あたしのせいでみんなけがして」
「大丈夫、だいじょうぶだからっ」
なんて根拠の無い大丈夫なんだろう。
抱き締め返した彼女は一際細く小さく感じた。




