レイラ・ローレンス
物騒な音が聞こえる。
転んで怪我を負った子供の手当をしていると、慌てて中央通りから逃げてきた大人達にこの騒動の目的が自分なのだと聞かされた。みんな祭りの主役の踊り子だからだとか、踊り子の価値がとか言っていた。金持ちが欲のために連れていこうとしていると。
だけどそれは少し違う。
私だけは分かる、しっている。
「私がレイラ・ローレンスだから」
ぽそりと呟いた言葉は周りの音にかき消され、誰にも届かない。
街の人たちが、大切な人達が傷ついている声がする。音がする。
「私が出ていけばおさまる…?」
「…!!何言ってるんだ!!」
無意識にでた2つ目の言葉は思ったよりも大きな声だったらしく、周りを囲んでいた大人たちにものすごい喧騒で言いつけられた。
「レイラの代わりは居ないんだ、そう易々とあんな奴らの前に行かせるわけないだろう!」
「私のかわり、」
「小さな頃から見ていた、ずっとこの街で育ってきた家族をこんなことで失う訳には行かないよ、いいね?」
「かぞく、」
単語しか口から出てこなくて圧倒されたのだと思い当たる。
家族、大切な人
「らぴすはどこ…?」
「ラピス?」
大切な友人ふたりを置いて飛び出してきたことを思い出した。ラピスとマキのことだ、自分のあとを追ってこの惨状の街に降りてきてしまっただろう。
「私は見てないよ。皆は?」
3区に住む面倒見のいい婦人が軽く周りに聞いてくれたが、誰も2人を見た人はいない。
自分を探して、踊り子が集まっていたステージのある中央通りで巻き込まれたのではないかと思うとぞっとした。
人々が、一緒に街の外まで逃げようと言ってくれるのを無理矢理断り1人で路地に走る。一緒にいたら巻き込んでしまうかもしれないし、何より自分が明らかに狙われる様子を、弱い自分を優しい彼らに見せたくなかった。
レイラとしての人生はここで終わっちゃうの?
そう思ったら涙が出そうになって慌てて空を見上げると時計台が目に入った。他の場所は爆発でほとんど被害を受けていたが時計台だけは変わらない形で建っている。
「ふふ、カウントダウンの鐘なんか鳴らさないでよね」
ずっと何処かで不安に思っていた。どうにか逃げたいと、考えないようにしていたんだ。
「ラピスに散々ステージに立とうって言ってたのに、私だって逃げてたんだもんね」
体を奮い立たせ、1歩ずつ時計台に向けて歩みを進める。
「負けないし、奪わせない」
自分の運命に宣言する。
「私はレイラ・ローレンス。私は知っている。私が偉大なる神メトゥアルノの依代とされる運命の舞う代である事を。」
踊れ、笑えと自分が生み出すものとは別の力が訴える。自分の身体は特別なのだと、何年も何年も何年も…自分が教えてくれていた。おとぎ話では国の争いを止めるためにメトゥアルノを現界させる儀式が行われた。正直それもどうかと思う。人が命をかけないと世界が変わらないなんて。ましてや、今は国全体が戦争に包まれてもいないし、自分達は充分幸せに暮らしていたのだ。そんな中命を差し出して儀式を行うために自分をこんな風にさらおうとするなんて。
「私の大切な街を傷つける人達がする儀式の餌食なんかになってたまるかっっ」
微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ラピス…?」
聞き間違うはずがない。私の大切な人。失いたくない人。私のことを好いてくれていて、優しくて、口では諦めたように言いながらも踊ることを辞められない………私の愛しい人。
私を探している。
「ラピスっ、、、」
他の人達は傷つけたくないと突き放したのに、どうしようもなく彼に『今』会いたい。
「会いたいっ私はここ、」
我が神メトゥアルノよ、どうか私からラピスを奪わないで。




