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生きる彼等に成敗を  作者: あの時の塩分
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主役の笑顔と花の香り

翌日、いつも行っている練習所に踊り子達は、浮き足立った雰囲気で集まった。不安そうな声や期待する声が飛び交う中、僕はレイラとふたりでステージ正面の席に腰掛ける。

「皆楽しそう。やっぱりイベント事は皆笑顔になるからいいね」

もちろんこれから一喜一憂はあるけど、とレイラは笑う。

普段から踊りを指導してくれている女性が手元の時計を見つめ、少しして時間になったのだろう。ひとつ息を吐き、集まる踊り子たちのほうに顔を向けた。

「みなさん。発表しますよ」

いつも余裕のある雰囲気で指導している彼女も今日は落ち着かず、それでも楽しそうに言った。


レイラは1番に名前を呼ばれた。つまり主役。年上の子も大人も飛び越えて、主役に選ばれたのだ。国中の人々が集まる聖地の祭りで主役で踊ることは、踊り子にとって名誉ある事と同時に、有名な踊り子としての華やかなスタートラインだった。

悔しがる人もいたが、誰からも文句はでなかった。皆が認める踊り子レイラ・ローレンス。喜びと自信に満ちた笑顔を見せる彼女がただただ誇らしかった。

その後も次々と踊り子達の名前が呼ばれ、一人ひとりが喜びの声をあげながらステージ上に配置されていく。僕はステージの上で光る照明を眺めていた。端から2番目のちいさな電球が他の電球の影で密かに点滅しているのを見つけた。

あ、切れる。

「以上になります」

その言葉に賑やかだったステージがしん、と静まり返った。ついさっきまであんなに賑やかだったのに。

眺めていた電球は光を失い、中途半端な飾りになっていた。まるで僕みたいだ。

「ラピス」

聞きなれた声が僕の名を呼んだ。久しぶりに見たステージ上には、僕以外の踊り子達がずらりと並びこちらを見つめている。

僕はステージの真正面の席に座ったまま。

僕だけ、呼ばれなかった。

「せんせい、どうして」

レイラ、そんなか細い声似合わないよ。

「なんで」

だって

「僕が男だからだよ。レイラ」

落ち着かせるように僕はレイラに微笑んでみせた。あぁ、この席に座っていてよかった。ステージ上にたつレイラをこうして正面から見ることが出来ると思ったんだ。レイラはステージの真ん中、1番光が集まる場所が似合う。

「僕は男だ。どれだけこの中で最も輝かしいレイラが褒めてくれるくらい踊れても、公式の場で僕は踊れないんだよ」



「レイラ。待って。待てってば」

ずんずんと早足で歩く彼女の腕をやっと捕まえる。華奢で、色白で。最低限の筋肉で軽やかに踊る彼女にはステージで降り注ぐ淡い色の花びらがよく似合った。

「レイラ」

捕まえてやっと立ち止まった彼女の名を呼ぶ。練習所からだいぶ歩いてきた。街にいくつもある階段路地にも昼が近くなれば太陽は上がり、影は行き場を失う。彼女の白い肌が焼けてしまわないよう、まだ影の残る道の隅に手を引き誘い込んだ。

「だって、おかしいじゃない」

ようやく口を開いた彼女はくぐもった声をしていた。そっぽを向き、こちらを見てはくれない。

「どう考えてもおかしい。そんなハズない。なんで」

「れい」

「ラピスがステージにすら立てないなんておかしいじゃない!」

僕の言葉を遮ってそう叫んだ彼女とやっと目が合った。その瞳から溢れる涙が、そんなことを考えている場合じゃないのに、日陰でも微かな光を集めて綺麗だなと思った。


「聖地の決まり事だ」

「決まりって何、誰が決めたのこんなの」

「…おとぎ話、?」

誰が決めたとかそう言われても昔から決まっていたことで困ってしまう。決まりは決まり。そもそも踊り子としてラピスが普段踊らせて貰えてるだけでも普通ではありえない事だ。

「あんなおとぎ話のせいで私はラピスと踊れないの?ありえないんだけど」

レイラは苛立ちを露わにそう言い放つ。

彼女の頬に零れた涙を拭ってやると、どうしてラピスは泣かないのと怒られた。そんなの代わりに泣いてくれている人が目の前に居るからなのに。そう直接伝えるのは恥ずかしくて、男の涙は貴重なんだと言った。

「私、ステージには立たない。ラピスと踊れないなら楽しくないし、やりたくない」

「ダメだよ、主役がいなきゃ祭りは成立しないだろ」

「ラピスが立てないステージなんて無くなったっていいじゃない!!」

レイラがここまで意固地に主張するのは初めてだった。穏やかで平和主義な彼女は争い事を嫌った。自分の為に怒ってくれていると勝手に優越感に浸ってしまいそうになる。だからこそ、

「僕はレイラが主役に選ばれたのが心から嬉しい。僕がステージに立てない悲しさもどうでも良くなるくらい、ほんとうに嬉しいんだ。だからこれは僕の我儘なんだけど、レイラが主役のステージに招待してよ。1番いい席にさ」

正直悔しい気持ちはあるが、分かっていた事だった。ステージに立てないのはずっと誰にも言われなかったが、自分自身がぼんやりと理解していた。今はレイラを落ち着かせたい。

我ながらいい笑顔ができた気がする。昔から得意なんだ、ステージ映えする笑顔は。

レイラはじっとこちらを見て、諦めたようにため息をついた。

「分かった。納得は全然出来ないけど。ラピスのために主役、やるよ」

「ほんとう?」

「うん。だって」

よかった、と安心した僕の額をレイラは背伸びをし、人差し指で突いて言った。

「その笑顔じゃラピスに主役は程遠いよ」

ひらひらと手を振り、先程まで涙を浮かべていたとは思えない笑顔を太陽の下で振りまいてレイラは走り去ってしまった。残ったのは呆然と額に手を当てて立ち尽くすラピスと微かな花の香りだけ。


妖精のような彼女には何もかも見透かされていたようだ。

「敵わないなぁ」

ぼんやりと呟いたその声は、花の香りと共に青々とした空に吸い込まれていった。

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