8桶目
狼目線でそうろう
我に名前はない。
だが、この森の王としてこの世に生まれ、群れを引き連れてきた狼である。
自分でいうのも何なのだが、狼として、森の王として生まれてこの方数百年君臨してきただけの実力はあると、自負している。
ある日森の中心部に途方もない魔力爆発を感知した。
そしてその魔力爆発が収まると、並々ならぬ威圧感を放つソレが誕生していた。
遠く離れた此の地からも感知できるほど力を持ったソレからさらに、聖剣に似た波動を強く放つ得物を2本生み出した。
危険を感じた我は、子供たちに残るように言いつけ単独、確認に向かった。
場合によっては相打ちとなろうともこの森から脅威を排除するつもりだ。
今まで決まった範囲の中から出なかったのに、今になって森に出てきよった。
厄介な、む?川のほうに行ったぞ。
急がねば。
あやつか、って人間だと。
まさか、いやしかし化けてるだけかもしれぬ。
「ぐるるるる」
こちらに気が付いていないようだが、ちょっと威嚇してみるか。
気が付きよったわ。
まて、その身につけている防具はなんだ。
なぜそんなものからも聖剣と同じ……せ、聖剣も持っているだと。
我が知っている聖剣のそれよりはるかに強いぞ。
何者だ、正体を見せろ。
ゾワッ
「グルゥッ!?」
急に奴からのプレッシャーが、こ、この我ですら気圧されるだと。
ま、まて、なぜ近寄るのだ。こっちに来るではない。
いや、ほんと待って。
あ、もう無理、我オワタ。
「キャインッ」
はい、降伏。全面降伏。
こんな力持ってる化け物に勝てるわけがない。
なんで剣構えなおしてるの?
なんで振りかぶるの?
なんで降伏してるのに伝わらな……あ、相手人間だった。
『ま、まってくれ』
ふぅ、念話使えてよかった。
そんなこんなで敵意がないことを新しい我の主様に伝えられた。
え?新しい主さまがなんだって?
我もみすみす敵対してこの森を一族とともに滅ぼされるのを選ぶほど愚かではないのだ。
我と子供たちの前に並べられているおいしそうなものはなんだ。
肉は焼くだけでこんなにも美味な香りを生むのか。
果物も硬い皮が取り除かれて食べやすいように切ってある。
え?食べていいのか?
おい、子供たち。食べていいそうだぞ。
あ、こら待て、我の分も残しておけ、たのむ、ほんとガッつかないで、なくなるから。
新しい主さまは非常によくしてくれる。
美味しかった。
モフモフさせてほしいといわれたが、いくらでもするがよい。
我もモフられて気持ちがよい。
そもそも狼でありこの森の王である我は、秩序の為にも、我の体に何人たりとも触れさせるわけにはいかなかったのだ。我の番と認める者以外は、な。
我に合わせて部屋の大きさまで変更しよった。
その時の魔力の膨大な放出と凝縮、今は誰も出来ぬと言う魔力物質固定の魔法、主さまはもしかして過去に数度現れたと言う大賢者様なのかもしれない、と我はふと思った。
ところで、敬語とか長らく使っていなかったわけで、言葉遣いあってるのかひやひやしている。
主さまが大賢者様だとすると、機嫌を損ねるとこの森、いや世界が滅びかねないから気をつけねば……。




