36桶目
「で、コウあなた」
目の前のアリアはジト目で俺を睨んでいた。
「製法がオリジナルなのはわかったわ。ちなみにハイポーションの価値はわかっているの」
「いや、ただ存在しない、とエルフたちからは聞かされていた」
「そう。市井には広がってはないみたいね」
「なんだか胡散臭い商売はあるみたいだけどな」
「それは把握しているわ。見るからに怪しいダミーを流す情報の攪乱は常套手段よ」
「ということは、国があの商売を扇動しているのか」
「半分正解、半部不正解といったところね」
「じゃあいったい」
「私たちは情報を流すだけよ。あとは金に汚い奴らが勝手にやっていることだわ。もちろん、すべてとは言わないが、情報源ということもあって違法なことする奴はすぐ分かるから安心して頂戴」
「まぁ別にやり方は賢い、と思うし否定するつもりもない」
「話を戻すわ。ポーションの価値だけれど、そもそもこの温泉に満たされているポーションは我が国で作っているポーションよりもはるかに高純度なのよ」
「まじか」
「まじよ。あなた鑑定スキルは持っているの?」
「いや。そのスキルの存在自体知らない」
「え?」
「え?」
「どうやってこれ調整したの、というのはさっき聞いた製法知っていればできるわね。凡そ調整は実験でもしていたんじゃないかしら」
「まぁ、実験というより実体験か。エルフが協力してくれてな」
「えっ!? エルフが協力してくれたっていうの。そんなのありえないわ」
「ありえないといわれても、実際隣で暮らしているけど」
「た、確かに。でもそれはあなたの能力を見込んで利用しようとか、そんな感じじゃないの」
「いや、そんなことはないと思うけど」
「エルフがなぜ森の中で暮らしているか知ってる?」
「森とともに生きていく、とかそんな感じなんじゃないのか」
「違うわ。エルフは基本的に他種族を信用しない。ハイエルフに至っては同族のエルフのことすら信用していないわ」
「え、そんな……」
俺、もしかして利用されていただけなのか。
いや、でも色々と協力してくれているし、そんなことはないと信じたいのだが。
「そんなことないですっ」
背後から叫ぶ声が聞こえ、少し遅れて背中に衝撃を感じた。
振り向くと、エルが俺の背中から抱き着いていた。
「コウ様は信じてくれていると思っていたのにッ、私たちの命を助けてくれた方を利用するなんてありえません!! たとえ魔王様でも、私たちのことをどう言われようとかまいませんが、コウ様とのことに関しては撤回してくださいッ」
「貴様、ハイエルフの族長か? 盗聴防止結界を張っていたはずだがどういうわけだ」
口調が魔王モードに戻っている。
「私、魔力の流れが見えるんです」
「なに?」
「魔力って見えるものなのか」
「普通は見えぬ。見えるの者は魔眼持ちと呼ばれており、各コミュニティで保護されておる。貴様、もしや魔眼持ちかえ」
「魔眼持ち、と言われたことはありませんがこの力は話すな、と教えられてきました」
「そうか。ならば術式に侵入するのも内側の会話を聞くのも容易いことじゃな」
「そんなもんなのか」
「そんなもんじゃ。じゃから魔眼持ちは重宝されとるし狙われてもおる」
「ところで口調戻したところで、さっきの話聞かれてたなら意味ないんじゃないのか」
「あ……」
やっぱりこの魔王ちょっとドジ?
「まぁ、聞かれた以上は族長、貴女にもこのことは他言無用よ。話したら、分かってるわね」
口調がアリアになったな。
「は、はいいい」
一方のエルはビビり倒しちゃってるわ。
そりゃ仕方ない。
「あ、あの、魔王様」
「なに?」
「私、エルです」
「あら、そう。じゃあエルと呼ばせてもらうわね」
そう言ってアリアはエルの目を見てニッコリ笑った。
「ひぃぃぃ」
大してエルはまた、ビビりたおしていた。
自分で言ったくせに。
「エル、この効能はこの里の秘匿事項よ。外部に漏らさないように徹底なさい。コウ、貴方もよ、ことの重要性をきちんと理解してちょうだい」
「わかった」
「しょしょしょしょうちいたちまちた!!」
エル、噛みっ噛みのかみまみた。
「あと、私は定期的にここ来る事にするわ。魔王直属の大賢者とハイエルフとが共同で自治管轄するこの森を庇護下に収めた、という体の方が色々とあなた達も動きやすいでしょう。勿論、庇護下に入る必要は無いわ、ただそう見せるために定期的にここに来るってだけ」
「温泉に入りたいから、ではなく?」
「なんでわかったの!? じゃなくって、そんなわけないじゃない、いい加減にしなさい」
「ハイハイ、わかったわかった。ならばここで宣言させてもらうよ。俺のこの里、と呼べるかは分からないがこの治める森の代表として、魔王の庇護下に入る事を宣言する」
「私も、独断になりますが事後で族の承諾は得てきます。同じく、庇護下に入る事を宣言致します」
そう言って、片膝を月頭を垂れた。




