14桶目
一先ず危機は過ぎた、と言うことでいいのだろうか。
食事時になったという事もあり、魔王様を食事の間に案内した。
「魔王様、このようなものしか用意できなかったので、お口に合うかは分かりませんがどうぞお召し上がりください」
「よいよい、お主も一緒に食べようではないか」
着替えも乾き、漆黒に金の刺繍の入ったドレスを身にまとった魔王様が、見た目にそぐわぬ妖艶な笑みを浮かべて食事に誘ってきた。
「ではお言葉に甘え」
そう言って俺も席に着く。
「して、お主は人間なのか?」
「フグッ…ゴホッゴホッすみません。何と今?」
唐突に話しかけられびっくりしてむせてしまった。
「いや、お主は人間か?と聞いたのじゃ」
「ええ、人間ですよ?それがどうかしたんですか」
「そうか。いや、そうならよいのじゃ」
「???」
会話はそこで終わった。
ちなみに食事は非常に気に入ったらしく、とても美味しそうに食べていた。
俺は何か仕出かしたのかと胃が痛く、食事の味どころではなかったので、味については割愛させて頂く。
「美味かったのじゃ」
そう魔王様は言い残し、先に案内していた寝室に消えていった。
俺も挨拶を済ませると、自分の寝床に向かう。
今日はとても長い1日だった。
まさか魔王様が来るとは。
最初は泣くわ漏らすわで何処のチンチクリンが来たのかと思ったが、やはり魔王は魔王たる力を持っているようで、その片鱗が所々で溢れ出ていた。
可愛らしいけど恐ろしい、そんな印象だ。
そう色々と考えているうちに瞼が重たくなってきた。
明日は、銭湯についてちょっと聞いてみよう……。
「グッ……カハッ」
何者かに首を絞められ目が覚めた。
馬乗りになっている襲撃犯を力任せに殴り飛ばした。
「キャッ」
「キャ?」
女の声?
「何するのよ!あ、何するのじゃ!」
「その声は魔王様か、なぜこんなことを。やはりユキの事で責任を」
「違う違う、違うのじゃ。違うからとりあえずその手に持っている短剣を下ろさないか? たのむ、そろそろ限界なのじゃ。だから早うおろ……あ……」
と、月明かりに照らされた魔王様の足元ちは既に水たまりが広がっていっていた。
「なっ!見るな!バカっ」
いや、魔王様、キャラどこいった。
「魔王様、キャラぶれてますよ」
「キャラいうな!」
「とりあえずまだ服は無事なようですし、このバスタオル使って、その角の部屋にシャワー、簡易な湯浴み場ありますから。外行っていますので、終わったら言ってください」
俺は使い方を軽く教えると、感心する魔王様もといトラブルメーカーから逃げるようにそそくさと部屋を出た。
「もうよいぞ」
魔王様から声がかかったので部屋に戻る。
部屋に戻ると、俺のベッドに腰掛けている魔王様が居た。
「で、何故俺は襲われたのですか」
「それはじゃな、我が盟友のリル、あぁ今はユキと言うのだったな。ユキが主と認めるお主が何者か、知りたかったのじゃ」
「そんなことなら聞いてくれれば答えますよ」
「聞いても答えなかったから、こうなっておるのじゃ」
「え?いつ聞いたんですか?」
マジでいつ聞かれたのか。
「食事の時、お主は人間か?と聞いたじゃろ」
「あれですか」
「あれじゃ」
「人間ですけど……」
「それじゃ。あのユキという狼がどんな奴かお主は知っておるか?」
そこから聞かせられたのは、ユキの正体だった。
ユキは、この広大な銀狼の森と呼ばれる森の王で先代が死んでから数百年はこの森の王をしているそうだ。
その間、何度となく森の土地や資源など求めて攻め込まれてそうだが全て返り討ちにしており、そのうち銀狼の森などと呼ばれるようになり、国が確立した現在では治外法権の森となっている。
そこの代表であり、王であったのがユキという銀狼だそうだ。
そして、ユキの血筋、銀狼の王族とも呼べるそれは非常に強い力を持っており、魔王軍とぶつかり合っても互角かそれ以上の実力があったそうな。、
そのユキが自ら配下に収まった俺という奴が、ただの人間ではない。
ならば危機に陥れば正体を見せるはず。
そう踏んで、寝込みを襲ったそうだ。
ほんと迷惑な話だ。
敬語で話すのもだんだんイライラしてきた。
ムカつくからタメ口で話してやろ。
「でも本当に人間だぞ?そう言う魔王だって人間だろ?」
「わらわが人間? そんな冗談久々に聞いたぞ」
「いや、ユキはスグ狼に戻るけど魔王は戻らないだろ?それにそんなに可愛い見た目してるんだし」
「きゃ、きゃわ!? そそんなこと言ってもわらわは誑かされないぞ」
「別に誑かすつもりは無いけど」




