12桶目
まさかお漏らしされるとは思ってなかったので慌てて剣を収めた。
『主よ、なぜ剣を収めるのですか』
「いや、そんな小さい子がお漏らしまでしてびびってるんだし」
「誰がこどもじゃ!わらわは魔王であるぞ!てか漏らしたとかいうなッ」
「ほら、ショックでこんな意味不明なことも言ってるんだし」
『……』
「おい、リル。この木偶に説明してくれ。今回の件は穏便に済ませる、わらわも非があったなら謝るから、な?」
『魔王が命乞いとは、魔王も地に落ちたな。主よ、一応こいつは魔王です。先代の魔王は我とタメ張るくらい強かったんだが』
「うるさいうるさい!とりあえず下してくグヘァッ」
べちゃっと音を立てて自称魔王様が降ろされた。
『我も漏らした魔王なぞ咥えたくないしな』
「グスッ……」
ユキのよだれと自分から出た液体でできた水たまりに落とされて、ドロドロになった自称魔王が泣きそうな顔でこちらを見てきた。
「まぁ、なんだその、とりあえず中に入ったらどうだ」
「ぞう゛ずる゛……グスン」
ついには泣き出した自称魔王はずるずるとドレスを引きずりながらついてきた。
このままってのも可哀そうだし、風呂入ってもらうか。
でも俺が一緒に入るわけにもいかないし、どうするかなぁ。
さすがに一人で入って逃げられたらそれはそれで面倒なことになりそうだし。
かと言って、狼が一緒に入っても細かい使い方とか口で説明するよりやって見せたほうが早いだろうし。
「もう一人女の子がいれば一緒に入ってもらうんだけどなあ」
『なら我が入ろう』
「いやー、ユキも小さくなれるといっても」
『いや、そうではなく』
ユキが小さくなる時みたく光に包まれる。
光が収まるとそこには一糸まとわぬ姿の肩までの緩いウェーブの銀髪、出るとこは程よく出て引き締まるところは引き締まった美少女がいた。
「え?誰?」
「誰とは失礼ですよ、主。ユキです」
そう言ってプー、っとほほを膨らました。
「えっと、とりあえずなにか羽織ってくれないか」
俺は目のやり場に困って視線を泳がせながらその辺にいた狼にバスタオルを持ってこさせた。
「なぜ恥ずかしがるのですか?一緒に入浴もしましたし、しょっちゅう全身まさぐってるじゃないですか」
自称魔王ちゃんからじとっとした視線を感じるが、とりあえず無視。
「なぜかって、そりゃいつも狼の姿じゃないか。俺は単にモフモフしていただけだし」
「そうだったのですか……」
どうも納得いってなさそうなバスタオル姿のユキさん。
「ヘクチッ」
「と、とりあえずほら、自称魔王ちゃんが風邪ひくから監視もかねて二人でお風呂入ってきて」
「主さまも一緒じゃだめですか?」
「だめです」
「ぷー。仕方ないです。行ってきます。ほら、アリアも」
「リルよ、わらわも風呂とやらに行くのか。湯あみさせてほしいのじゃが」
「リル?」
そう言えば自称魔王ちゃんは、ユキのこと「リル」と呼んでいたな。
ところどころ顔見知りのような口振りも見せるし。
「それは過去の仮の名です。今は主さまよりユキという名を貰いました」
「名を貰ったじゃと?お主が?」
「はい」
「ところでリ、ユキは……」
紅白ペアは親しげに話しながら女湯の暖簾をくぐっていった。
あれ?意外と仲良かったのか?
でも自称魔王、アリアだったっけ?
連れてきたときは食い殺すような勢いだったのに、どういう風の吹き回しだろう。
牛の件でなんだか揉めてた結果のようだし、魔王というくらいだから強いのだろう。
できるだけ敵に回したくないし、できるだけのおもてなしはするか。
そうと決まれば急がねば。




