55、室内温水プール (1991年4月以降)高校3年生
1991年4月、僕は高校3年に進級した。
この頃から来年の事を見越しての報道がなされた。すなわち僕が芸能界に専念するか大学に進学するかの話題である。
現に色々な大学からのオファーが舞い込んできていて、広告塔として話題性が有るからだと僕はにらんでいる。
【『みかん』ちゃんの高校卒業後の進退はいかに?】
等の見出しで週刊誌等で騒がれている。話題性が有るので記事にしやすいのだろうと思う。
学校側からも芸能事務所側からも来年はどうするのか?と聞かれている。
僕としては、高校3年生の今を大切にしたい。進路についてはそのまま両立するつもりでいる。
その旨を伝えると、「『みかん』ちゃんの思った通りにしなさい。」と言われた。
このまま大学のどこかへ進学する事になるだろう。それはどこかわからないけど・・・。
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話は変わって、僕は小さい頃から水泳が好きだった。
その為小学校、中学校の夏場のプール授業が好きだった。
高校には温水の室内プールも完備されて、体育の授業ではプール授業もあり学校指定のスクール水着に更衣室で着替えていた。
僕の場合は特注で年ごとにスク水のサイズが変更して行き、今年で3着目となる。
規模は25m×7コース水深1.1m~1.3mの通常プール。
その隣に高さ10mの飛び込み台と水深10mの昔で言う『シンクロナイズドスイミング』いわつるシンクロが出来る場所も設けられている。
「『みかん』ちゃん今日はここでの撮影になるけど、準備は良いかい?」
撮影監督が僕に声を掛ける。
前もって学校側に承諾を得ており、セキュリティーの為にスタッフの皆には身分証明用のカードホルダーをかけてもらい、撮影スタッフに混じって不審者や部外者が入らない様に徹底した。
勿論学校側関係者にも身分証を下げて貰っている。
「はい。いつでもどうぞ。」
「可愛いよ。『みかん』ちゃん。スク水姿いつ見てもほれぼれするよ。」
「ありがとうございます。」
「では撮影を始めようかな?」
僕の周りには、撮影スタッフと学校の先生方がいる。それとエキストラの方々も。
「では撮影を始めたいと思う。エキストラの方もよろしくお願いします。」
監督が言う。
撮影内容は、シンクロ部で僕が先輩達のパフォーマンスの素晴らしさに感銘して自分も参加したいと夢想するが、とある挫折を味わい苦悩して最後は裏方に徹して応援団を結成する話だ。
挫折の理由として、僕演じる後輩の子は個人競泳と違い低身長な為他の部員との差から、部の監督からシンクロに向いていないと通達されてしまう事が原因であった。
そこで自分に出来る事を模索している内にレギュラー以外の部員達と応援団を結成してチアリーダーのリーダーとして陣頭指揮する事になり、最終的に高校総体で入賞して喜びを分かち合うと言う筋書きだ。
「よ~い!アクション!」
カチン!
「流石は先輩達、見事なコンビネーションだわ。息もぴったりでまさにシンクロしてますわね。
わたくしもいずれはあの様に泳ぎたいわ。」
先輩達のシンクロ競技の練習風景を見て感動する後輩の子。
「貴女は今のままだと出場出来ません。それは分かるはず。」
先輩は後輩の子にめがけて言葉を放つ。更に、
「確かに貴女は競泳ならば誰にも負けない能力がおありでしょう。
でもシンクロではグループの身長の平均よりも明らかに低身長の貴女は残酷だけど、
団体演技には向かないのよ。」
顧問の先生が言い放つ。
「ではなぜ、わたくしが入部した時に指摘してくださらなかったの?」
後輩の子が愕然とした表情で言う。
「それは貴女には泳ぎのセンスがあり、練習にもひたむきで毎日努力している為なかなか言えませんでした。
「それならなおさら・・・。」
悲痛な表情を浮かべる。
「皆、貴女の泳ぎの才能を認めていました。でもグループ演技した時に違和感が生じてしまう。
貴女は真面目で一生懸命に練習に取り組んでいた為、言い辛かったのよ。
「何て事・・・。そんな理由だったなんて・・・。」
非情な言葉に落ち込み悔し涙を流してその場にへたり込む後輩。
「ごめんなさいね。なかなか言えなくて・・・。」
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「カッ~~~ト!お疲れ様。」
「チェック入りま~す!」
監督と共に映像確認をする。
「いいよ、みかんちゃん。迫真の演技だったね。」
「ありがとうございます。」
「シンクロ部隊の先輩の役の子達もお疲れ様。」
「練習したかいがあった。」
監督のねぎらいと先輩役の人達の反応。
次は後輩達の筋力トレーニングの撮影が行われた。
これらは観ている方が過酷だと思う壮絶なトレーニングで、時たま苦しそうな表情の演技を求められた。
僕は体格のハンディを物とはせずにトレーニングに励む。
だが一生懸命トレーニングした所でレギュラーに成れない事を誰も指摘しない。
部活の時間が終わり1人、また1人と帰宅する中居残りで励む。
『少しでも周りの足を引っ張らない様にしないと・・・。』
部活動のキャプテンはその様な努力を陰ながら見守っていた。もちろん顧問の先生やコーチも。
だが現実は非情であった。
個人で泳いでいる時は優れていても団体競技となるとどうしても足を引っ張る。
試しに競泳させてみると良いタイムを記録した。
シンクロよりも断然競泳の方が向いてるのだが、本人の前ではどうしても言えなかった。
が、顧問の先生は意を決して言った。
あの運命の日に・・・。
「はい。カ~ット!。」
「お疲れ様。後輩の子達は衣装を変更してきて。」
「「「「「はい。」」」」」
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「では次のシーン。アクション!」
夢を砕かれたが閃いた。自分はレギュラーが無理なら裏方に徹しようと。
同じレギュラーになれなかった子達を誘い応援団を結成した。
チアリーダーになる決心をした瞬間であった。
翌日チアリーディング部に師事を仰ぎ、天性の運動神経の良さによりメキメキと頭角を現した。
皆基礎体力も既にあり、後は人数分の衣装の調達であった。
他の子達の分はあったけど、僕のは特注で大会に間に合わせる必要があり、急いで採寸して注文した。
月日は流れ、シンクロ大会当日チアのユニフォームを着て後輩達が応援する。
『私もあのシンクロの輪に入りたかった。けれど影ながら応援しよう。』
自分が出場出来ない悔しさをバネに笑顔を絶やさずに演舞した。
そのかいもありなんとか入賞を果たしてシンクロのレギュラー陣からも感謝されて大団円を迎えた。
「カット!皆お疲れ様。良い表情だったよ。」
それらはすぐに編集され放映された。
後日、シンクロとチアリーダーの物語のメイキング映像が公開され、撮影の合間の練習風景とか監督、僕のインタビュー、NGシーンも流れて好評をはくした。
この映像の公開後、他の競技依頼が殺到して事務所は対応に嬉しい悲鳴を上げていた。
後日談になるが、僕が卒業した後でも撮影現場として聖地化されて、CMやドラマ、映画、番組のロケ地として屋内温水プールの使用許可が高校に舞い込んでいた。
何度かお忍びで見学に来た事もある。本当に忍べていたかわからないけど・・・。
勘づいてる人もいたみたいだが、周りは気が付かないフリをしていたらしいとは後から聞いた話だ。
お忍びのつもりでいたが、番組に急遽参加と言うハプニングもあり、『みかん』ファンの方々は歓喜していた。
なんにせよ大事に扱われている。
水泳部やシンクロ部、チア部も人気の部活になり、部室には撮影当時の僕の写真や着用していた衣装のレプリカが飾られている。
本物の行方は、クローゼットの中に制服等と共に大事に保管している。
しばらくして、『みかん』展示館なる物が出来、数々の衣装やその時々の写真、映像が陳列されている。
また、アーカイブとしてその時々の時代に合わせた記録媒体に保存された。
マスターテープ等は大事に金庫に保管されており、厳重な施しがなされた。
展示物で人気のコーナーは女学生の3種の神器と言うべき、
セーラー服、ブルマ、スクール水着だった。
これらは学生時代へのノスタルジーを感じさせる物となっている。
他には様々な衣装。
例えばナース服や巫女服等。幼い頃からのステージ衣装も人気があった。
お土産コーナーでは僕のサインレプリカが人気を博していた。
後は当時の学校給食の再現も行われており、食堂では実際に注文する事が出来昔を懐かしむお客さんが多数いた。
小学校、中学校当時の給食時の僕の写真が並べられており、顔ハメ看板も飾られており制服姿、体操服姿諸々のがあり人気スポットになっていた。
疑似的とは言え、一緒に写真を撮る事が出来るので人気が出るのもうなずけた。
またしばらくすると技術も進化して仮想現実、いわゆるVRで、目の前に感じる事が出来、顔ハメ看板も人気だがやはり目の前にいる感覚を味わえるのでより一層人気が出た。
VR技術初期の頃はVR酔いや画質等問題視されていたが、改良に改良を重ねて今や嗅覚や触覚にも対応された。もちろん高画質化しておりより世界にはまり込んだ感覚になった。
数々のアーカイブから作成されたVR『みかん』は数々の賞を総なめにして、それが牽引となり様々な過去の俳優、女優、アイドル等の芸能人VRが発売、公開され好評を博した。
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