184、3人目の出産 1998年6月30日 妊娠10か月(40週目)
1998年6月29日の夜、出産兆候が出てきたので慌ててタクシーで産婦人科へ向かった。
「ひっひっふ~、ひっひっふ~、ひっひっふ~・・・。」
「鏡原さん、もう少しですよ。」
「ひっひっふ~、ひっひっふ~、ひっひっふ~・・・。」
僕は産まれいづる新たな息吹の登場を今か今かと呼吸を整えながら祈った。
そして、6月30日に日をまたぎ額に汗をかいて産みの苦しみを味わっていた。
ふと気づくといつの間にか横に雄蔵君が僕の手を握って励ましてくれていた。
「三花、頑張れもう少しの辛抱だ。俺がそばについているからな。」
「はい、旦那さんも呼吸を合わせて下さい。ひっひっふ~。」
助産婦の方が、雄蔵君に僕と呼吸を合わせる様に促してきた。
「「ひっひっふ~、ひっひっふ~、ひっひっふ~・・・。」」
「「ひっひっふ~、ひっひっふ~、ひっひっふ~・・・。」」
「「ひっひっふ~、ひっひっふ~、ひっひっふ~・・・。」」
それからどのくらい時間が経過しただろうか・・・。
遂に待望の瞬間が訪れた。
最初に頭が出て来て身体全身が出てきた。
「おぎゃあ、おぎゃあ。」
泣き声を上げる愛しい我が娘。
そして約1分後にへその緒が切られて助産婦さんが新生児を僕の顔に近づけてきた。
「鏡原さん、可愛い珠の様なお子さんですよ。」
「三花、よくやった。」
僕は我が娘の顔をいとおしい感じでみつめた。
「おぎゃあ、おぎゃあ。」
「元気なご息女ですね。母子共に健康状態は良好ですね。」
産婦人科の医師が言う。
「三花、この子の名前はもう考えてあるのか?」
「ええ、娘の名前は『由花菜』にしたいと思います。」
「なるほど、良い響きだ。名前に『花』が入っているけど自分の三『花』からきてるのかい?」
「ええ、それも有るわね。
『由』は「縁」や「情緒・風情」等、
『花』は雄蔵君の言う通り私自身との花繋がりと「愛らしさ」、「気取らない可愛らしさ」、「可憐でおしとやか」と言う意味が有るわ。
『菜』はどんな事が有っても明るくいて欲しいと言う想いを込めているわ。
それで『由花菜』としました。
雄蔵君はこの名前は嫌?」
「そんな事は無いさ。君が一生懸命考えた名前だろう?俺も良いと思うぞ。」
「ありがとう、雄蔵君。」
由花菜を片手に抱えて、もう片方の手で雄蔵君と握りあってお互いの顔を見つめ合っていた。
「おっほん!んっ!んっ!」
しばらく見つめ合っていると産婦人科の先生が咳払いをわざとらしくした。
それに気付いた僕らは慌てて離れた。
「仲が良いのは結構ですが、我々もいるのですぞ。2人だけの世界に入らないでくださると助かります。」
そうして母子共に何事も無い様なので分娩室より、病室に移動した。
由花菜には僕の母乳を飲ませて、満足したのか健やかに眠りについた。
僕の方はと言うと、出産の喜び等の感情で興奮してなかなか眠りにつく事が出来なかった。
その間雄蔵君にそばにいてもらい、話し相手になってもらって時間が過ぎていった。
7月5日に僕と由花菜は無事退院して自宅へと向かった。
しばらく僕は短期熟睡型の身体になっているらしく、由花菜が夜泣きして母乳を何回かあげている生活に慣れた。
≪雄蔵さん、今回は元男性がTS転生して出産体験したんだけど、感想はどう?≫
≪三花ちゃん、第1の人生で聞いていたし第3の人生でも出産したはずだけど数十年ぶりはやはりきついね。≫
≪それだけ?≫
≪いや、産まれるまでは苦しいけど無事出産した時の感動は何ものにも代え難いよ。≫
≪そうでしょう?わかるわ~。≫
≪所で雄蔵さん、出産したばかりだけどまだまだ子作りするの?≫
≪それは勿論さ。≫
≪やる気十分ね。≫
≪そうさ、僕は子供が好きだからね。≫
≪頑張ってね。私も応援するからね。≫
≪ありがとう、三花ちゃん。≫
そうして出産直後だけど、また次の子の為に雄蔵君と仲良くした。
『4人目以降も授かると良いな。』