160、社長室内にて 1994年8月9日 大学3年生
社長室前で秘書と話して控室で30分程待った。
そして社長室に僕と雄蔵君が呼ばれて入室した。
中には芸能事務所社長を筆頭に歌やピアノのレッスンの先生、その他の方々がいた。
「三花ちゃん、雄蔵君座りたまえ。」
「失礼します。」
「ここにいるメンバーは君達のユニットのデビュー曲のデュエット曲を担当している。」
「よろしくお願い致します。」
「まあ、何度も顔を合わせた事が有るだろうから自己紹介は抜きでいくぞ。」
「はい。」
社長が僕達に向かって言ってきた。
「ユニット名、『ユー&ミー』は良いと思います。まずは2人に似合った曲を書き上げたいと思います。」
「名前が平凡で簡単ではありませんか?」
「いや、君、平凡で親しみの有る名前だと思うよ。」
「社長がそうおっしゃるのならば、私は反対しません。」
まずは列んの先生が曲の作成について話した後、他の同席者の方がユニット名について意見を述べてきた。
が、社長の一言で黙ってしまった。
「君達、この事は僕と歌の先生しか知らない話で、今はまだ秘密にしているが実はこの2人は昨日入籍していて夫婦だ。苗字がともに『鏡原』でユニットのデビュー曲は鏡が埋め尽くされている所、例えばミラーハウス等をイメージした曲が僕は良いと思うのだが・・・。君達はどう思う?」
まずは社長が同席者に向かい話始める。
「それは良い考えだと思います。本名に隠されたメッセージ、これはいけるだろうと思い私は賛成します。」
歌やピアノのレッスンの先生が賛成の言を述べた。
その事がきっかけに同席者の方から意見がなされた。
「ですが、本名は秘匿しているので裏テーマのミラーハウスの説明はどういたしましょうか?」
「それは家族や同級生に分かる程度で良いと思います。本名を公表するのは控えるべきかと。」
「まあ、本名は既に知れ渡ってるかもしれませんがね。」
「三花ちゃんはそうだろうけど、雄蔵君の本名はまだ知れ渡っていないだろうから問題無いと思います。」
「まあ、なんにしても2人の入籍発表をしないといけない事になるんだが、何か良いアイディアは無いかね?」
「良いアイディアと言いますと?」
「いや、なに、まだ2人は大学生で世間的にはまだまだ子供だろうからな。」
「三花ちゃんは実に幼稚園の頃から活躍していますから、既に国民的アイドルになりましたよ。」
僕と雄蔵君を抜かして会話が弾む。
「私が国民的アイドルなんて買いかぶりすぎです。」
「いや、そんな事ないぞ。君は既に実績を持っている。そこに雄蔵君だっけ?君、大丈夫かい?」
「大丈夫かい?と申されるのは?」
「いや、なに、ぽっと出の君が三花ちゃんと対等にうまく出来るのか?と言う事だよ。」
「でしたら、歌唱力や演技を見てから判断してください。」
「おお、いいとも。私のおめがねにかなうかな?」
「ぜひ、挑戦させてください。」
「雄蔵君、落ち着いて下さい。」
「これが落ち着いていられるか。」
僕は心の中で、ドウドウと言い、雄蔵君になんとか落ち着いてもらう様に苦心した。
その同席者と雄蔵君のやりとりを見て社長はにやりとして、
「では別室に行こうではないか。雄蔵君、そこまでたんかを切るなんてよほど自信があるんだね。」
その言葉を聞き、僕は何か社長に考えがあるのだと悟った。
『頑張れ、雄蔵君。ぎゃふんと言わしてやれ。』
そう思いながら皆で別室へ移動した。