145、一大決心 1993年 大学2年生
『やはり若いっていいな~。』
昨日コンサートから帰宅した時に急激に気分が悪くなったが、一晩寝たら体調が元に戻った。
これも若さゆえの治癒能力だと思う。
前世の50歳代間際の僕ではそう簡単には治りそうにもない。
でも油断は禁物。僕は三花ちゃんと念話した。
≪三花ちゃん、もしかしてだけど女の子の日が近づいて来たのかな?≫
≪雄蔵さん、そうかもしれないわね。念の為に手荷物に生理用品は準備したの?≫
≪うん、一応毎日常備して携帯しているよ。≫
≪そうよね。今日は念の為に替えのショーツも用意した方が良いと思うわ。≫
≪そうだね。数枚カバンに入れておこう。≫
≪本当に気分は悪くないの?≫
≪今のところは快調だよ。≫
≪でも油断は禁物よ。≫
そう言う事で、僕は常日頃から万が一の時の為に常備している生理用品と替えのショーツの確認をした。
『うん、バッチリ。』
念の為に今日一日の健康状態を内面からでも確認してもらう様に三花ちゃんに頼んだ。
≪三花ちゃん、違和感があったらいつでも報告してね。≫
≪雄蔵さんも無理はしないでね。≫
≪ありがとう、わかってるよ。≫
≪では行きましょうか。≫
≪今日も一日元気に行こう!≫
≪おお~!≫
と言う事で僕は朝食を摂る為にダイニングに向かった。
既にダイニングテーブルの上には僕用の食事が準備されていた。
「頂きます。」
顔の前で両手を合わせて合掌して食事前の挨拶をする。
僕の場合は両肘がどうしても胸部の為に上に上がり水平になってしまう。
「三花、いつもは食欲旺盛のはずだが今日はどこか気分が悪いのかい?」
お父様が僕に心配した表情で言ってきた。
「なんでもありませんわ、お父様。」
「でも昨日は夕食摂っていないのだろう?大丈夫かい?」
「昨日は少し疲れが出たみたいですわ。でももう大丈夫です。」
「それならいいが・・・。最近の三花はこちらが心配になるくらい完璧であろうとしているからね。
三花も体調がすぐれない時もあるんだね。」
「それは当然ですよお父様。私はロボットではありませんからね。」
「ごめん、ごめん。三花を見ていると健康そのもので不調知らずという感じだったからね。」
「私も人の子。体調も崩しますよ。お父様は私の事、どう思っておいででしたの?」
「いや怖いくらい真面目で良い子だと昔から思っているよ。それに神の使いかもしれないと思う時もあるよ。」
「え~と、それはどう言う意味でしょうか?」
「いや、なに、昔から三花には人並外れた才能が有る様に思えるんだ。父さんにはできすぎた娘だとつねづね思っているよ。それがプラスに働いてる時は良いが、それが原因で周りは三花の事を放ってはおけないだろうね。だがマイナスに働いた時、すなわち周りが三花を利用して何かした時に問題事が発生するかもしれないと言う懸念があるんだ。」
「例えばどう言う事でしょうか?」
「そうだな・・・。ほら三花がまだ幼稚園の頃、購入するべき株の銘柄を教えてくれただろう?記憶に無いかもしれないが。」
「何となく覚えていますわ。」
「三花に言われた当時はまだまだの株価の企業の業績が上がり株価も急上昇している。それに株価下落の時も予知していたのではないかと言うくらい父さんの損害は無かった。他にも色々あるけど、最近の話だと冷夏で米不足になると予知していただろう?当たり過ぎて怖いくらいだったよ。」
「そう、でしたか・・・。」
「今後も三花を利用しようと近づいてくる不届き者もいる事だろう。財産目当てとかでね。
それで父さんとしては早く身を固めて欲しいと思っているんだ。母さんも同じ気持ちだよ。」
「それこそ俗に言う、『逆玉の輿』狙いとかありませんか?」
「まあ、その心配性はあるね。」
「分かっておいででしたらなんでまた今?そんなに私に家を出てもらいたいのでしょうか?」
「いや、そんな事はみじんにも思ってはいない。ただなんと言うか孫の顔を見たいんだ。」
「と言う事は婿を入れると?」
「まあ、そうなるだろうね。三花も出たくは無いだろう?」
「それはそうですが、それこそ金目当てが殺到するかもしれませんよ?」
「それは分かっているのだが・・・。困ったものだ・・・。」
「お父様・・・。」
僕は朝食の手を止めてお父様と話しをする。
そうしたら隣で聞いていたお母様が、
「で、三花ちゃんの気持ちはどうなの?」
「私の気持ち・・・。」
「そう、三花ちゃんはどうしたいの?」
僕はしばらく考え込む。
≪三花ちゃん、どうしようか・・・?≫
≪私は結婚も良いと思うけど、雄蔵さん、貴方の本心はどうなの?≫
≪う~ん、元男の僕が男相手に結婚はな・・・。≫
≪でも前回の3回目の人生では私と結婚したじゃない。≫
≪それは中身が三花ちゃんで、あくまでも自分自身だったからだよ。≫
≪でも男体化した私と結婚して孫まで産まれたじゃない。忘れたの?≫
≪いや、舞の事は忘れていないよ。≫
≪どうしても抵抗があるの?≫
≪うん、まあね。≫
≪その時は私が身体の主導権を取ってあげるわ。それなら雄蔵さん本人がしてるわけじゃないから心配無いわよ。≫
≪理屈では分かるんだけどね・・・。≫
≪なら問題無いじゃない。≫
≪そうだね、分かったよ。両親にも心配かけたくないからね。≫
僕と三花ちゃんとの念話で答えが出た。
「三花ちゃん、答えは出たの?」
じっと考え込んでいた僕を待っていたお母様が聞いてきた。
「わかりました。お父様とお母様が安心する為、子孫を残す為に私覚悟を決めました。」
「つまり?」
「お父様、私結婚します。ただし嫁に行くのではなく婿養子を希望ですが。」
その解答を黙って聞いていたお父様は、
「分かった。三花の意思を尊重する。では後は任せたまえ。」
「はい、よろしくお願い致します、お父様。」
その日、僕は決心した。2回目の人生でも結婚すると。今まで結婚しない僕の事が不思議に思われていたがそれも終止符を打つ。
果たして、どの様なお相手なんだろうか・・・。




